《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第07話 記録更新の探索者!
「に、2まん3ぜんえん……」
ハヤトは目の前に表示された金額を五回ほど読み直して、息をのんだ。
「はい! 昨日に続いて最高記録更新ですね! 凄いじゃないですか」
「えっ、あの、これって、夢じゃないですよね……」
「もっと自信もってください!!」
「……俺が、1萬円の壁を越えられるとは……」
1日あたり1萬円を稼げるようになれば、探索者としてまずまずといったレベルだ。完全週休二日制を取ったとしても一か月あたりの収益は20萬。十分暮らしていけるだけの収となるからである。
そんな中、今日ハヤトが稼いだのは2萬とちょっと。それだけ稼げれば、完全週休二日制を取っても手取りで40萬だ。
「これでダンジョン退出処理が終わりです。今日も一日、お疲れさまでした!」
「は、はい。お疲れさまです……」
未だに現実がけれられていないハヤトはそのまま踵を返して、駐場に向かった。
《ほー。今日の訓練で2萬を稼ぐか。手慣れれば今のウン十倍は堅いな》
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(…………に、二萬円)
《今日はちょっと豪華な食事でもとったらどうだ》
(……そうするよ)
《ダンジョンに潛るうえで一番大切なのは強さでも、才能でもなくて、モチベーションだ。まあ、極貧生活を2年間続けたお前なら大丈夫だと思うが……。なぁ、なんでお前二年間も潛り続けたんだ?》
(……俺の記憶を見たんなら、分かるだろ)
《記憶で見るのは映像だけだ。お前の心までは分からんよ》
(認めてほしかったんだ)
《……両親にか》
(あぁ)
《…………葉うと良いな》
(どうだろうな。俺は別に今のままでも良いと思ってるぜ?)
《……ふぅん?》
(特に生活に困ってるわけじゃないしな)
《……特に……困って……ない?》
ハヤトは自転車に乗ると、沈む夕日を追いかけるようにギコギコと音を鳴らしながら帰路についた。その途中にあるコンビニに自転車を止めると、そこで深呼吸を一回。
「ここだ……」
いつもは金がないからと店を諦めていたが、今日は違う。
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(……行くぞッ!)
《えっ、なんでそんな張してんの》
思念とは言え、ハヤトのの様子が手に取るように分かるヘキサはそう尋ねた。
(……初めてなんだ。コンビニにるの)
《…………噓だろ?》
(マジだ)
《二年前までは普通に家で育ってたんだろ? コンビニの一つや二つ、ったことがあってもおかしくないだろうよ》
(……ほら、実家(うち)厳しいから)
《あぁー》
ハヤトの過去を見て、納得した様子を見せるヘキサ。
ハヤトはさっそく覚悟を決めると、コンビニの中にった。
「っしゃいませー」
やる気のない店員の聲が店に響いた。ハヤトは高鳴るを抑えながら、向かうは菓子コーナー。その中にある赤いパッケージのポテチを手に取った。
《商品はちゃんとレジに持っていくんだぞ。分かってるか?》
(あ、あぁ。大丈夫だ。何回もテレビで見たことがある)
《ほんとに大丈夫か……?》
ハヤトは恐る恐るといったで、ポテチをレジに置いた。
「お願いします」
店員がポテチのバーコードを読み取っている間に、ハヤトはについている探索者証(ライセンス)を取り出した。
「電子マネーっすね」
「……はい」
店員が素早くレジを作する。
「そこにタッチしてください」
店員に教えてもらった場所にハヤトが探索者証(ライセンス)をかざすと、電子音と共に決済が完了する。ハヤトの契約プランはデビットカードのように、口座の中にある分だけ探索者証(ライセンス)で支払いできるという奴だ。中にはクレジットカードのようなタイプもあるらしいが、會の審査があるのでハヤトは手を出していない。
「ありがとうございましたー」
間延びした店員の聲は、しかし期待に溢れるハヤトの耳に屆かない。
(っしゃぁッ!!)
《……そ、そんなに喜ぶことか?》
(いやあ、死ぬまでに一回は食べたかったんだよ。これ)
《…………そっか》
ヘキサは彼に突っ込むことを止めた。自分が想像していたよりも、彼の生活レベルの低さに嘆いている。
《……ハヤト》
(……ん?)
自転車のカゴにポテチを放りれ、夕暮れの中を進む。
《……私が來て良かったな》
(そりゃ勿論! 謝してもしきれないくらいだ)
一切の曇りない言葉に、自分で言っておいて恥ずかしくなったヘキサは、
《菓子だけで夕食を終わらせるなよ。ちゃんと野菜も食べろ》
(へっ!?)
そう言って、誤魔化すのだった。
「今日は5階層まで行ってみます」
「……大丈夫ですか?」
ハヤトが咲にそう言うと、彼はとても心配そうにハヤトを見た。他の職員の中には、探索者が己の力量以上の場所に挑もうとしても事務的に作業を終わらせる者が多い。そんな中で彼は、探索者が適したレベル以上に挑もうとするとまず心配する。
可らしい彼に心配されて嫌な気になる者はいない。當然、ハヤトもその中の一人である。
「そろそろ挑戦しなきゃいけない頃だと思いまして」
「分かりました。急時はすぐにSOSを出してくださいね! 私がちゃんと見ておきますから」
そして、とてもまじめに探索者のSOS発信を拾ってくれるのだ。そんな人柄の良さが、付のNo,1人気に繋がっているのだろうと思いながらハヤトは5階層に移した。
《ん? お前、5階層に來たことあったのか》
「昔ちょっとだけいたことあるよ」
ダンジョンにるときの寶珠は、一度でも訪れた階でないと來ることができない。
《なんだ、そりゃ》
「強すぎて逃げかえったんだよ。んで、4層でも安定して狩れないから3層に潛ってたってわけ」
《賢い判斷だな》
「中卒だけどな!」
《一々、お前のコンプレックス出してくるなよ。突っ込みづらい》
慣れ親しんだやり取りをしながらハヤトは當てもなく迷路の中を進む。歩きながらその手に創造するのは雙剣。刃渡りは互いが干渉しないようにと80cm。それぞれデザインを変えようかと思ったが、オシャレポイントを出すのはもうし基礎を積んでからでも良いと思って無骨なデザインにした。
これもこれで有りっちゃ有りだな。うん。
《そういえば、なんで5層なんだ? 順當に実力を上げるには4層でも良いだろう?》
「初心者の壁みたいなところなんだ。5層は」
歩きながらハヤトは解説していく。
「敵の強さが3、4階層より一回りくらい強い。だけど、6階層は5階層とは比べにならないほど強いから、初心者のために力をつけるにはこの階層が一番良いんだよ」
《意外と考えてるんだな》
「中卒だけどなっ!」
《だーかーらー》
ヘキサがため息をついた瞬間、目の前にモンスターの気配。【索敵】スキルが無くとも、ある程度の索敵はできるようになっている。ハヤトは全のセンサーを周囲に張り巡らせて、敵の位置を探る。
「……《ワイルド・ウルフ》だ」
剎那、索敵に有り。目の前を2m50cmはありそうな巨が通過した。よく見ると、その前をスライムのようなモンスターが逃げている。
《……ん?》
それを疑問に思ったのはヘキサ。この世界のダンジョンにおいて、スライムは1階層のモンスターだ。間違ってもこんな下層にいるモンスターではない。
“【強化Lv3】【雙剣の心得】【華麗なる剣舞】をインストールします”
“インストール完了しました”
「はっ!」
ハヤトは迷路の壁を三角蹴りの要領で飛び上がると、無防備な「ワイルド・ウルフ」の背中に刃を突き立てた。
突然、背中に衝撃が走ったワイルド・ウルフは足を止めて背中を壁に叩きつける。ハヤトを叩き落とそうとしたのだが、それより速く彼は離。
「踴ろうぜ」
アクティブスキル【華麗なる剣舞】を発。スキルのおかげで自的にがき、ワイルド・ウルフのを削っていく。だが、リーチの短い雙剣では致命的な一撃になりえない。
だから、
「ふっ」
ハヤトは雙剣から手を離して霧散させると、頭の中に別の武をイメージ。
《馬鹿ッ!!》
昨日、さんざん訓練して【武創造】にかかる時間は短くなっているとは言え、未だ実戦で使えるレベルではない。
だから、その隙を見出したワイルド・ウルフがハヤトめがけて飛びかかる。
しかし、それより速くハヤトが生み出したのは一切の裝飾がされていない両手剣。取り廻しづらいが、一撃の重さは折り紙付きだ。
“【華麗なる剣舞】を排出(イジェクト)”
“【鈍重なる一撃】をインストールします”
“インストール完了”
「オラァッ!!」
スキルを発させると、ワイルド・ウルフの巨が地面に沈んだ。すぐに黒い煙となって、ワイルド・ウルフのが霧散すると、中にワイルド・ウルフの皮が殘った。
並みの良さと、手れを念りにしなくても長持ちする利便から高く売れる素材の一つだ。防水、防寒能が高いのも売れ行きを支えるポイントの一つである。
「よし、どうよ」
《いきなり実戦で使うやつがあるか、この馬鹿ッ!》
「おいおい、何キレてんだよ」
《一歩間違えれば死んでたかも知れないんだぞッ! もっと自分のを大切にしろッ!》
「いや……俺は……あんたに褒めてほしくて……」
ハヤトがそう言ったものだから、ヘキサは言葉に詰まった。
《………………今度から気を付けるんだぞ》
ヘキサは気恥ずかしさを誤魔化すために咳払いを一回。
「……ん? スライムか」
ワイルド・ウルフの皮を手にしたハヤトの目の前に現れたのは長50cmのし大きなスライム。
《……いや……まさかッ!》
とある事象を思い浮かべたヘキサがんだ。
「ん?」
《るなッ! 逃げろッ!!》
スライムらしきモンスターはをぶるぶる震わせると、ハヤトめがけて飛び込んできた。
「あぶねっ!」
ハヤトはそれをギリギリで回避。スライムは飛びかかるタイミングを狙いすますかのように、今度は勢を低く取った。
だが、ハヤトとしてもそんなのに付き合ってる暇はない。一目散に踵を返すと、全速力で逃げ出した。
「なんなんだ、アイツはッ!?」
通常のスライムが、こんな下層にいるとは考えられない。ならばあれは、
《あれは奉仕種族(メイディアン)だッ!》
「……は?」
《れたら死ぬまで奉仕されるぞッ!!!》
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