《聖が來るから君をすることはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、聖が5歳?なぜか陛下の態度も変わってません?【書籍化&コミカライズ決定】》第31話 ……でも気になる
「ええ、本當にもちもち。それに、とっても大きいわね。園子ちゃんのぼたもちもとっても大きいのよ。『いっぱいある方が嬉しいでしょう?』って……。だから、園子ちゃんのぼたもちを食べた日は、絶対お腹が空かないの」
私もホートリー大神も、ぼたもちを食べながらにこにことその話を聞いていた。
「園子ちゃんは、元気にしているかしら……。彼は明るい人だから、きっとたくさんの人を幸せにしているに違いないわ。……今の私を彼が見たら、きっと叱られるわね」
そう語る顔は落ち著いていて、私が覚えているころのしいサクラ陛下を思い出させる。
やがて、サクラ陛下がアイに手招きした。
張した顔のアイがとててて、と駆け寄ると、サクラ陛下が目を細めて笑った。
「ふふ……このお洋服、った時からずっと気になっていたのだけれど、桜をイメージして作られたのかしら? なんて可らしいのでしょう。小さな桜のね」
褒められて、アイがぱあぁっと顔を輝かせた。それから満面の笑みで、こくんとうなずく。
「アイちゃん、おいで。おばあちゃんが抱っこしてあげましょう」
ゆるやかにサクラ陛下の両手が広げられ、抱っこの構えがとられる。
一瞬、私はひやりとした。
ここに來た時、アイは大人が近づくだけでも震えていたんだもの。最近は見違えるほど明るくなったとは言え、突然の抱っこは大丈夫なのかしら!? ここは私が、やんわりお斷りをれた方が……!
けれど、私がを乗り出すよりも早く、アイがたたたっとサクラ陛下のもとに駆け寄った。そのまま抱き上げられて、アイが陛下の膝に乗る。
「まあ、なんて懐っこい子なのでしょう。そして本當にかわいいわ……。思えば、子どもを抱っこするなんてずいぶん久しぶりね」
サクラ陛下が嬉しそうに微笑むと、それを見たアイもにこーっと笑う。その顔に、張はない。
……アイ、いつの間にかずいぶんたくましくなったのね……!
私は安心し、同時に心した。
アイは、サクラ陛下が優しい人だということを本能的にじ取ったのかもしれない。だとしても、以前の姿を知っている私から見ると、今のアイの健やかさはとてもまぶしく、がいっぱいになる思いだった。
そうよね。子どもは、日々長するものね。それはきっと、私たち大人が思っているよりもずっと早く、しなやかなんだわ。
「アイちゃん、ありがとう。あなたがぼたもちのことを言ってくれたのでしょう? おかげで、おばあちゃんとっても元気が出たわ」
「ほんとう? ぼたもち、まほうだった?」
「ええ、ぼたもちは魔法よ。……それに、あなたや、エデリーンたちの優しい気持ちそのものが、きっと魔法なのね」
それから、アイをお膝に抱っこしたままサクラ陛下が私を見る。
「……エデリーン。私は決めました。アイちゃんの聖披式典に、後援として參加しましょう」
「陛下……!」
「私がどれだけあなたがたの力になれるかはわからないけれど、それでも何もしないよりはきっといいのでしょう。私もそろそろ、聖としての務めを果たさないと」
アイと同じの黒い瞳は、靜かに、強く輝いていた。
そこにはまぎれもない、往年の聖サクラが、しゃんと背筋をばして座っている。
「ありがとうございます!」
「いいのよ、お禮を言うのはこちらだわ。私は前陛下の……夫のことに、とらわれすぎていたのよ。彼以外にも私を大事にしてくれた人はたくさんいたのに、そのことをすっかり忘れてしまっていたわね……」
さみしそうに笑う陛下に、ホートリー大神が微笑む。
「誰だって、時には道に迷うこともありますでしょう。再び笑える日が來れば、それでよいのです。サクラ陛下が元気になってくれることをんでいる人は、たくさんいらっしゃるのですから」
「ホートリー……。お前にも、ずいぶん長い間苦労をかけましたね。お前に報いるためにも、私はもうし頑張ろうと思うわ」
「ええ、ええ。それでこそサクラ陛下ですよ」
ふたりはらかに見つめあって微笑んでいる。
……。
……。
……あら? このふたり、なんというか、ちょっといい雰囲気じゃなくて……?
一瞬そんなことを思ったが、私はすぐにその考えを打ち消した。
だ、だめよ。そういう、繊細で個人的な部分を憶測で勝手に決めちゃ…………でも気になる。
私が目を皿にしてサクラ陛下と大神を見つめている前で、膝に座ったままのアイがのんびりと言った。
「ママ、ヘーカは? ヘーカ、ぼたもち食べなくていいのかなぁ?」
「あっ」
私は聲をあげた。つい、ゆったりとぼたもちティータイムを過ごしていたけれど、ユーリさまは控室でずっと待っているのよね。ひとりぼっちのまま待たせるのもかわいそうだし、そろそろ切り上げるべきかしら……。
私が悩んでいると、サクラ陛下が言った。
「……ユーリが、來ているのかしら?」
「あの、実は……はい。控室で、待ってもらっていますわ」
私の聲が小さくなる。
これはホートリー大神から聞いたことなのだけれど、どうもユーリさまは前國王に外見がよく似ているらしく、それもあってサクラ陛下は顔を見たくないみたいなの。やっぱり々、つらいことを思い出してしまうからかしら……。
気まずさをじる私を前に、サクラ陛下はしばらく考えてから決意したように顔を上げた。
「……なら、呼んできてもらえるかしら。彼だけ仲間外れも、大人げないわね」
その言葉に、私とホートリー大神が驚いて顔を見合わせた。
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