《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第04話 ダンジョンに潛る探索者!

「ふぁあ。よく寢た」

ハヤトは立ち上がってばした。カーテンの無い部屋に直が差し込んでチリチリと皮をくすぐる。日の出とともに起きるのはとても気持ちが良い。

《んにゃ……。……ん、朝か》

ハヤトの隣で浮いたまま寢ていたヘキサが目を覚ます。

「ちょい待ってろ。すぐ支度する」

《分かった》

彼はろ過した水を貯めているバケツの水をちょびちょびと使って顔を洗うと口をゆすいだ。その後、ボロボロになった防を著込んで、腰にポーチを付けるとベルトに短剣をしまい込む。

《武はいらんぞ》

「……ん。スキルか?」

《あぁ。お前のアクティブスキルである『武創造』は任意の武を生み出せるスキルだ。その分、裝備を軽くすることができる》

「でも、るときに武が無かったら面倒なことになるぜ?」

《それもそうか》

「じゃ、行くか」

時刻は朝の6時半。殘暑激しい太がキラキラと水たまりに反して煌(きら)めいた。

《おいおい、油くらいさせよ》

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まだ車通りもない道をギコギコと自転車が悲鳴を上げながら進んでいく。時折サビがはがれると地面をわずかに汚していった。

「大家さんに借りてるもんだから、あんまり弄るのも良くないかなと思って」

《いや、油を買う金がないだけだろ》

「…………」

事実だから何も言えない。

自転車を漕ぐこと5分。夜通しモンスターを狩っていた探索者たちとすれ違いながら、目的地へとたどり著いた。

《……これは、學校か?》

「元々ね」

七カ國に産み出されたダンジョンのり口は様々だが、その中でも日本は一際不幸な事故と共に産まれてしまった。何しろ、ダンジョンを産み出した隕石は、授業中の學校に激突したのだから。

全校生徒650名。教職員合わせて700名近い人間がダンジョン生と共に行方不明になった。生されたダンジョンに巻き込まれただの、隕石の衝突で亡くなったなど好き勝手に囁かれているが、何が本當のことなのか誰も知らない。

自衛隊、レスキュー隊による捜索も行われたが手掛かりは一つとして見つからなかった。

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結果、その學校は廃校になり、日本探索者支援機構(ギルド)が建を買い取って新しく新設した。ドロップアイテムの売買、食堂、シャワー施設、更室。あるいは武、防のメンテナンス施設。探索者を支援するための建を作ったのだ。

そして探索者たちは、その建のことも“ギルド”と呼んでいる。

また、ギルドは探索者の殉職率を下げるため、ダンジョンにる際にはギルドを通してダンジョンるシステムを作った。ICチップの搭載された探索者証(ライセンス)が、探索者の出りを管理し、連絡もなく三日以上ダンジョンから出てこない場合は救援隊がダンジョンへとることになっているのだ。

ギルドの中にると、十數人の探索者たちがダンジョンにるための場処理をしていた。ハヤトはいつもの付のところに向かう。

「こんちはー」

「ハヤトさん。おはようございます」

いつもこの時間にいる付嬢さん。三枝(さえぐさ)咲(さき)、24歳。

らしい小みたいな顔したである。揃いの付の中でもトップを誇る人気だ。ちなみに慶応卒らしい。

俺の學歴の傷がうずいちゃうね!

「昨日は4層でモンスタートレインに巻き込まれたと聞きましたが、大丈夫でしたか?」

「なんとか逃げ切りましたよ」

はははと笑って流すハヤト。ここでポーションを使いましたなんて言おうものなら、この後、絶対に面倒なことになる。

「今日はどこまで潛られますか?」

「3までかな。時間はいつも通りで」

「分かりました。では、探索者証(ライセンス)を」

ハヤトは近くにあるリーダーに探索者証(ライセンス)を読み込ませる。これでハヤトが失蹤する と、3層を中心に捜索が行われることになるのだ。命の最終セーフネットである。

「治癒ポーションは持たれていますか」

「はい」

そう言ってハヤトはポーチを叩いた。

「では、いってらっしゃいませ」

「はい。行ってきます!」

「ああ、そうだ」

いつもなら、そこで終わり。

の、はずなのだが急に呼び止められたハヤトの心臓が大きく高鳴った。

……バレたか?

ハヤトがそう認識した瞬間、

“【幻覚】スキルをインストールできます”

“インストールしますか? Y/N”

スキルインストールが本(ガ)気(チ)で騙す勢にった。

待て待て、もうしだけ様子を見てから……。

「昨日、衆人環視の中で治癒魔法を使った探索者さんがいるらしいですよ。勇気ありますよねえ」

ハヤトが冷や汗を垂らしているとは知らず、咲は世間話を振ってきた。

「そ、そうですね……」

やっべ。普通に忘れてた。

俺もしかしたら捕まるかも……。

《おいおい、それこそ【幻覚】スキルでなんとかなるだろ》

(あんまり、警察相手にスキルを使うのもなぁ……)

《だからなんでお前はそういうところで真面目なんだ……》

「使ったのはハヤトさんじゃないと思いますけど、くれぐれも外でスキルを使わないこと!」

そう言ってピシッとした姿勢を取る咲さん。けど、その小らしいらしさに思わず笑ってしまった。

「大丈夫ですよ。安心してください」

「はい。信じてます。それでは、行ってらっしゃい」

ハヤトは禮をして、探索者証(ライセンス)をにかける。探索者証(ライセンス)は、小さな金屬製のアクセサリーの形をしている。それは元確認(ドッグタグ)としても機能するからだ。

(人を騙すってのは、気乗りしないなぁ……)

《噓ついても向こうが死ぬわけじゃないし、そう気にするな》

奧に進むと、明らかに地球文明のではないアーチが見えてきた。石に謎の文字が刻まれたそれは、言語學者が解読しようとしているが手掛かりが無さ過ぎて、一向に進まないらしい。

アーチをくぐって中にると、3m四方の正方形の部屋へたどり著いた。その中に、地面から生えるようにしてダイヤモンドのように輝く一つの寶珠がある。

どういう理屈か知らないが、それをると同時にダンジョンに転移する。そして、一度訪れたことのある階層に任意にたどり著くことが可能になるのだ。

ハヤトはそれに手をれると、3階層と念じた。ぱっと、視界が黒く染まる。

目を開けると、レンガでできた迷路の中にいた。日本のダンジョンは5層まで迷路でできており、そこから下はファンタジー溢れる地形になっているともっぱらの話だ。

ハヤトは6層まで行ったことがないので、伝聞でしか知らないが。

「……やるか」

《では、私がお前にスキルを使った戦い方をレクチャーしてやろう》

「……頼んだ」

《簡単な三つのステップだ。まず一つ目は【武創造】で、武を作れ》

この階層はゴブリン、コボルトの中位種が主なモンスターだ。いわゆる、職業(ジョブ)持ちという奴らのことである。

モンスターは良いよなぁ。學歴無くても働けるんだから。

《おい聞いてるか?》

「あ、あぁ……。どうやりゃ良いんだ?」

《手を前に突き出して、お前が使いたい武を創造(イメージ)しろ》

「分かった」

手慣れているのは短剣。最初にやるには一番良いだろう。

そう思って目を瞑ると、目の前に短剣をイメージした。

新しくて、切れ味が良くて、刃がを反するような……。

その瞬間、ハヤトの目の前の空間が捻じ曲がると、ぞっとするような気配と共に短剣が手元に収まった。

《へぇ、初っ端から「AGI+1.2補正」の武を造るのか。ハヤト、お前才能あるよ》

「ほ、ほんとか」

産まれて初めて言われたその言葉に気分が高揚するハヤト。

《ああ、二つ目は【スキルインストール】にを任せろ》

「分かった」

“【強化Lv3】【心眼】【流離(さすらい)】をインストールします”

“インストールしました”

《そして最後に闘う。どうだ? 簡単だろ》

ヘキサがそう言った瞬間、ちょうどタイミングを合わせたように『ゴブリン・ファイター』が二。『ゴブリン・ソーサラー』一のパーティーと出會った。

「……ッ!」

ハヤトは伊達(だて)に二年間も探索者をやっていない。単獨(ソロ)でパーティーと出會った時の対処法は頭の中に叩き込まれている。この場合、まず撃破すべきは「ゴブリン・ソーサラー」。

なるべく早く遠距離攻撃持ちを撃破して、その後「ゴブリン・ファイター」たちを各個撃破する流れが最も王道だ。

そう考えた時にはいていた。

「強化」

みしり、と音をたてて【強化Lv3】が発。レンガの地面を踏みしめて跳躍。だが、「ゴブリン・ソーサラー」を守ろうとする「ゴブリン・ファイター」たちはハヤトに向かって戦闘態勢(ファイティングポーズ)。

鍛え抜かれた拳が子供くらいの背丈から放たれる。だが、それは。

「【流離(さすらい)】っ!」

ぬるり、と傍(はた)から見るものはそんな擬音語を聞いただろう。ゴブリン・ファイターの拳はハヤトのをかすりもせずに空を切る。

想定したより敵の接近が速かったゴブリン・ソーサラーの顔が驚愕(きょうがく)に染まる。

その瞬間、ハヤトの両目がうずくと視界が暗転。ゴブリン・ソーサラーの急所が明るくった。

……【心眼】だ。

そのまま短剣で貫くと一撃で絶命。黒い霧と共にドロップアイテムである『ゴブリン・ソーサラーの魔石』を落とした。

「……ふっ」

短く息を吐いて宙を舞う。【流離(さすらい)】のスキルによってが自的にいたのだ。すると、ヒュパッと空気を切り裂く音と共に今までハヤトがいた場所をゴブリン・ファイターの拳が通過する。

なんらかのスキルを使ったのだ。もしいていなければ致命傷を負っていただろう。そう思うと、ぞっとする。

普通なら、敵の主戦力を落とした後は各個撃破をするため都合の良い地形に移するのだが。

「往(い)けるッ!」

踏み込むと、【心眼】で見抜いたゴブリン・ファイターの弱點である首を短剣で突いた。

「ゴガッ」

変な聲を上げ、絶命。殘るは一匹。

「ギャァ!!」

仲間たちが為すもなく殺されたゴブリン・ファイターはハヤトに背を向けて逃げ出した。

“【流離(さすらい)】を排出(イジェクト)”

“【投擲(とうてき)Lv1】をインストールしました”

そして彼は短剣を投げた。ハヤトは産まれて一度として投擲の訓練をしたことはない。しかし投げられた短剣は、一直線に進むとゴブリン・ファイターの心臓を貫いて絶命させ、黒い霧と共に霧散した。

《私が見抜いた通りだ。やっぱお前、攻略者に向いてるぜ! ハヤトっ!!》

「……俺がゴブリンたちを一瞬で」

普通、あの組み合わせを無傷で相手しようと思うと準備も含めて二時間はかかる相手だ。

それを、一瞬で。

《狀況把握能力がお前は高いんだ。探索者を二年間やってきた甲斐があったな》

「……無駄じゃなかったのか」

ずっと、意味のない毎日だと思っていた。

ずっと、無価値な人生だと思っていた。

だが、

《ああ、お前の努力は実を結んだんだ》

「無駄じゃなかったんだなっ」

そう言って涙を流すハヤトをヘキサは優しい目で見つめていた。

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