《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第18話 防を選ぶ探索者!

「なんだかんだありましたけど、無事に10層クリアできました」

ハヤトは10層をクリアした後、単獨で帰還した。ユイがMP切れというので心配したが、一緒に帰ると誰かに見つかった時に恥ずかしいといわれたので先に帰ってきたのだ。幾らなんでもユイがあのまま11層を攻略するということは無いだろう。

「ドロップアイテムはハヤトさんのでいいんですよね? バディ間で分割はされないんですか?」

「いや、俺のものです。なんでもお金に困ってないとかで……」

「変わった人もいるんですね……。じゃあし待ってくださいね」

咲は重さと大きさを調べると、パソコンでドロップアイテムの適正価格をサーチ。

「あ、出ました。手數料を引いて45萬円ですね」

「……はい?」

「45萬円です」

「……高くないですか?」

「ハヤトさんの拾ったこれはかなり大きい【ブラッディー・バットの晶石】なんです。これって今の電子機の集積回路(IC)に必須なんですよ。どこの企業も高値で買い取ってます」

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「……それにしては部屋の前に他の探索者がいなかったんですけど」

ドロップアイテムが高く売れるなら階層主(ボス)部屋の前に列ができるほど探索者が殺到してもおかしくないと思うのだが。

「だってハヤトさん、10層をクリアした探索者はもう中域攻略者(ミドルランナー)ですよ? わざわざ10層の視界が悪い中で何度も攻略しようとする探索者さんはいないんです」

「なるほど。そういうことですか」

初心者や低層攻略者には縁遠いが、中域攻略者(ミドルランナー)になると前線攻略者(フロントランナー)が目指せる。せこせこと10層を攻略するよりも上を目指すのだろう。

《10層という絶妙な階層だからここまで高くなるんだろうな》

(初心者は簡単に屆かず、攻略できる頃には前線攻略者(フロントランナー)を目指すようになるもんなぁ)

「高値のドロップアイテムも手されたことですし、これを機に防を一新されてはいかがですか?」

「そんな簡単に言いますけど……」

は高い。常識である。

「でも、防無しだと私がダンジョンにれさせないですよ!」

「そんな……」

「だって、そんな危ないことさせるわけにはいかないでしょ? それに50萬なんて中域攻略者(ミドルランナー)ならすぐ稼げますよ」

「……とりあえず、今日は一度帰って考えます」

「ちゃんと買わなきゃダメですからね?」

《私も買ったほうが良いと思うぞ。10層以上の敵に対して今のお前は防力が低すぎる》

「……はい」

10層以上の攻略に使われる防は間違いなく中級者向け(ミドルレンジモデル)だ。値段は初心者向け(エントリーモデル)の3、4倍は普通に超える。はっきり言おう。50萬では到底足りない。

すっかり日の暮れた街の中を、さび付いた自転車にしょぼくれた年が乗って走っていく。

「……借金だけはしないように生きてきたんだけどなぁ」

悲しいかな、ハヤトの貯金額では中域攻略者(ミドルランナー)の防は到底買えない。

《借金って言えば聞こえは悪いけど、言ってしまえば投資だろ?》

「そりゃ、まあ、そうだけど……」

《何をそんなに渋ってるんだ》

「両親に、借金だけはするなって言われて育ったんだよ」

《だからなんでお前はそういうところで真面目なんだよ……》

「けど壊れたままでいるわけにもいかないしなぁ……」

《分かってるなら、ウダウダ言わずに早く決めろ》

「うわぁい」

《なんだその返事は。分かってんのか?》

帰宅してすぐに防が壊れたという旨をエリナに説明すると、「それは買わなきゃいけないですね」というので、「貯金は大丈夫なのか?」と聞くと、「大丈夫じゃないけど、なんとかするので連れてってください」と言われたので、連れていくことにした。

財布の紐を管理しているのは彼なのでどっちにしろ連れていこうとは思っていたのだが。

とにもかくにも明日に備えるべく、ハヤトはギルドで貰ったおすすめの防ショップ一覧の冊子を適當に眺めて就寢した。

翌朝、はやる気持ちを抑えて朝の6時半に目を覚ます。エリナはそれより10分ほど先に起きて朝食の支度をしてくれていた。ありがたいことである。

「飯を食ったら出てみようと思うんだよ」

「どこに行かれるんですか?」

「防ショップ」

「こんなに早く開いてるわけがないじゃないですか……」

「……そうなの?」

「普通、九時とかですよ。開くのは」

「……知らなかった」

「噓ですよね?」

「マジ。防買ったの一回だけだし」

「世間一般的にお店が開くのは9時か10時ですよ」

「そっかー……」

「なにちょっとしょんぼりしているんですか。二度寢できると思って喜んでください」

が目ぇ覚ましちゃったよ」

「じゃ、ラジオでもしといてくださいな」

なんてやり取りをしながらウダウダと時間を潰すこと3時間。ハヤトたちは錆びだらけの自転車を漕いで一軒目の防ショップに向かった。

「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件でしょうか」

店するなり早々にスーツを著た30代くらいの男が隣についた。

(……る店間違えたか?)

《ちょっと高級あふれてるが、まあ見てみるに越したことは無いだろ》

店の中はハヤトが逃げ出したくなるほどの場違いを覚える高級

「防が壊れてしまいまして、新しいを探しているんですよ」

「どれほどの能をご所でしょうか?」

(ご所って何……?)

《何がしいか》

「10層以上を目指すので中級者向け(ミドルレンジモデル)ですかね」

「なるほど。中域攻略者(ミドルランナー)でございますか。失禮ですが、役職はどちらでございますか?」

(や、役職って何?)

《は? お前、探索者だろ? なんでそんなことも知らないんだ??》

(ずっと単獨(ソロ)攻略だったから……)

《役職ってのは盾役(タンク)とか攻撃役(アタッカー)とか、まあそういった奴だよ。ハヤトは単獨(ソロ)だって言えばいい》

「役職は……無いです。単獨(ソロ)なので」

「ではこちらにどうぞ」

そう言って案された先にあったのは、軽裝を中心とした裝備の數々。だがそこに書いてある値段を見てハヤトは絶句。一番安くて120萬円と端數。

「こ、これは……?」

その一番安い奴をハヤトが指すと、

「はい。こちらは15層のモンスターである【レッサーワイバーン】の鱗を必要最低限の部分だけ使った防ですね。布部分は13層の階層主(ボス)モンスターである【スピア・モス】のドロップアイテムである【メタルシルク】で作られています。メタルと言っても非常に軽く、耐久も十分です」

「な、なるほど……」

「衝撃ですと2.0tまで、斬裂なら、1.7t。噛みつき(バイト)ですと、1萬2000N(ニュートン)まで耐えられます」

「へ、へぇ……」

やばい、微塵(みじん)も理解できない。

「あの、これって探索者割引って使えるんですか?」

「はい。ウチはギルドと提攜(ていけい)しているので使えますよ」

しているハヤトをよそにエリナが店員に尋ねる。

(ね、ねえ。探索者割引ってなんなの……?)

《……お前、探索者だよな?》

(…………一応)

《金が無い探索者の救済措置だよ。ランクが低いと割引をけられる。Eランクが15%。Dランクが10%。Cランクが5%でB以上は割引なし。國としても探索者を増やしたいからな。割引部分は稅金から出るぞ》

(……詳しいな)

《お前がを知らなさすぎる》

(中卒だからな!)

《関係ないぞ。もっと報を集めろ》

(…………)

「どうします? お兄様」

「もうちょっと見ていこう」

ふと、エリナが思い出したように、

「ローンは組めますか?」

「勿論です。24回の分割払いまでは0金利でご利用いただけますよ」

「ですって、お兄様!」

「そ、そう……」

に、24回分割って120萬だと一か月あたり5萬円? あっ、案外無理じゃないのか。

《でもお前、二年も同じ防に金払い続けるか?》

(……払わないな)

そう。ハヤトは一か月以に前線攻略者(フロントランナー)になると公言しているし、本人も當然そのつもりだ。だから二年間も中級者向け(ミドルレンジモデル)の防に金を払い続けるつもりは無いのである。

「……これは?」

その時、ふとハヤトの目に一つの防が目にった。見とれてしまうほどのデザイン。青を基調とした落ち著いた裝飾。守るということと、著るということを両立させたように思えるそれは、最近お灑落にハマり始めたハヤトには目を奪われるのには十分だった。

「……これ、いいな」

そう、思わず呟いてしまうほどに。

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