《6/15発売【書籍化】番外編2本完結「わたしと隣の和菓子さま」(舊「和菓子さま 剣士さま」)》3・謎解きの柏餅/(五月)

薫風がベランダの鯉のぼりを揺らす五月、皐月。

花屋さんの店頭には菖の葉が並べられ、和菓子屋さんでは、端午の節句の祝い菓子として、柏餅が並びだした。

けれど、この季節になると、昔の古傷が疼く柏木(かしわぎ) 慶子(けいこ)さん。

小さいころのあだ名は、柏餅。

柏餅は好きだし、怨みもないのだけれど。嫌なことを言われた記憶というのは、十年以上経った今でも、悲しいかな、疼いてしまうものなのだ。それに加え、このところの筋痛も憂鬱な思いに拍車をかけ、慶子さんはブルーだった。

痛の原因は、四月から始めた剣道だ。高校三年生になって、初めてった部活である。ちなみに慶子さん、剣道は堂々たる初心者だ。

それなのに、剣道部のお家事により、子部の部長である山路(やまじ) 茜(あかね)さんから部と同時にめでたくも副部長就任を命じられた。

今月の終わりには、新生に向けての部活の紹介および勧がある。それまでに、なんとか先輩らしく見えるよう裁を整えるため、山路さんの指導のもと、慶子さんは毎日素振りと所作の復習に余念がなかった。

このスキルアップ。正直いって、アップアップ。

未だかつて、運神経と友好関係を築いたことのない慶子さんにとっては、なかなかハードな日々となっている。そんな中、唯一、慶子さんが剣道を続ける上でのがあった。この慶子さん、見かけの割に、腕の力と握力が、とてもよろしかったのだ。

剣道で使う竹刀は、四百グラム程度だ。けれど、それを長い時間、正しい位置でキープするのは意外と筋力が必要だ。竹刀での素振りについては、言わずもがなである。

慶子さんの様子に、山路さんは心ほっとした。と、同時に、もしやこれを知っての勧だったのかと、彼を引き込んだ同級生を思った。

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同級生は、鈴木(すずき) 學(まなぶ)君といい、山路さんからしてみれば、ひょうひょうとした、摑みどころのない奴だった。部活に対しても、熱心とはいえないが、不真面でもない。けれど、部員を勧してくるあたり、剣道部へのはあるのだろう。

一方、慶子さんによる鈴木 學君への評価は、山路さんのそれとは全く違う。慶子さんにとり鈴木君は、和菓子さまであり、剣士さまでもあった。とにかく、尊敬に値する人なのだ。

まさか、同級生のの子から尊敬の念をもたれ、このように呼ばれていることを鈴木君本人が知ったら、驚いちゃうこと間違いなしだ。

けれど、これは慶子さんの心の中だけにあるもので、緒でのことだった。よって、慶子さんと鈴木君は、穏やかに淡々と同級生の日々を送っていたのだった。

そんな、ある日曜日の朝、慶子さんは、注文した菓子をけ取るために、和菓子屋「壽々喜(すずき)」に向かっていた。

話は、一週間前にさかのぼる。

慶子さんは母親から、「壽々喜」で和菓子を注文してほしいと頼まれた。柏餅だけでなく、他にも菓子を注文したい。さらには、快気祝いとして渡す、ちょっとした菓子もお願いしたい。なんでも、母親の実家である祖父母宅に、二十名近くの親戚が集まるのだと言う。

長患いをしていた慶子さんの母親の快気祝いと、従兄弟たちの節句の祝いを兼ね、にぎやかに行うらしい。地方で暮らす伯父家族も、一家総出でやって來るそうだ。それを聞き、慶子さんの顔は強張った。なんとか用事を作り、行かないことにできないか。しかし、母親の快気祝いなのだ。欠席するわけにはいかない。

慶子さんは、菓子の注文のために「壽々喜」へ行った。いつものように「こんにちは」と、言いながら店の戸を開けると、カウンターにいた和菓子さまは、口に背を向け何やら作業をしていた。和菓子さまは、働き者である。慶子さんは思わず笑みを浮かべた。

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「いらっしゃいませ」和菓子さまが振り向く。

あれ。和菓子さまが老けた。顔も、いつになく強面(こわおもて)だ。聲も低く渋い。――あっ、違う。この人は、和菓子さまじゃない。

慶子さんは、言葉に詰まったが、和菓子屋さんの目にある刻みこまれた皺を見つけ、ふっと張がとけた。和菓子屋さんの雰囲気と、母親の主治醫の先生が似ていたのだ。あの先生も、いつも顔のあちこちに皺をよせ、難しい顔をした笑わない人だった。

だからといって、怖く、近寄りがたいわけではない。先生は、慶子さんの疑問や不安を、辛抱強く聞いてくれた。母親の病狀も、専門用語ではなく、慶子さんに伝わる言葉で話してくれた。母親の退院のときには、ぎこちなくではあったけれど、笑顔さえ向けてくれたのだ。その主治醫と、目の前の和菓子屋さんが重なった。

この人は、大丈夫だ。慶子さんはそう結論を出した。

「來週の日曜日なのですが、お菓子の注文をお願いしたいのです」

慶子さんは、母親からもらったメモを取り出し、時間、人數、大人と子どもの訳などを伝えた。

「端午の節句の菓子のご用意ということで、よろしいですか?」

和菓子屋さんの問いかけに、半分は節句だが、もう半分は母親の快気祝いであることを慶子さんは伝えた。すると、和菓子屋さんは、柏餅だけでなく、ちまきや節句に合った上生菓子の提案をしてきた。

「端午の節句の上生菓子ですか。それは、楽しみです」

慶子さんの顔が、ぱっと明るくなった。うそのない素直な彼の反応は、人の心にまっすぐに響く。和菓子屋さんも、強面のままではあるが、彼の家族が見たらあきれるほど、いつになく饒舌(じょうぜつ)に菓子の説明をした。

和菓子屋さんの話は、ブルーだった慶子さんをピンクにするくらい幸せなもので、彼はまるで雲の上に乗ったような、ふわふわとした気分になった。

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そして、快気祝いの菓子は、いくつかの縁起のよいモチーフの落雁の詰め合わせとなった。慶子さんの心は躍った。自分はなんて運がいいのだろう。柏餅のことなどすっかり忘れ、幸福に浸った。

しかし、それも長くは続かなかった。

柏餅の話になったからだ。粒餡、こし餡、みそ餡、ヨモギ餅。柏餅にも、バリエーションがある。そんなことを和菓子屋さんと相談するうちに、慶子さんは再びブルーになった。

「柏餅で、なにかお悩みですか?」

和菓子屋さんの言葉には、誠実さがあった。

「変なことを伺いますが、柏餅には、偽と本があるんですか?」

何を隠そう、それが慶子さんの柏餅ブルーの原因だったのだ。両親にも話していない。 何が何だかわからなくて、説明すらできなかったのだ。

そんな長年の悩みだった慶子さんの言葉に、和菓子屋さんがし愉快そうな顔をした。

「そう言われたことがあるんですね」

和菓子屋さんの言葉に、慶子さんは頷く。

「実は、小學校に上がって間もないころ、今回と同じ親戚の集まりがありました。そのとき、従兄弟から『おまえが食べているのは偽の柏餅だ』って、言われたんです」

「偽、ですか」

「はい。偽、です」

和菓子屋さんはし考えたあと、「それは、柏餅の餅が偽だって言われたんですか?」と、訊いてきた。

慶子さんは、思い出す。

「お餅というよりも、葉を。お餅を包んでいる柏の葉が偽だって言われました」

「こんな葉っぱ、柏餅じゃない! 偽だ! 偽柏餅!」

あの男の子はそう言うと、柏の葉を慶子さんに投げつけてきた。ひとりっ子でのんびりと過ごしてきた慶子さんは、それまで人からを投げられた経験はなかった。葉だからあたっても痛くはなかったけれど、人にを投げられたという事実に、慶子さんはショックをけたのだ。

しかも「偽柏餅」だ。柏木だけに、稚園の頃から男の子たちに「柏餅」と呼ばれていた。あの男の子は、慶子さんのあだ名が柏餅だなんて、知らなかったのだと思う。けれど、慶子さんにとって柏餅は、菓子であると同時に、自分のことを指す呼び名でもあったのだ。そのため「偽柏餅」と言われると、慶子さん自がダメだと言われたような気分になったのだ。

悲しかった。ぐしゃっと、心がつぶされる思いがした。

「そうですか。偽は、柏餅の葉ですか。ところで、そのようにおっしゃった方も、今度の集まりにいらっしゃるんですか?」

「來ると思います。母から聞いた參加者の名前にっていました」

「もしかしたら、お力になれるかもしれません。當日お渡しする柏餅が、その方への答えになるように、作ってみましょう」

力強い和菓子屋さんの言葉に、慶子さんは目がまん丸になった。これだけの報で、長年のあの謎が解けたのだろうか。まるで、謎解きの探偵さんだ。和菓子屋さん、凄い。

自信あふれる和菓子屋さんの顔を見ていたら、慶子さんは希が湧いてきた。和菓子屋さんは、信じられるひとだ。そうだ、この方は「師匠」だ。和菓子屋さんでなはく「師匠」だ。

慶子さんは師匠に「お願いします」と、勢い良く頭を下げた。そして、顔を上げたとき「かしこまりました」と言って慶子さんを見る、いたずらっ子のような師匠の瞳と、深くなった目の皺に、言葉にしがたい衝撃をけたのだ。

慶子さんの頭の中で、星くずがきらめいた。初めての経験である。

あまりの出來事に、慶子さんは何がなんだかわからなくなり、その何がなんだかわからないまま、お店をあとにした。

家に帰った慶子さんは、靴をいだまま、しばらく玄関で立ち上がれなかった。

そして、現在。慶子さんは、「壽々喜」の戸を開けた。

「いらっしゃいませ」

和菓子さまだった。慶子さんは、ほっとするような、気が抜けるような、妙な気分になった。和菓子さまは「壽々喜」の刺繍のった、帽子を被り上っ張りを著ている。

和菓子さま、良いな。やっぱり和菓子さまは、お店にいるのが一番似合っている。

カウンターには、柄のない紙袋が三つあった。そして、袋の橫には箱が二つ置かれている。

一つ目の紙袋には、束になって立てられた、ちまきがっていた。青々とした葉が、凜としている。二つ目の袋には、快気祝いの落雁の詰め合わせがっていた。落雁は、親指ほど大きさで、十二個全部のモチーフが違った。とにかく、がかわいい。パステルカラーの薄い黃や紫。水、ピンク、白など食べるのが惜しいほどだ。落雁のモチーフは、師匠から説明をけていた、小槌や鍵といった寶盡くしに加え、ブローチにしたいほどくるしい小梅や亀甲を模したものもあった。

三つ目の紙袋は空だった。おそらく、これから見せてもらう、箱にった菓子をれるのだろう。

期待通り、和菓子さまは一つ目の箱を開け、慶子さんに見せた。そこには、柏餅がずらりと並べられていた。しかし、その中に二つだけ見慣れない菓子があった。それに答えるように「これも、柏餅でございます」と、和菓子さまが言った。

「これが、本の柏餅ですか?」

「本かどうかわかりませんが、店主からは、この菓子が答えになるだろうと聞いています」

「これが答え、ですか」

よくわからないけれど、持っていけばどうにかなるのだろう。

和菓子さまはその蓋を閉めると、もう一つの箱を出し、ふたを開けた。

「うわ……」

まるで、おもちゃ箱のようだった。とりどりの繊細でかわいい上生菓子が詰まっていたのだ。赤い鯉のぼり、青い鯉のぼり、風に揺れる吹き流し、兜。そして、菖の葉や花をモチーフにした菓子。

同じモチーフながらも、練り切り[*注1]から寒天を使った見た目の涼しいものまでと、ありとあらゆる菓子があった。

「これ、この全部を師匠が?」

「……師匠。はい。店主が作りました」

激のあまり慶子さんは、心の中限定の「師匠」という名稱を、つい口に出してしまった。しかし、本人気付かず。おまけに、和菓子さまの微妙な表にも気が付かない。それほどに、慶子さんは箱の中にある節句のお祝いに見っていたのだ。

儚(はかな)いな。

こんなに綺麗なのに、心をこめて作られたものなのに。全ては食べるために――つまりは消えていくために存在している。季節に込めた思いも、このお菓子の向こうにある思いも、一瞬で消えてしまう。

それが、儚いと。

あぁ、そういえば。

仙壽を食べた時も、そんな思いがあった。

上生菓子は、菓子に込められた思いや世界観を、それを食べる者に見せた後、消えてしまう。あぁ、そうか。菓子は、食べて無くなってしまうからしいのだ。有限ゆえのしさだ。けれど、その思いがある限り、人は何度でも限りあるしさを作り出す。その繰り返しが無限へと繋がっていくのだ。それが、尊い。

慶子さんは會計を済ませると、お禮を言って家に帰った。そして、車に乗り、親戚の集まりへと向かった。

慶子さんには、従兄弟が十人いる。みな、男の子で、の子は慶子さんだけだ。そして、慶子さんは、従妹の中での上から二番目に年上だった。

一番上は、地方で暮らす叔父一家の長男で優(まさる)君、大學生だ。次が、彼の弟の修(おさむ)君と慶子さんだ。二人は同級生だ。そして、修君こそが「偽」発言の主だった。

思えば、あれも十年以上前になる。修君も高校三年だ。慶子さんに、柏の葉を投げつけてくるような真似はもうしないと思うが、心配だった。師匠からの「答え」の柏餅を守りのようにじつつも、心臓はばくばくとしていた。

祖父母宅には、既にみな集まっているようで、玄関は靴だらけだった。慶子さん一家が家に上がると、あちこちで赤ちゃんの泣き聲や小さい子たちの賑やかな様子が聞こえてきた。

慶子さんの母親の姿を見ると、涙ぐんでしまうおじさんやおばさんもいた。自分にとっては母親なのに、おじさんやおばさんにとっては、妹であり姉であるのが不思議でもあった。ともかく本日の主役である母親は、みなに囲まれて、嬉しそうだった。

「慶子ちゃんも、頑張ったね」

良子(よしこ)おばさんが、慶子さんの肩をぽんと叩く。良子おばさんは、母親の兄である伯父さんの奧さんだ。

「ほんと、よかった」

良子おばさんの目にも、るものがあった。

「おばさん、わたし、お菓子を持ってきたの」

慶子さんが「壽々喜」の袋を機に置くと、おばさんは「まぁ、まぁ」と喜び、「みんなおいで」と、ちびっこたちを呼んだ。そして、首をばし、視線を定めると「優、修、お茶運んで」と大聲で言った。

修君、やっぱりいるよねぇ。いけないと思いつつ、慶子さんはため息をついた。 想定、想定と心で唱えながら、わらわらと集まる従兄弟の中心で、「壽々喜」の紙袋から和菓子を取り出す。ちびちゃんたちがいるから上生菓子はあとにしよう。慶子さんは出した箱を機の奧にすっと押しやった。そして、柏餅がった箱の蓋をあける。

「あら!」

ちびちゃんたちよりも、良子おばさんの大きな聲が響く。

「まぁ、山帰來(さんきらい)の柏餅だわ。あらまぁ、東京でも買えるのね。まぁ、まぁ。ちょっと、優! 修! 早くいらっしゃい」

あっけにとられる慶子さんをよそに、良子おばさんがはしゃぎだす。すると、良子おばさんの旦那さんである伯父さんもやって來て「東京でも買えるのか」と、驚いたように言った。

優君が、大きなお盆に急須と湯呑と皿をのせてやってきた。そして、その後ろには、両手にポットを持った修君がいる。

優君が良子おばさんの側に來て「うわ、山帰來。苦手」と笑うと、「でも、修は好きなんだよな」と、修君を見た。

修君はゆっくりとかし、箱の中にある山帰來の柏餅を見て、顔をしかめた。

良子おばさんが話し出す。

「わたしが生まれ育って、今も家族で暮らす地域では、柏餅といえば、柏の葉でなく山帰來の葉二枚で餅を挾んだものだったの。それが、當たり前だと思っていたから、以前、東京に來た時に柏餅を見て、もう驚いちゃって」

「おばさんの家では、これが柏餅だったの?」

慶子さんが訊くと、良子おばさんは頷いた。

「そう。柏の葉っぱじゃないのに、柏餅なんて、言われてみれば確かに疑問を持ってもいいはずだったんだけど、不思議ね、全く考えたことなかったの。だから、わたし、調べちゃったわ。そしたらね、おばさんの住んでいる地域には、柏がないんですって」

「柏が、ない」

「そう。だから、昔からこの葉で挾んでいたんですって。それに、山帰來だけじゃなくて、地方によって柏餅には、いろんな葉が使われているとも書いてあったわ」

「いろんな葉っぱ。柏だけじゃないのね」

「おもしろいわよね。それに『かしわ』って言葉には『炊葉(かしは)』って意味もあるんですって。食べを包む葉はなんでも『炊葉』って呼ぶとも書いてあったかなぁ。なんか、々と深かったのよねぇ」

そう言うと良子おばさんは、みんなに和菓子を勧め出した。

慶子さんのとなりに修君が來た。

「もしかして、おまえ。覚えてた?」

慶子さんは、首を上下に振った。

「つーことは、これ、おれへの仕返しってやつですか」

仕返し。 慶子さん、首を橫に振る。

「あっそ。あのさ、すっげーいい訳していい? いや、しちゃうけど」

そう言うと、修君は山帰來の柏餅を手に取った。

「小學校にってすぐだったよな。あの集まり。その前だったな、両親が喧嘩したんだ。今から思えば、別にどうってことない口喧嘩の一つにすぎなかったんだと思う。だけど、俺は、それをやけに真剣にけ取った。たぶん、喧嘩の最中に親父が、やっぱり東京が便利だとかなんだとか言ったんだろうな。それに母親が怒って、東京なんて食べ一つ違うし、住めないわよ、とかなんとか」

で、柏餅。

「ほんと、今思うと、アホかってな話だけど、あの時は、おれは母親の味方をしないといけない気がしたんだ。そうじゃなきゃ、いけない気がして。で、おれも、東京の食いもんなんて、柏餅なんて食うかって。で、あーいうことに。ごめんな」

修君は言った。ほんとごめん、と。

その時の慶子さんの気持ちといったら、盆と正月と隅田川の花火大會が一度に來たような晴れやかさだった。

そして、なにより、修君の「すっげーいい訳」にが熱くなった。母親思いの修君なのだ。

また、反省もした。自分が食べているものが、東京で流通しているものがすべて「正解」で「當り前」なのだと、知らず知らずのうちに思っていたからだ。

――「本かどうかわかりませんが、店主からは、この菓子が答えになるだろうと聞いています」

の柏餅なんて、なかったのだ。誰にとっても、いつも食べる親しんだ柏餅こそ、本だったのだ。それが、答えだ。

そのあと、慶子さんたちは師匠が作った上生菓子を食べたり、夕飯には壽司の出前をとったりと、賑やかで、めでたく、おいしい一日を過ごした。

師匠が用意してくれた、落雁も好評だった。慶子さんは、和菓子さまからけた説明をとくいそうに、披した。

その日の夜遅く、父親が運転する車に慶子さんは揺られていた。いい一日だったな。慶子さんは、心の中で師匠と和菓子さまにお禮を言った。

柏餅ブルーから解き放たれた慶子さんは、し表が明るくなった。

と睡眠と神の安定により、もよくなり、高校三年生にしてようやく健康的な高校生子の雰囲気を醸し出してきた。 そして、それがの子として、ぐんと綺麗になる時期とぴたり重なった。

五月末の新生への部活の紹介で、あれこれく慶子さんの姿は、いつにもましてっていた。慶子さんは、特別人というわけではない。けれど、あんなの子が自分の彼だったら楽しいだろうな。側にいて、笑いかけてくれたら最高だろうなと、男の子たちが思うほどの、とびきり素敵なの子ではあったのだ。

「なぁ、剣道部の三年子のあの子、おまえと同じクラスだっけ?」

和菓子さまこと鈴木君あてに、こういった問い合わせが何件かきたことは、慶子さんは與り知らぬこと。

[*注1]:練り切り…あんの繋ぎに求、寒梅、つくね芋を使い、練り混ぜたもの。

「和菓子の絵事典」(PHP研究社)より要約

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