《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第23話 カモに見られる探索者!
ハヤトが向かったのは街外れの公園だった。錆び付いた自転車を漕ぎながら鼻歌まで歌って夜の道を進んでいく。この鼻歌が5年ほど前の曲というのが彼の家に流行(トレンド)を知るものが一つも無いという悲しい事実を教えてくれた。
《悲しいなぁ……》
(何が?)
《いや、こっちの話だ。ハヤトさぁ、いい加減にテレビを買ったらどうだ?》
(買っても5畳半の部屋だぜ? 置く場所無いって)
《引っ越しは? 100萬近い金がったんだし、考えても良いだろう。なくともお前が生きているから事故件ではなくなったわけだし》
(おいおい、俺も自殺しようとしたんだって)
《……やっぱ何かあるんじゃないか?》
(何(なん)にもないない。ただの運だって)
《……………》
やがてあたりから人の気配が消え始めた。どこかしらから季節外れのセミの鳴き聲が聞こえる。後ろからついてくる探索者たちは付かず離れずを繰り返してなるべく尾行がバレないように気を付けているみたいだったが、
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(人気のない(こんな)場所までついてくるあたり、素人だよなぁ)
《なんだ? まるで尾行経験があるかのような言い方ではないか》
(される方のプロだぜ? 普通は30m以上、時には50m以上で付かず離れず。時には追い越して、無関係をアピール。そしたら適當な店にって目標(ターゲット)が通り過ぎるまで立ち読みする振りをする。もしくはぐるっと路地を回って後ろについても良い。けど、やるときは絶対に人込みがある場所じゃないと。俺みたいなプロには簡単にバレるぞ?)
《ちょっと待て。される方のプロってどういう……?》
(いやあ、スーパー銭湯で漫畫読んでたら偶然を裝って出會ってきた時はマジで心臓止まるかと思ったよ。信じられるか? ストーカーするためだけに12時間近く風呂にってたらしいぜ)
《……ツッコミどころが多すぎる。それってお前も12時間近く風呂にってたってことか?》
(當たり前だろ。家(ウチ)はガスの契約してないんだから)
《…………》
何が當たり前かさっぱり分からないヘキサは閉口。
(そろそろ良いか)
ダンジョンから自転車で15分。近くに民家もなく、公園というよりはただの空き地のようになっている場所に自転車を止めて空き地の奧にっていく。
《來たな》
「ちょっといいっすか」
ヘキサの言葉と共に聲をかけられた。その時にハヤトは広場全を見る。やってきた探索者の數は6人。パーティの最大人數だ。ということは、そういうことを生業(なりわい)にしているパーティなのだろう。
「どうかしたんですか?」
ハヤトは追跡に気が付かなかった振りをして聞き返した。
「お兄さん、探索者ですよね?」
「あぁ、まあ、そうですけど……」
「良い話があるんですけど、どうっすか?」
「良い話?」
(いきなりぶん毆られると思ったけど、違ったな)
《うーん? 似たようなものだと思うが……》
「お兄さん、見たじ中域攻略者(ミドルランナー)ですよね? だったら結構、稼いでると思うんですよ」
「そうでもないですけどね……」
噓である。
一日の平均(アベレージ)は4萬から5萬。今月の月収は200萬近くになる計算である。ただハヤトは攻略しか頭になく、肝心の通帳はエリナが管理しているので知らないだけだ。
「またまた~。それで、その稼ぎを倍にする方法があるんですけど、話だけでもどうですか?」
「いやー、そういうのは別に……。金に困ってないんで」
《私はもう突っ込まないからな》
「でも、裝備とか武を買おうと思ったら金かかるっしょ? アイテムだって安くはないんだし」
「うーん、まあ、それは……」
ハヤトは計算してないから知らないが、今日手にった98萬の半分以上はアイテム代として消える。探索者は寶箱やドロップアイテムから手にれた消耗品(アイテム)を売りに出すことはほとんどないため、その売卻価格を知らない。だからハヤトは「滝登り」に備えてアイテムを買おうとしたとき、その高値で気絶しそうになった。
そう、探索者が売りに出さないということはそれだけ希ということである。MPポーションのように外で使いものにならないものもあるが、四肢欠損を修復するLv3の治癒ポーションは普通に買おうとすると500萬を下らない。
現在確認された治癒ポーションで最高レベルはLv7だが、これはこの世界に存在する全ての難病を完治させ、壽命を2年ほど巻き戻す。つまり、二年間だけ壽命を延ばせるのだ。
初めて見つかったのはイギリスのダンジョンだったが、これに目を付けた大富豪たちが金にを言わせて探索者たちをダンジョンに投した。次に見つかったのはアメリカのダンジョン。そしてこのポーションには數兆という値段がつけられたという。
……話を戻そう。ギルドではアイテムを探索者向けに販売するショップもあるが、値段が一桁、二桁おかしいと思わずにはいられないほどの額でアイテムが売られている。
つまり探索者は非常に金食い蟲なのだ。
「確かにアイテムも高いですけど……」
「ね? そう思うでしょ? まぁ。ここで話すのもなんですし、場所を移しましょう」
《ハヤトっ!!》
ヘキサがぶ前に彼は既にいている。ハヤトの後ろから薬をかがせようとしてきた男の顎を掌底(しょうてい)で打ち上げる。
「これは……。あぁ、12層で取れる“ネムリ草”のエキスか」
ハヤトはそれをスン、とわずかに臭って確かめる。一年半前まで嫌というほど臭わされそうになったエキスである。これを深呼吸すると、象ですらも30分は起きない睡眠薬となる。
「……っ! なんだお前っ!!」
「バレバレだって。シオリはもっと上手にやるぜ」
ハヤトは踏み込みと同時に目の前の男に向かって再び掌底。鳩尾(みぞおち)に叩き込んだ掌(てのひら)が深く潛り込むと、男は息苦しさに昏倒(こんとう)。
「あと、四人か」
《あんまり大袈裟(おおげさ)にやらないほうがいいんじゃないか?》
(つっても、逃がしてくれそうに無いしなぁ)
四人はハヤトの近くにいた二人が倒れたのを見て近寄ってきた。
《詐欺目的か、強盜目的か。まあ、こうして尾行もやってるあたり余罪も結構あるかもな》
(死なない程度に毆るか)
決著に、そう時間はかからなかった。
「大丈夫かなぁ? 警察に通報しなくても」
《ま、良いだろ》
あの後、六人を昏倒させたハヤトはそのまま探索者用のロープで縛り上げて空き地に放置した。季節的に冷え込むような時期でもないし、風邪をひいたりはしないと思うが……。
「……ん?」
自転車を漕ぐこと20分。いつものボロアパートに戻ってきたわけだが。
「なぁ。205號室ってウチだよなぁ」
《そうだな》
「……電気ついてない?」
《ついてるな》
「…………どゆこと?」
《契約したんだろ。さっさとれ。エリナが待ってる》
ハヤトは恐々としながら家に帰った。
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