《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第12話 文化的で最低限度の生活!
「ふんふん~♪」
どこかで聞いたことあるような、それでいて思い出せない曲を鼻歌で歌いながら、エリナがハヤトの手を取った。
「今日はどこ行きましょうか、お(・)兄(・)様(・)」
「……やっぱり普通に兄さんとかにしてくんない?」
そう言った瞬間に、ガラガラのホームに電車がり込んできた。
「いやです! さ、乗り遅れないようにいきましょう!!」
エリナは満面の笑みでそう返すとハヤトの手を取って電車へと乗り込んだ。
……この子、意外と我が強いよね。
事の発端は前日の夜、ダンジョンの7階層に到達し有頂天で帰ってきたハヤトを出迎えたのは溫かい食事と、新品の生活用品。そしてエリナだった。久方ぶりに食べる人間らしい食事に涙を流していると、エリナが言ったのだ。
「服を買いに行きましょう」と。
それに対してハヤトが言った。
「俺はいいよ」と。
しかし、
「駄目です。私のご主人様には、相応しい恰好があるはずです!」
と言って押し切られ、服を買いに行くことになったのである。とは言ってもハヤトは服の知識なんて何一つとしてない。どうしてズボンのことをパンツと呼ぶのかさえも分かっていないような有様(ありさま)である。
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だが、ここで気合をれたのはエリナだった。彼はメンズ洋服の雑誌を2、3冊買ってきており、それをハヤトが帰ってくるまでに頭に叩き込んでいたのだ。
金を好きに使えといったのはハヤトだし、最近ダンジョンに潛ってばかりいたので場制限(普通は5日以上連続してれない)という規則に引っかかるところだったので、リフレッシュもかねて隣街まで買い(デート)することになったのである。
だが、その際にエリナがハヤトのことをご主人様なんて呼ぼうものなら逮捕である。だから、ここはエリナに兄と呼ばせることにした。
「しかし、この街は本當にダンジョン関連のものしかないんですね」
「ああ、隕石が落ちてきた衝撃(インパクト)で、街そのものが壊れたからな。零からダンジョンに合わせて作り直したんだよ」
そう。ハヤトたちが住んでいる街にあるのはダンジョン関連の売店ばかり。防、武を買うなら街から出る必要はないのだが、服などの生活用品は街外れか、隣街に行くしかない。
「まずは服です! 最初っから防を著てギルドに行く探索者さんはほとんどいませんよ」
「そうかな……」
そうなのだ。普通、ダンジョンに潛っていると汗をかく。だからギルドでは、無料のシャワー施設を完備しているし、服と防を著替える更室だってある。だから、普通の人は防を持ち込み、その場で著替えて潛るのだ。
だからと言って、別に防を著てダンジョンにまで來る人が居ないわけじゃない。ただ、やけに気合がっているな、と思われるだけである。
ガタンガタンと音を立てて電車にのること20分。お目當ての場所に到著した。
《ほう、隨分と盛り上がってるな》
溢れ返る人々を見ながらヘキサが呟いた。
(……ここは元々、大した街じゃなかったんだ。けど、ダンジョンができたもんだから、その恩恵をけられるようになったんだよ。ダンジョンで稼いだ探索者がこっちに來てお金を落とすもんだから、息を吹き返したってわけ)
《ダンジョンからもたらされるものは文明の針を無限に進ませる。だが、発展するのは科學だけじゃなく経済も、か。つくづくダンジョンは飴を持ち込むな》
(これが、ダンジョンの罠だってんだろ?)
《ああ。こうして人間をダンジョンに依存させる。完全に依存したところで、ダンジョンを攻略すればこの恩恵が手にらないことをダンジョンで告知する。そうなると、もうダメだ。この飴に飼いならされた生命は、ダンジョンを攻略することを諦める。あとはダンジョンが100層に育つまで待つだけで、その星の全ての生きが死に絶える》
(怖い話だ)
二人は人知れず真実を語りあいながらエリナに連れられ、ショッピングモールにった。
「ユニクロでも良い服はたくさんあります。組み合わせるセンス次第でどんなオシャレにも化けるんです!」
と、雑誌の煽り文句そのまま流用したのではないかと思うセリフでハヤトたちは洋服店の中にった。そして、そこに書いてある値段を見て戦慄。
「こ、これ。千円もすんのかよ……」
「千円しか、ですよ? 多分、お兄様の金銭覚は現実世界とかなりのズレがあります」
「いや、でも千円なんて大金……」
「昨日、いったい幾ら稼いだんですか?」
「うぅ……そうは言うけどさぁ……」
二年間染み付いた金銭覚は簡単には取れない。
「大丈夫、私が全部のお金を管理しますから大船にのった気持ちで服を選んでいきましょう!」
ということで、ハヤトはエリナに連れられるままに著せ替え人形にされること2時間。ようやく新しい服を決めて、購した。
途中、ヘキサが混じってきてからが長かった。ハヤトからすれば服なんて著れればいいから、そこら辺の古著から適當に安いのを引っ張ってくるだけで十分なのだが。
《ほう。中々良いじゃないか。馬子にも裝とは言ったものだ》
「普通、買ったばっかの服をその日に著るか?」
せっかく買ったのだから著替えてこいと言われ、トイレで著替えたハヤト。
「うん。素敵ですよ、お兄様」
エリナはそう言ってガッツポーズ。しかし、口ではとやかく言いながらもハヤトは案外まんざらでもない気持ちだった。服に著られるということも無く、かといって今までのような古著でもなく、自分の形にピッタリあった服とデザインを著ると、中々に気分が良いものだということが分かったからだ。
「せっかく買ったんだから、お灑落しましょうね!」
「お灑落はお金が……」
「そういえば、髪ってセルフカットだったんですか?」
「うん。當たり前だ」
「いや、綺麗な髪型されてたんで、容院で切られてたのかと思ったんですけど、流石にそんなことは無かったですね」
「流石に二年も切ってりゃ上手にもなるよ」
問題は切り取ったあとの髪のなのだ。ハヤトはどうにかして、捨てる髪のを何かに使えないかと考えたのだが全くアイデアが出てこなかったので、泣く泣く捨てていた。
「この後どうする?」
時間としてはちょうど晝過ぎ、そろそろ晝食にしても良いころだ。
「この近くに安くておいしい場ランチを見つけてるんですよ! こっちです」
いったいどこでどうやって見つけたのだろうか。
エリナはハヤトの手をとって先を歩き始めた。
《どうだ? 久方ぶりの文化的な生活は》
(悪くないね)
《そうだろう》
ハヤトが連れられたのは700円でランチが取れる街中のレストランだった。
「な、七百円もすんの……」
「いや、安いですよ。七百円は……」
《うん。普通は千円くらいするからな》
「金銭覚が違いすぎる……」
「私たちのほうがよっぽど一般的ですよ。さ、行きましょう」
そこからは全てがつつがなく進行した。ランチを取り、他の生活雑貨、生活用品を買い足し、家に戻るころにはすっかりあたりが暗くなった後だった。
「だいぶ買ったな」
荷の大部分は筋力トレーニングということでハヤトが持つことになった。エリナが何度も持つと言ったのだが、最終的にヘキサが一喝して荷持ちはハヤトになった。いくら奉仕種族(メイディアン)とは言っても、小さいの子に荷を持たせるわけにもいくまい。
「これでお兄様の生活もかなり改善するはずですよ!」
「いや、俺はあの生活にかなり満足してるから」
《…………は?》
行きと違ってホームが大勢の人々で溢れ返っている。ハヤトと同じく、買いを終えて帰る探索者たちだ。
しばらく待つと、電車がホームにり込んできた。
「昨日の余りがあるので、帰ったらそれを溫めますね」
「ありがと。助かるよ」
あいにくと電車の座席は他の人たちが先に座っていたので、扉の近くに立ってエリナと雑談する。
「おい、ババアっ! 俺たちのほうが先に座っただろうが!!」
だが、それを許さない怒號が電車に響いた。
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