《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第7-26話 支配者と攻略者!

ルザルの能力である【誓約(ルール)】はアイゼルの“覚醒”スキルである『悲嘆虛妄(ヒュリオン)』が無ければ突破できない。だが、その突破方法は既にルザルたちに気が付かれている。

そのため、何かしらの対応策を用意しているだろうとハヤトたちは事前の作戦會議で話し合っていた。ここまで4人の『彼ら』と戦ってきたが、下層に向かえば向かうほどに強い敵だった。

これは『彼ら』の力関係でり代わる階層主(ボス)を決めたからだろうか?

俺がヘキサに聞くと、彼は《恐らくだが》と前置きして喋り始めた。

《恐らくだが、ダンジョン側の自調整だと思う》

(自調整?)

《そうだ。階層主(ボス)となる際に『彼ら』の戦闘能力を鑑みて、ダンジョン側が勝手に『彼ら』を配置したんだろう》

(なるほど)

ならば、ルザルたちは必ず來る。彼はこちら側に一方的に【誓約(ルール)】を押し付けれるふざけたスキルの持ち主だ。戦闘能力はさておいて、彼の能力だけで見れば『彼ら』の中でもずば抜けているだろう。

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だから、ハヤトたちは考えた。純粋な戦闘能力で言うならばレーネやモモの方が強い。ここまでルザルが來ていないということは、モモとフィーネのようにペア、あるいは殘る3人がまとめて階層主(ボス)になっているのではないか、と。

常に最悪を想定してくのが探索者だ。

そして、それは正しかった。

「【誓約(ルール)】:天原ハヤトは」

ルザルの能力は相手の“名”を用いて、相手の能力を封じるのだとヘキサが言っていた。それなら、尚更好都合である。ヒロもアイゼルも彼らに名前が伝わっていない。それに、知る方法もない。

彼らがどんな諜報機関にツテがあろうと、この世界の住人でないのだから知ることが出來るはずがない。

「『今後一切のスキルの使用を止する』」

ルザルの持っている本から莫大な力があふれ出すと、それらは鎖となってハヤトの、その最奧にある心臓を縛り付けた。それは、痛みを伴うものではないがハヤトは得も言えぬ気持ち悪さに顔をしかめる。だが、足は止めない。

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何故ならこれは、想(・)定(・)の(・)範(・)囲(・)(・)だからだ。その時、飛び出した2人がアイゼルとヒロを抑えにかかった。特にアイゼルに襲い掛かった二刀流の剣士は凄まじい。

長剣と短剣の組み合わせという二刀流の剣士だ。彼は大振りの一撃でアイゼルのきを封じながら時に近寄って短剣で攻撃を仕掛ける。それを避けられたり、防がれたりすればそこに長剣が叩き込まれるという寸法だ。

それも當然だろう。アイゼルがルザルの能力を解除できる能力を持っているのであれば、猛攻を仕掛けてその能力を解除しないというのはとても正しい。ハヤトは彼らが自分の名前を知っていた時、必然的に“天原”の名は知らないものだと判斷した。

理由はいくつかあるが、まず“厄災十家”のモモの英語が下手だったこと。“三家”のシステムを教えるにはそれなりの英語力を求められる。また、彼らは自分の名前をフルネームで呼び、苗字にこだわっている様子を見せなかった。

つまり、『彼ら』はハヤトがヘキサからのスキルだけでダンジョンを攻略してきたものだと思っているっ!!

そこまで予想がつくのなら、それから先『彼ら』がどういう風に襲い掛かってくるかは簡単に予測がつく。すなわち、ハヤトのスキルを封じた後アイゼルは何らかの方法で解除スキルが打てなくされ、もう1人いる刺客がハヤトを殺しにかかる。

だが、幸いにして今回はヒロがいた。ハヤトに襲い掛かる刺客を、ヒロは強引に引き寄せるとそこで戦ってくれている。

――道が開いた。

それを好機(チャンス)と呼ばずして、何と呼ぼうか。

ハヤトのは、彼が今まで幾度となく繰り返してきた作を自然に取っていた。を前傾姿勢に、右手を後ろに引くとバランスを取るために左手を前に突き出す。ルザルは魔法をいくつか詠唱。

火炎の球が生まれると、ハヤトに向かって照準が合わせられる。その時、彼のがその場から消えた。『地』を使った高速移。ルザルはその瞬間、ハヤトの持っているものがヘキサからのスキルだけではないことを知った。

だが、それに気が付くにはあまりにも遅すぎた。

「『星走り』ッ!」

ハヤトの全重が拳に乗せられると、紅い線を描くとルザルの部に直撃した。ルザルの部で肋骨が砕ける音を聞きながら、ハヤトは音速の拳を振りぬいた。ヒュバッ! と、音が後から階層主(ボス)部屋に響く。

遅れてハヤトは両足でブレーキ。ハヤトの防が地面とこすれる音と、溢れた熱で僅かに煙が上がる。さらに遅れてルザルの魔法があらぬ方向に放たれた。

「……俺の勝ちだ」

ルザルは大きく喀

《治療急げ!!》

(分かってる!!)

彼ののことを考えて本當は腹部を狙いたかったのだが、距離があまりに近(・)す(・)ぎ(・)た(・)。何とか下を狙ったのだが、ハヤトの拳はルザルのを毆ってしまったのだ。一応、貫通はしないように力を調整したつもりだが、あれだけ肋骨が折れていると心臓に刺さっているかもしれない。

「【誓約(ルール)】」

その時、にまみれたルザルの口がいた。

「む、無理だ! やめろ!!」

ハヤトは駆け寄りながらルザルを靜止させる。

「『ルザルは今後一切の死亡を止する』」

ドクン、と肋骨の欠片がささったルザルの心臓が脈する。死ぬなとんでいるのではない。【誓約(ルール)】によって無理やりかしているだけだ!

《無茶だ……ッ!》

ヘキサが言葉に詰まった。

《モノ! 今すぐに止めさせろ!! 私たちがこの星の生きの生死に直接かかわることはあってはいけないッ!!》

その時、ルザルの後ろにぼうっとが浮かび上がった。その顔は、とても悲しみに染まっていて。

《ヘキサ。君なら分かるだろう?》

《ソイツを死なせるつもりか!?》

《ルザルが、死(・)ん(・)で(・)も(・)(・)し(・)遂(・)げ(・)た(・)い(・)と言うんだ。私は、力を貸すだけだ》

《ふ、ふざけるなッ! 人間を進化させるだ(・)け(・)に命を懸ける価値があるものか!!》

《人の意思を、勝手に優劣つけるのは良くないな》

そう言って、モノはとてもはかなげに笑った。

も知っているのだ。ルザルの命はスキルによって無理に駆している。今すぐにでも消え果てもおかしくない狀況だ。だからこそ、ハヤトは治癒ポーションで命を繋ごうとしていたのに……!

《私は、背中を押すだけさ》

《思春期の子供を唆(そそのか)して、何が背中を押すだけだ! 狂ったのか!!》

《それは君も同じだろう?》

《……ッ!!》

ヘキサはその瞬間、明らかに言葉に詰まった。

《私たちが子供を選んだのは、扱(・)い(・)易(・)い(・)か(・)ら(・)だ》

「関係ねェよ……」

モノの言葉を遮って、ルザルが吠えた。

「俺は……分かりやすいし…………。単純だし、馬鹿だけどよ……」

今にも消えそうな命の燈とは裏腹に、彼の目はまっすぐハヤトを捉えていた。

「モノが、やりたいって言うんだ……」

本が、浮かび上がった。その本はルザルの吐いたにべったり染まり、今も彼のを滴らせていた。

「やるしか、ねェだろッ!!」

「……そうか」

アイゼルは『彼ら』を見た時に、こう言った。「君と同じ」だと。それは何もヘキサのことだけでは無かったのだ。その境遇、考え方、そして決意。それら全てが俺と同じなのだ。

「そうなんだな」

ハヤトは拳を構えた。

しい我がパートナーのために》

モノが歌うようにそう言って、そっとルザルのに手を當てた。その瞬間、バサバサと本のページが激しく開かれていく。

《クソッ! スキルの“覚醒”だッ!!》

莫大なエネルギーがルザルの周囲で蠢(うごめ)くと、それらが本へと集っていく。【誓約(ルール)】が相手の行を規制するスキルであるのなら、その“覚醒”は。

「……俺が、命令(ルール)だ」

ぼそり、とルザルがそう言った。

探索者としての本能が告げている。ただならぬ気配を察知している。

年はぽつりと考えた。言葉によって、相手を規制出來るのであればその先は、言葉による相手の支配だと。

単純だと笑えるだろうか?

あまりにも稚拙だと馬鹿に出來るだろうか?

ああ、全くもってその通りだ。人間としての能力がとても低く、生きていることに価値を見出せなかった彼は、果たして探索者としてもそうだった。現実を書き換えられるだけの妄信的な想像力は無かった。スキルを捻じ曲げるほどの信念は無かった。

だが、モノはそれをし遂げた。

愚直な彼が、命を賭(と)してし遂げたいことを彼は自分の全力で持って押し支えた。

【誓約(ルール)】というシンプルなスキルは、此度この瞬間で持って書き換えられる。

さあ、神々よ照覧あれ。

人呼んで“正義を詠え、(オムニオ・)言葉でせ(ヴォルカルム)”。

それは、言葉で世界を書き換える支配者のスキルである。

おかげさまで第8回ネット小説大賞の1次通ることが出來ました!

皆様応援ありがとうございます!!

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