《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第09話 決意する探索者!!
ダンジョンから連れ出したエリナが、法律的にどのように扱われるのか分からなかったので咲に相談すると、
「うーん……。多分ですけど、従魔(フォロワー)と同じ扱いだと思いますよ?」
「従魔(フォロワー)って、モンスターテイマーとかの、ですか?」
「はい。そのモンスターテイマーの方々が使役されているモンスターたちと同じということです」
基本的にスキルはダンジョンに潛った時にランダムに振り分けられる。最初はスキルを持っていないという人もいるし、逆に5個とか6個とか持っている人もいる。その中に、ダンジョンのモンスターを使役して使うというスキルホルダーがいるのだ。
武をもたず、己と使役(テイム)したモンスターたちでダンジョンに潛る彼らのことをモンスターテイマーと探索者たちは呼んでいる。
「じゃあ連れて帰っても大丈夫ってことですかね?」
「法律的にはオッケーだと思いますよ」
既に法律的にアウトなことをやらかしているハヤトはし、法律(ルール)に関してシビアになっている。これ以上罪を重ねるわけにはいかないのだっ!
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基本的に使役(テイム)されたモンスターが他人を襲うということは無い。例外は、使役者(テイマー)が指示を出したときだけだが、そんなことをすると速攻警察が飛んできてお縄である。
というか、そもそも普通の人間はそんな罪を犯さない。
「変なことしちゃダメですよ。ハヤトさん」
「ははっ。大丈夫ですよ。そんな気概ありませんから」
《自分で言ってて悲しくならないのか?》
「エリナちゃん……。でいいのよね?」
「はいっ! エリナです。ご主人様共々よろしくお願いします」
「良い挨拶できるのね。ハヤトさんはし生活が荒れてるみたいだから、生活面をよろしくね」
「お任せください! ご主人様を立派な人間にしてみせます」
……二人そろって俺のことを生活破綻者だと思ってないか?
「ハヤトさんは今日はこれでダンジョン攻略は終わりですか?」
「いえ、この子を家に連れて帰ってからもう一度來ようと思ってます」
「では、お待ちしておりますね」
ハヤトは咲に別れを告げて、帰路へと就いた。ギコギコと音を立てながらママチャリが進んでいくが、いつもと違うのが後部座席にもう一人乗っていることだ。
「わぁ! 凄いです! これが自転車なんですね!!」
「二人乗りなんて初めてだ」
《法律気にしているのに二人乗りは良いのか、ハヤト》
「警察も一々止めんでしょ、二人乗りなんか……」
ということで一切の障害なく家についたわけだが、
「…………ここに、住んでるんですか?」
ハヤトの家に著くなり、エリナがそう言った。
「うん。ちょっと狹いけど、良いところでしょ?」
「家賃はおいくらなんです?」
「1萬2千円」
「でもダンジョンまで自転車で五分ですよね?」
「うん。だってここ事故件だから」
「…………自殺ですか?」
「ああ、五人連続で」
《ハヤトも死のうとしていたから六人連続になるところだったな》
そう言ってはははと笑う二人。
「な、なんで笑えるんですか!」
「どした? 幽霊が怖いのか?」
「幽霊もそうですけど、六人連続で自殺とか絶対なんかありますよっ!」
「大丈夫、何にも無いから」
「……信用できない」
「大幽霊が出ても俺、祓えるし」
《霊師として働けばどうだ?》
「中卒霊師はちょっと怪しさ満點だろ?」
そう言ってがははと笑う二人を冷たい目で見るエリナ。
「とにかくここは、人の住む場所じゃありません! まさか家がこんなご(・)ざ(・)みたいな布団だけとは思いませんでしたっ!」
「辛辣ゥ―!」
「冬とかどうしてるんですか」
「古紙回収の時に新聞紙を拝借して」
新聞紙は意外と保溫が高い。
「噓でしょ?」
「マジだ」
その目に一切の噓がないことを読み取ったエリナ。ハヤトの脳を読み取って學んだ社會常識がここでは一つとして通用しないことををもって痛。
「服は……三著だけあるんですね」
「まあね」
半袖、半袖、長袖である。
「でも、基本的にダンジョンに潛ってるから服を著ることはないんだよ」
「ないんだよって……その防は何年使われてるんですか?」
「1年半かな」
「そんなにボロボロになっちゃって……。いざって時はどうするんですか?」
「ほら、治癒ポーションがあるから」
《ん? あれからドロップしたっけ?》
「あっ……」
やっべ、普通に治癒ポーションないこと忘れてた。
「どうするんですか!!」
「……どうしようもないね」
「防、新調しないんですか?」
「……ううむ。それは難しい質問だ」
「どうしたんです。急に改まって」
「二人は社會常識は知っているみたいだけど、的なことはいくつか抜けがあるだろ?」
「はい。私はあくまで、日常生活を送るうえで必要な最低限度しか學んでいませんから」
《私も似たようなものだな。ハヤトの記憶を読み取っているから、お前が知らないことは私も知らない》
唐突にハヤトが切り出したにもかかわらず二人はそれに頷いた。
「ではここで、問題ですっ!」
「は、はい?」
《急にどうした?》
「この防、幾らでしょう」
そういってハヤトは手にした防を掲げた。
「これはダンジョン製品を取り扱ってる『D&Y』の初心者向け(エントリーモデル)。それを初売りセールの30%オフかつ知り合い価格でそこからプラス20%オフしてもらって買ったものだが」
「えっ、50%オフってことですか?」
《相変わらずケチ臭いやつだな……》
ヘキサは無視。
「そう。そういうこと。それで幾らだと思う?」
《50%オフして、4萬とか5萬とかじゃないのか?》
「うーん。私もそんな所だと思います。6萬とかじゃないですか?」
「12萬だ」
《……は?》
「50%オフで12萬だから、普通に買ったら24萬だ」
《……初心者向け(エントリーモデル)だろ? それ》
「ああ、だけどそれくらいする。こっちの短剣は防を買った時におまけで貰ったものだが。こいつは普通に買うと5萬は超える」
「……な、なんでそんなに」
「ダンジョンのモンスターに対して、有効な防の素材はダンジョンのモンスターからしか採れないからな。例えば今日エリナにあげた皮があったろ? あれを普通に売ったら2萬近くする」
「ぴぇっ!?」
《良かったのか? そんな高級品》
「で歩き回らせるわけにはいかないだろ……。とにかく、ダンジョンの中から採れる素材は希で、高価なんだ。あんまりポンポン買えるようなものじゃないんだ」
「ごめんなさい、ご主人様。そんなことだとは知らず……」
腰を90度に折り曲げて丁寧に謝罪するエリナ。だが、一方のヘキサは、
《でも、今の稼ぎなら一か月で買えるな》
笑いながらに、そう言った。
「ん?」
《だって昨日のお前が2萬ちょい稼いだだろ?》
「そうだな」
《あれが限界だったか?》
「まさか。まだまだいけるよ」
《だろう。それなら、お前はもっと上を目指せるはずだ》
「……そうかな」
《今日、5層の「ワイルド・ウルフ」と戦ってみてどうだった。きつかったか?》
「いや。別にそうでもなかったけど……」
《ならもっと上に行けるということだ。ということはもっと稼げるってことでもあるんだぜ?》
「そう……か。そうだな」
ハヤトの目に炎が燈る。
「決めた。俺は潛るよ、ダンジョンに」
そして、決意を口にした。
《良い心がけだ。ははっ、お前の決意で『地球』は救われたぜ?》
「大げさだなぁ」
《大げさなもんか。私はお前ならできると信じてるんだ》
「そうですよ! ご主人様ならできますよ!!」
《何はともあれ潛るなら的に目標を決めよう。どうする? いつ、前線攻略者(フロントランナー)になる?》
その言葉にハヤトはしばし考え込んだ。前線攻略者(フロントランナー)、夢のまた夢のような響きだ。昔のハヤトなら、そんなものはなれるわけがないと一蹴しただろう。
だが今のハヤトは期待されている。自分は今まで幾度となく期待を裏切ってきた。父の期待を、母の期待を、家の期待を裏切り続けた。
だから、これ以上誰かの期待を裏切るわけにはいかない。
「……一か月だ」
《ほう?》
「俺は一か月で前線攻略者(フロントランナー)になる」
現在攻略されているダンジョン階層は22層。
星の寄生蟲たる「ダンジョン」が生している階層は52層。
《良い貌(ツラ)してるぜ、ハヤト》
誰も知らない、人類の反撃がここに決まった。
なんとレビューを頂きました!!!
ありがとうございます!!!!!
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