《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第7-29話 ”覚醒”スキルと攻略者!

「『悲嘆虛妄(ヒュリオン)』」

幻想であるのならば、それを砕いてしまえばいい。元ネタを知っているアイゼルがそう呟くと、全ての幻想が砕かれて元の小さな階層主(ボス)部屋に戻る。

「ここじゃあ戦う場所には向いて無いですよぉ!」

『核の』がそう言って、パンと手を叩くと次は南國のビーチに4人は立っていた。先ほどの乾いた暑さではない。度もあいまった蒸し暑さが3人を襲う。だが、転移をしたと言えどもお互いの位置関係は変わっていない。

転移の間に攻撃を仕掛けに移ったのはハヤトと、ヒロ。

「ちょっと! こういう時に攻撃しないのはお約束でしょう!!」

そう言ったは砂浜を蹴って飛び上がると、こちらを見降ろした。剎那、ハヤトの足はひとりでにバックステップを放つ。直上(ちょくじょう)から放たれるゾッとするほどの殺気。

そして、は右手に持っていた流木の枝をまっすぐ縦に振るった。次の瞬間、が振るった枝の延長線上にあった全てのものが斷ち切られたッ! 砂も、ヤシの木も、そして海すらもまっすぐ斷ち切って斬撃の悪魔は迸(ほとばし)る。

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ギィイイイイイイイイイインンン!!!!!

直線距離にして數十km。それが、一振りにして全て斷たれた。そして、わずかに時を置いて真空狀態になった世界を修復するべくあり得ないほどの暴風が吹き荒れる。ハヤトは砂浜に足を撃ち込むとその風に流されないようにしっかり耐えた。

「……っ!」

「こういうのはどうです?」

そして、2振り。ヒロを狙って十字に振られた木の枝、その延長線上にいたヒロの腕と足がおもちゃみたいに飛んだ。

「ヒロッ!」

「大丈夫だッ!!」

四肢を失った彼のがぼたり、と地面に落ちる。その後ろでは斬られた海底に水が飲みこまれて、地獄のような音を立てて水面(みなも)が荒れ狂っている。

……信じられない。あのスキルは。

「何でしたっけ。このスキル」

『核の』は紫の髪のについた砂を払って首を傾げた。

「ああ、思い出しました。これ“萬象斷つは我にあり(エスト・ウルティネス)”ですよ」

……シオリの、“覚醒”スキルだ。

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「便利ですよねえ。【鎌鼬(カマイタチ)】はちょっと弱(・)い(・)からこっちの方が使い勝手良いんですよね」

あれは、斬るたびに脳を焼く様な負擔がかかるはずだ……ッ!

シオリですら連発した次の日には一日中寢込むんだぞ!!

斬るためには、斬った先の完全なる想像力が必要となる。斬られたがどのようにくのか、斬られた斷面はどうなるのか。そこにいる人たちは? そこにある筋管はどのように斬れるのか?

あれは斬撃を飛ばしているのではない。斬った後の世界を想像し、こちらの世界にり付けていると言ったほうが正しいのだ。だから、連発出來るようなものじゃない!!

「お前が! そのスキルをッ!!」

ハヤトの足が地面を蹴る。『地』を利用した高速移は、しかし砂浜に足を取られて思うように加速できない。

「使うなァ!!」

地面を蹴ると『核の』の真上に出る。槍の重みを用いて一突き。は両腕をクロスして防ぐと、地面に激突。大きく砂埃が上がる中、ハヤトは著地。間髪れずに追撃に回った。

「良いじゃないですか」

殺気ッ!

回避は――不可能。

「クソッ!!」

ハヤトはわずかに飛び上がる。次の瞬間、右足が防ごと斷ち切れた。

「元々、『スキル』は私のですよ?」

「“覚醒”は、違うだろうがッ!」

ハヤトは殘った左腳で地面を蹴った。バランスは悪いが、どうしようもない。シオリの“萬象斷つは我にあり(エスト・ウルティネス)”は近づかれればどうしようもないという弱點がある。

そこを、狙えば……ッ!

「ま、別に“覚醒”スキルに頼ってばっかじゃないんですけどね」

ハヤトの『星走り』の拳を、首を傾けて回避したは信じられないほどの速度でハヤトの元を摑むとぐるりと回して空に放り投げた。ハヤトにかけられた上向きのエネルギーと、重力の力がやがて均衡になり重力が勝った瞬間、『核の』が消えた。

「死んだらだめですよ」

そして、ハヤトのは両斷された。

「……っづあぁあああああッ!!」

ドクドクと脳の管が信じられないほど脈。βエンドルフィンが放出され、ハヤトの痛みを緩和する。脳モルフィネと呼ばれる鎮痛剤は、自らのの海に沈む瞬間でさえも痛みをほとんどじさせない。

「どうです? “神に至るは我が剣なり《イグジティウム・デウス》”ってスキルなんですけど、ちょっとこれ弱(・)い(・)ですね」

「死ね」

ハヤトに向かってまだ木の枝を向けていたの右腕が斷ち切られる。そこには黒く魔劍を輝かせたアイゼルが立っていた。

「もー! いいとこなのにぃ!!」

『核の』は一人だけ別世界で生きているのではないかと錯覚するような速度でハイキックを繰り出し、アイゼルの頭を蹴り飛ばした。

パァン! と甲高い音を立ててアイゼルのが吹き飛ぶ。常人なら頭がスイカのように破裂しているであろう一撃も、アイゼルは頭をだらけにして気絶す(・)る(・)だ(・)け(・)で済んだ。

《ハヤト! 速く治癒ポーションを!!》

(これくらいじゃ死なねえよ!!)

とは言うものの、飲まなければ死ぬのでハヤトは素早く取り出すと治癒ポーションを煽った。虎の子の『治癒ポーションLv6』は激しく輝くとハヤトの下半と上半を繋ぎ、治していく。そのの中で、ハヤトの脳に聲が語り掛けてきた。

“世界は我の意のままに(マニア・クリアチュア)”

え、全ては夢の中(マニア・グロウリア)”

“正義を詠え、(オムニオ・)言葉でせ(ヴォルカルム)”

“萬象斷つは我にあり(エスト・ウルティネス)”

“神に至るは我が剣なり《イグジティウム・デウス》”

“以上の被弾を確認”

“サンプル數が必要値に到達しました”

“本スキルはこれより”覚醒“フェーズに移行します”

“殘り:142秒”

――“覚醒”フェーズ!

《……ッ! ここで來るのか!!》

明らかに表がほころんだヘキサがそう言った。

(か、“覚醒”フェーズって!!)

《スキルインストールは、既に私の手を離れたスキルだ! 獨自にデータを積み重ね、進化をしていく!! 普通の“覚醒”スキルとは違うと思え!》

(……なら、俺は殘る130秒ちょっと時間を稼げばいいのかッ!!)

《そうだ!!!》

ならば、やろう。

ハヤトが前を向く。その瞬間、再びヒロの方に莫大なエネルギーが集まっているのが分かった。また隕石をぶっ放すのかと思ったがどうやら力の方向が違う。一直線に『核の』に向けられたそれは、

ギィイイイイイイイイイインンン!!!

放たれた。ヒロが短刀を振るった延長線上にいた全てのが純粋に斷ち切られる。“萬象斷つは我にあり(エスト・ウルティネス)”……。間違いなくヒロの固有スキルによるものだ。

ヒロはかつて言っていた。「俺が死にかけた攻撃は俺の力になる」と。ならば、これがそうか。

だが、流石に隕石と“覚醒”スキルと連発で放った彼はMPを切らしたのかふらりとその場に倒れてしまった。

しかし、彼の一撃は確かに『核の』の両足を斷ち切った。

「ありゃ!?」

は驚いた表でその場に倒れ込む。そこに飛び込むのはハヤト。槍を構えて、頭を砕く積もりの一撃。しかし、をバウンドさせて飛び上がる。ハヤトの槍は砂浜に吸い込まれた。

「いい加減に! 死ね!!」

「嫌ですって!!」

は四肢の中で、たった1つ殘った左手を顔の前で振るう。そして、パチンと指を鳴らすと欠損した四肢が治(・)っ(・)た(・)。

「どうです? “天命すらも我が手中《メディクス・オディクス》”の治癒能力! びっくりじゃないですか!?」

「面倒なことをッ!!」

「あ! 【神降ろし】でしたっけ? あれやんないんですか!?」

「やらせてくれんのか?」

「まさか」

「だよな」

両者が激突。ハヤトの視界、その右下では時間が刻一刻と減っていく。もう、こちらの球は全てぶつけた。

頼るのであれば、もうこのスキルしか……!

「えいっ!」

らしい聲と同時にが地面を蹴ると、地面が陥沒。地震じみたその攻撃はハヤトの足を止めるもの。しかし彼はそれに合わせる様にしっかりと飛んでいた。

「えッ!? これ初見で避けるんですか?」

「いや、初見じゃないんだよ」

咲桜(さくら)さんの得意技なんだ。地震を起こす奴……。

「じゃあ、こうしましょ」

はバク転のように後ろに飛ぶと、地面に両手をついてヘリコプテイロ。ぐるりと回って飛び蹴りを放ってきた。ハヤトはそれに腕を合わせて『彗星(ほうきぼし)』。の撃力をそのまま撃ち返した。

「ぐへッ!」

「いい加減に、倒れてくんねえかなッ!!」

「いやいや、何を言っているんですか」

はいつの間にか手にしていた枝を振るった。ハヤトはそのまま地面にしゃがみこむが両腕ごと斷ち切られる。

俺の千切れすぎッ!

「私以外の6は既に全滅。目標到達まで殘り12%。今まで私たちを討ってきた攻略者たちがこうして私のところにやって來ているんですよ!」

はべっとりとを吐いて起き上がった。流石に自分のエネルギーを撃ち返されればと言えども無事ではないらしい。

「これで燃えないってのはおかしいでしょ!!」

がそうんだ瞬間、背後からアイゼルが吠えた。

「グラゼビュート! ハヤトを手伝えッ!!」

『うるさい契約者だ』

その瞬間、突然現れた男がを上から押さえつけた。

「え!? 誰!!?」

両腕を失ったハヤトはアイテムボックスから足で取り出した治癒ポーションを落としそうになった。

『挨拶したと思うが……』

白と黒以外のを奪われたかのような男が1人。ハヤトの前に立つ。

『俺が『暴食の悪魔(グラゼビュート)』だ』

「……え、は? グラゼビュートってアイゼルの剣の……?」

『ソレだ。現実に姿も出せるぞ』

「すげー……」

確かグラゼビュートというのはアイゼルの魔劍の名前だったはずだ。

はぇー、顕現も出來るんだぁ……。

こんな狀況だというのにちょっと激して、ハヤトはヘキサを見た。

《私は無理だぞ?》

(そっかー……)

《なんだ、してしかったのか?》

(いや、そういうわけじゃないんだけどさ……)

《なんだと!?》

(何で怒るんだよ!)

『この狀況で漫才できれば十分だ』

「《漫才じゃねーし!》」

『息もぴったりだな』

グラゼビュートはそう言って、を喰(・)っ(・)た(・)。わずかに巨大な口を幻視。瞬きすると、の右わき腹と左のふくらはぎ。そして両手の先が何者かに喰いちぎられたかのようになくなっていた。

「くっ! “天命すらも我が手中《メディクス・オディクス》”!」

『核の』はそうぶが、何も起きない。

『無駄だ。お前のは何も壊れていないのだから』

「突然出て來て生意気ですね!!」

『核の』はそういって飛び込んだが、

『いや、もう帰るぞ』

「ちょっとぉ!?」

『この世界は、俺の存在に耐えられないからな』

そう言って、消えた。

攻撃先を失ったは、ゆっくりとハヤトの方を向く。だが、ハヤトは既に治癒ポーションを飲んでいる。

“アップデート完了”

“【覚醒】狀態へと移行します”

《キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!!》

ガツン、とハヤトの頭に毆られたような衝撃が走った。

最適なスキルを狀況に応じてインストールする、【スキルインストール】。

それは、“覚醒”したとしても変わりはしない。狀況に応じてスキルをインストールし、宿主を勝利に導く。だが、全ての“覚醒”スキルは通常のスキルの遙か彼方にあるスキルである。

だからこそ、“ス(・)キ(・)ル(・)イ(・)ン(・)ス(・)ト(・)ー(・)ル(・)”は思考する。宿主が応対すべき狀況に応じて自らがスキルを提供することが仕事であるならば、スキルインストールの真価はその圧倒的な補助にあるはずだ。

補助。つまりは、補(おぎな)い助けること。

“スキルインストール”の並外れた狀況判斷能力、そのリソースをスキル処理の補助へと裂くことが出來るのであれば、人並みの頭で、人並みの神で、“覚醒”スキルを放つことが出來る。

全ては宿主のためだけに。

“覚醒”スキル、“スキル・インテリジェンス”はそのためだけに駆する。

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