《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第25話 再び絡まれる探索者!
「ついに、今日ですか」
「はい。20層を今日、攻略します」
20層で階層主(ボス)部屋までの安全な道のりを確保するのに二日も使ってしまったが、それも今日で終わり。ステータスに若干の不安は殘るが今日20層を乗り越えれば、超高階層と呼ばれる20層越えに挑むことができるようになるはずだ。
「それにしても、ここまで三週間とちょっと……。ハヤトさんが本気を出すともうここまで來るのですね」
「……別に本気を出したってわけじゃないんですけどね」
まるで今までが本気じゃなかったみたいな言い方は傷つくのでNGだ。
「ハヤトさんが前線攻略者(フロントランナー)になるのを楽しみにしてますよ!」
「ありがとうございます!」
「では行ってらっしゃいませ」
「ちょっと待って!!!」
今まさにハヤトがダンジョンへの場処理を終えた瞬間に、聞きなれた聲が掛けられた。
「ん? げッ!」
《どうした? うわっ……。コイツか》
前回見た時よりも防がバージョンアップしたユイがハヤトの後ろに立っていた。
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「何よ、カエルが車に轢(ひ)かれた時みたいな聲を上げて」
「……どうしてカエルは素早いのに車に轢かれるか知ってるか」
「えっ、何それ。知らないわよ、そんなの」
「カエルは通騒音できが鈍くなるんだ[1]」
「そうなの? なんだか可哀想(かわいそう)ね」
「じゃあ、そういうことで……」
「何がそういうことなのよ」
適當な話題を振って逃げようとした瞬間、首っこを摑まれた。
話題逸らし……失敗ッ!
「アンタ、今から20層に潛るんでしょ?」
「あぁ……」
「階層主(ボス)を攻略するのよね」
「まぁ……」
「私もついていくわ」
「……なんで?」
「仕事で階層主(ボス)攻略を撮るんだけど、その予習(リハーサル)よ」
「そうか。それは他の奴と行ってくれ。――ぐえっ」
そう言ってその場から離れようとした瞬間に、再び首っこを摑まれる。
「他の奴と行ったらまるで私が仕事のリハーサルをきちんとする真面目ちゃんみたいって噂がつくじゃないの!」
「お前は間違いなくその真面目ちゃんだ。じゃあな」
「待ちなさいって」
「うごごごごっ。首を引っ張るな首を! 息ができんッ!」
「あっ、ごめんなさい……。じゃなくて! アンタも潛るなら私も同行させてって頼んでるのよ!」
「人にを頼む態度じゃねえだろッ!」
「これでも一杯なの!!」
「…………」
《……なぁ、ハヤト》
(なんだ)
《いまちょっと可哀そうだと思ったよ。私はコイツを》
(奇遇だな。俺もちょっと思った)
「はぁ……。仕方ないから、いいよ。20層の攻略をするぞ」
「そういうことなら♪ はい、三枝さん」
そういって咲に探索者証(ライセンス)を渡すユイ。
……えっ。こいつBランク探索者じゃん!?
意外な事実に驚いて直。
「……いいんですか? ハヤトさん」
「まあ、組むのはこれが初めてじゃないですし……」
「いえ、そういうことではなくて……」
そう言ってユイとハヤトをちらちら見る咲。
「だって、あのユイさんですよ?」
「あぁ、なんか有名人らしいですね。コイツ」
「三枝さん。気にしないでください。ハヤトは私のこと全然知らないんで」
「……本當に言ってるんですか? ハヤトさん、だってユイさんは……」
「さっ、ハヤト行くわよ。三枝さん、またあとで~」
そういって流されるままにダンジョンへ向かうハヤト。もう好きにしてくれ。
「……お気をつけて」
ハヤトは咲の「マジかコイツ」みたいな視線を後にダンジョンにった。
……そんなに有名なの? ユイって。
「さ、20層に來たわ! ……なんでアンタ固まってんの」
「騒音を聞くとのきが鈍くなるんだ」
「あんたカエルなの? っていうか! 私の聲を騒音って言ったわね!!」
「……聲がでかいんだって」
「これでも天使の歌聲って言われてるのよ!!」
「天使の歌聲……? あぁ、そいやユイはアイドルだったな……」
「うわっ……。なにその『僕アイドルとか興味ないんで……』って顔! むかつく!!」
……元気な奴。
「まあ、別にいいわ。アンタみたいな奴こそアイドルオタクになるんだから。覚悟してなさい」
「《…………》」
「何、固まってんの。先行くわよ」
「ああ、待て。そっちの道はトラップだ」
そういってハヤトがユイの手を引いた瞬間、目の前の床から50cmはある針が突きだしてきた。
「……ありがと」
「どういたしまして。ここは俺が安全な道を見つけてるから、その後ろをついてきてくれ」
「……分かった」
20層はトラップエリアと呼ばれる階層である。階層の中は1~5層までの迷路型に非常に酷似しているが、その中は比べものにならないほど悪意に満ちている。
針、剣、炎などの鉄板トラップはもちろん。モンスター召喚。場所転移。水沒なんていう殺す気満々なトラップもある。ハヤトはこの2日でダンジョン攻略本上位階ver(5300円稅別)に載っているあらゆるトラップの場所を確かめ、安全なルートを確立すると共に、新たなトラップを見つけギルドからお小遣い程度の謝料を貰ったりしていた。
すなわち彼には手に取るように20層の道が分かるのである。
「なんか……」
「ん?」
階層主(ボス)部屋に至る道の途中、安全圏(セーフエリア)が見えてきたときにユイがポツリと口を開いた。
「なんか、見違えたわね。ハヤト」
「何が?」
「うーん、説明し辛いんだけど……。10層攻略の時のアンタは何だか不安げに見えたの。けど、今のアンタはちょっと違う。頼れる探索者ってじだわ」
「そりゃどうも……」
「ウン、中々悪くないわね。もうちょっと髪とか眉とか整えたらモテそうよ」
「マジ!?」
「……食いつきいいわね。おすすめの容室を教えよっか?」
「容室か……」
「何? 男が容室にるのは恥ずかしいとか言うんじゃないでしょうね」
「いや、もう二年近く散髪行ってないから……」
「はぁ!?」
そんなこんなで安全圏(セーフエリア)に到著。だが、そこには先客と言うべきか、他の探索者たちが座って雑談をしていた。彼らは安全圏(セーフエリア)にってきたハヤトを見て軽く會釈(えしゃく)。ハヤトもそれに返しておく。
……良かった。この人たちはまともみたいだ。
そして、彼らの視線がハヤトの後ろの人に向いた瞬間、ぎょっとした。
「……ん? うおっ!?」
ハヤトも後ろ見て驚愕(きょうがく)。
先ほどまで顔を曬(さら)していたユイがプロレスラーみたいなマスクをかぶっていたのだ。
「……何やってんの」
「こうしないとバレるでしょ」
「……さいですか」
なんだか知らないけど、そういうことにしておこう。
安全圏(セーフエリア)にったは良いものの、他の探索者からの好奇の視線に刺されるのがいたたまれなくなってハヤトたちはすぐにそこを後にした。
ちなみにだが、仮面をかぶって探索者をやってる人間はなくなかったりする。
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