《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第24話 文明をする探索者!

「……快適すぎるッ!」

「どうかしたんですか? ご主人様。そんな大聲出して」

「……電気とガスが通った家がこんなに快適だったとは」

「快適っていうか、これが普通ですよ……。まあ、文明の大切さはじたほうが良いと思いますけど」

ハヤトが『滝登り』をしている間にエリナが一人で電気とガスの契約を結んでくれていたのだ。二年ぶりに家に電気が燈ったのである。

「そうだ。パンフレット貰(もら)ってきましたよ」

「パンフレット? なんの?」

風呂から上がってシャツ一枚でパタパタとうちわでを冷やすハヤト。ここで上になろうものなら、完全におっさんである。

「家ですよ。いつまでもこんな事故件に住むつもりなんですか?」

「ヘキサもエリナもそう言って……。ここだって住めば良いところだろ? 駅にもダンジョンにもコンビニにもスーパーにも近いし」

「いや、ご主人様はコンビニもスーパーも駅も使わないじゃないですか」

「…………」

「この間、ヘキサさんから聞きましたよ? 生まれて初めてコンビニにったそうじゃないですか」

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「…………」

「まさか、スーパーにったことくらいはあると思いますが」

「ないです」

「は?」

「スーパーにったことないです」

「《えぇ……》」

「いや、でも何があるかは知ってるよ? あれでしょ? 野菜とかでしょ?」

「スーパーに何があるか聞いて『野菜とか』って答える人はご主人様だけですよ!!」

「そうかなぁ……」

「まぁ、ここにパンフレット置いておくんで引っ越しも検討にれてください! この家、洗濯機を置く場所も無いんですから!!」

「え、マジで!?」

「なんで二年間も住んでて知らないんですか……」

エリナに呆れられてしまった。かなしぃ。

「あ、そうそう。今日、単獨(ソロ)ダンジョン攻略の最高記録が更新されたらしいですよ」

「らしいね」

「ご存知でしたか」

《聞いてやってくれ。エリナ》

「はい? 何かあったんですか?」

「ドイツのやつがいなけりゃ……俺だって…………」

「……というと?」

「今日の12時更新されたんだよ……」

「それは殘念でしたね」

よしよしと頭をなでられるハヤト。これではどっちが子供か分かったものではない。

「明日からは16層の攻略をされるんですか?」

「ああ。あと2週間で24層に行かなきゃいけないからな」

「一か月で前線攻略者(フロントランナー)、ですか。本気ですね。ご主人様は」

「勿論。せっかくヘキサからチャンスを貰ったんだから。無下にはできないよ」

「応援致します!」

《……意外だったな》

「何が?」

部屋の上空をプカプカと浮かびながらヘキサがタイミングを見計らって口を開いた。

《奉仕種族(メイディアン)ってのは、主人に盡くし、駄目にする。男でも、でも関係なくな》

「……そうですね。私たち(メイディアン)はそういう種族です」

《けど、エリナ。お前はハヤトを応援する。モチベーションを高めるってのは他の奉仕種族(メイディアン)には見られない特徴だ》

「だって……ご主人様にやりたいことがあるんですよ?」

《ふむ?》

「ご主人様が夢を追いかけるときに邪魔になるものをできるだけ排除する。そして夢だけを追えるようにするのが奉仕ってものじゃないですか! それを怠(おこた)って主人を駄目にするのは、奉仕じゃなくて怠慢(たいまん)ですっ!」

《はははっ。奉仕種族(メイディアン)の奉仕の哲學か。面白い》

「ねえ、ずっと気になってたんだけどさ。奉仕種族(メイディアン)ってどうやって増えんの?」

ハヤトが尋ねたのは単純な疑問。生問題である。そもそもダンジョンのモンスターというのは不思議に溢れている生きだ。モンスターというのはダンジョンで湧(・)く(・)。地面、あるいは壁面からにゅるっと出てくるのだ。

なのに、モンスターには生が付いてたりする。だが、今のところダンジョンでモンスターが(セックス)をしている場面を専門家は未だに目撃していない。未だにモンスターに関しては分からないことのほうが多いのだ。

「えっ!? な、緒ですよ!! そんなの!!! の子になんてこと聞くんですか!!」

《ハヤト、流石にデリカシーが無いぞ……。お前……》

「えぇ!? なんでよ」

《いやだってお前……。……いや、待て。お前、子供がどこから來るか知ってるか?》

「ちょっとヘキサさん? なんてこと聞くんですか。流石にご主人様も中學校は卒業してらっしゃるんですよ? 知ってますよ。それくらい……」

《いや、コイツは中二の途中から學校に通ってない。実質中退だ》

「おいッ! 人の學歴をとやかく言うな!! 知ってるよ。流石にそれくらいッ!!!」

《言ってみろ》

「……こ」

「《こ?》」

「コウノトリとキャベツ畑……」

顔を見合わせるヘキサとエリナ。

「うーん……。こうも純樸ならこのままのほうが良いんじゃないですか?」

《そうだな。このご時世、ここまでピュアな奴も珍しいし、放っておこう》

「えッ!? 違うの!!?」

「いえいえ、あってますよ。ご主人様」

「そ、その顔は噓をついてる顔だッ!」

《ほんとほんと。マジだって》

「くっそぉ……。中卒だからって馬鹿にしやがって……」

「今時は小學校で學びますよ……」

「そ、そうなの……?」

三人は適當なところで雑談をきりあげると布団にった。と言っても、ヘキサは浮いてるから布団はいらないし、薄い布団はエリナが使っているので必然的にハヤトは端っこのほうでタオルを羽織(はお)って寢ている。

「ご主人様って、そういう知識は無いのに私と一緒の布団にはらないんですね」

「『男七歳にして席を同じにせず』って言って育てられたからなぁ……」

「……本當ですか?」

エリナはいつもの調子で言ったハヤトの言葉を話半分で聞き返した。いつも彼が冗談を言う時とトーンが同じだったからだ。だが、

「本當(マジ)だよ。だから、俺は妹とも母親とも數えられるほどしか會ったこと無い。もっぱら、ちちう……。親父と弟の三人に、お手伝いさん達だけだったな」

「ご主人様ってお父上のことを父上って呼ばれてたんですか?」

流れるように言ったことから、ハヤトは日常的に父親のことをそう呼んでいたことが分かった。このご時世、自分のことを父上なんて呼ばせる父親は普通ではない。

エリナはこれまでハヤトの親に捨てられたというのは話半分で聞いていた。てっきり、家出か何かで引くに引けなくなってるだけなのではないかと。だが、

「…………昔の話だよ」

「ご主人様の家って、なんなんですか」

「…………思念って、鼻ちょうちん出すのな」

「え?」

言われてエリナが視界を上に向けると、上空で寢ているヘキサの鼻には綺麗な鼻ちょうちんができていた。

「思念だから、あんなにきれいな鼻ちょうちんができるんだと思いますよ」

「……ヘキサって、顔は良いのに々勿ないよなぁ……」

「ほら、天は人に二を與えずって言うじゃないですか」

「……そうなのかもな」

「どうかしたんですか?」

「……いつか」

「はい?」

「いつか、教えるよ。どうして俺が家から追い出されたのか。どうして俺が天(・)原(・)なのか。どうして『D&Y』に知り合いがいるのか。どうして5層まで武も持たずに潛れたのか」

「……それは」

「けど、また今度な……。今日は、眠(ねみ)い……」

「……はい。お疲れ様です」

ハヤトはエリナの「おやすみなさい」という聲を聴きながら、を眠気に預けた。

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