《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第8-10話 暴走する気持ち!
「ちょっと! なんでチクるの!?」
「いや、チクるっていうか……。人にペラペラと報を教えちゃダメだよ」
「あー! 師匠に殺されるぅ!!」
「大丈夫だよ。アカネちゃん、優しいから……」
……多分。
式神と戦っていた咲桜(さくら)だが、ハヤトの聲は聞こえたのかすさまじい速度でアカネを切り裂いていた。
「人を殺すとき、いっさい躊躇しないのって凄いよな」
「ああ……」
ハヤトとヒロは咲桜(さくら)の戦いっぷりを見ながらため息をついた。
「強いね♪」
しかし、殺してもしなないは余裕の笑みを顔に浮かべる。
「そうですか? 普通ですよ」
咲桜(さくら)の剣をけてなお、アカネは最強と渡り合っていた。
「でも、それじゃあモテないよ」
「モテたいなんて思ったことはありませんけど」
「ふうん? だからハヤトくんに依存してるんだ」
「依存? 何を言っているんですか」
咲桜(さくら)の手元が翻(ひるがえ)る。アカネが咲桜(さくら)から距離を取るために生み出した式神ごとアカネを切り裂く。
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「私はあの人の姉(・)ですよ」
「弟を守れないで?」
アカネの言葉で僅かに咲桜(さくら)の剣が鈍(にぶ)った。
「聞いたよ、さくらちゃーん」
アカネの刃が咲桜(さくら)の刀を激しく打ち付けて、そのまま刃の丸みを活かして刃をらせると、大きく外側に流した。そこに生まれた空白にアカネは呼びこんで、式神を起。
「ハヤトくんを“草薙”に戻すために當主になったんだってね」
「…………」
零距離で生み出された式神を左の拳で々に砕いて咲桜は跳躍。直上からアカネの頭を斬る。両斷されたアカネの頭は、しかし彼の元にある形代がひとりでに頭が2つに分かれると同時に修復された。
「でも駄目だよぉ~。本人の気持ちを汲み取ってあげないと」
「また適當なことを。貴方には分かるんですか? ハヤトさんの気持ちが」
「當り前でしょ。私はハヤトくんのお姉ちゃんなんだから☆」
「…………」
何言ってんだこいつ。と言った合に顔をしかめる咲桜(さくら)。
ハヤトからするとどっちもどっちなのだが、あいにくとツッコミがいないのが兇と出た。
「5年くらい前かな。ウチのお父さんがさ、“天原”に行ったんだよ。時代が時代だから、協力しようってね♪ いがみ合ってる時代も終わりだってさ。それについていった私はハヤトくんに會って、そこで彼の話を聞いたの」
「……なんと、言ってましたか」
咲桜の言葉に、アカネは笑う。
「“天原”に生まれたくなかったって泣いてたんだ。だから、さくらちゃんには彼の気持ちは分かんない。強いからね」
「……強くはないですよ」
「じゃあハヤトくんの気持ちがわかる? 10歳ちょっとの子供が、自分の生まれを呪ったんだよ。あり得ないでしょ。そんなこと。許しちゃダメでしょ? そんなこと」
「…………」
互いに刀を打ち合っているというのに、咲桜の刃がだんだんと鈍っていく。
「ほら、だからハヤトくんには“天”の名を引き継げなかった。本當だったら、彼が貰うはずだった天也は彼の弟が貰っちゃった」
「……ええ、そうですね」
「私が出會って3年後だよ? 彼が家を追い出されたのは。14歳で家を追い出されるなんてひどい事するよね」
「……それを、分かっていて何もしなかった貴方も大概でしょう」
咲桜がそう言った。
「確かに、私はハヤトさんの気持ちを無視して“草薙”にれようとしました。けれど、それは彼がまだ子供だから。まだ大人に庇護(ひご)されるべきだからと思ってからです。今の日本は子供がたった1人で暮らしてくのには向いていませんから。けど、貴方はそれだけ知っていて何もしなかった。私を責めれますか?」
「何言ってんのさくらちゃん」
アカネの手元には5つの札。アカネがぽつりと呟くと札に込められたエネルギーがあふれ出して始める。
「“天原”を呪った子をどうして“九鬼”に引き込めるの?」
そして、起。
コンクリートの建ですらも々に砕いてしまう発に直撃したアカネだが、傷ついたは元の形代が彼の代わりに傷を負うことで何も無かったことに出來る。死なないことに、出來る。
「どれだけ昔のことでも“九鬼”は“天原”の関係者だよ。そんな“九鬼”がどの面さげてハヤトくんに手を差しべられるのさ」
「なら、彼がそのまま死んでいても良かったんですか」
「本當に分かってないよ。さくらちゃん」
アカネはため息をついた。
「ハヤトくんのプライドをどうして考えてあげないの」
発を斷ち切って咲桜は無傷。両者は再び向かい合う。
「“九鬼”が手助けすれば“天原”を呪ったハヤトくんのプライドをずたずたに傷つけてしまう。そしたら彼には何が殘るの? 家族に捨てられて、自分の才能に打ちひしがれて、己の生まれを呪ったハヤトくんの自尊心を奪ったら、彼がどうなるかをどうして考えてあげられないの?」
アカネは踏み込む。道の極みに達している彼であるが、剣はほぼ素人。“天原”の【神降ろし】に近いがそれよりはるかに劣化している【英霊降ろし】にして咲桜と打ち合っているだけに過ぎない。だがそれでも咲桜には屆かない。
けれど、咲桜はその踏み込みに対応できなかった。
「強い人は弱い人の気持ちが分かんないんだよ」
咲桜を狙った神速の突き。彼はとっさに地面を蹴って後ろに飛ぶと、左手の甲でアカネの刀を上に弾くと顔に軌道を逸らし、刃を噛んだ。
「へ!?」
その狀態でがっちり固定して、咲桜はアカネを蹴り飛ばした。
「確かに私にはハヤトさんの気持ちは分かんないかも知れません。けど、助けたいと思う気持ちは本當です。そもそも、どうして貴方は『百鬼夜行』に手を貸しているんです? それこそまさにハヤトさんの敵に回る様な行為じゃないですか」
「ハヤトくんのことを思えばこそ、かな」
「意味が分からないんですが」
「10歳の子供(ハヤトくん)が、生まれを呪うような醜(みにく)い制度があるから。“三家”のような、利権にまみれた制度があるから彼が苦しむんだよ。ならさ、そんなもの壊しちゃおうよ☆ そしたら、ハヤトくんは救われる。そう思わない?」
「……まさか、そんな下らないことのために『百鬼夜行』に手を貸したんですか?」
「下らないかな? 私は結構本気だけど」
「ええ。まさかハヤトさんのために日本を敵に回すような人がいるとは思いもしませんでした」
「それちょっとハヤトくんのこと馬鹿にしすぎじゃない?」
アカネの持っている形代の數は既に殘り僅か。咲桜(さくら)と戦っている時間はわずか10數分だが、信じられないほど殺されている。これが武の極致、“草薙”の頂點との戦いか。
ハヤトを救う。そのためだけに用意した形代は、彼が生み出した並列呪により生時間が遙かに短くなったとは言え1つ生み出すには途方もないほどの時間と力がいる。
「ハヤトくんはもっと自由に生きるべきだよ。出來ることを狹めるべきじゃない。だからお姉ちゃんはそのために戦うの。誰かみたいに道を狹めることは姉がやることじゃないよ」
「全然分かってないですよ。ハヤトさんのことを」
咲桜(さくら)は納刀。居合の構えを取った。
「確かにハヤトさんは、生まれを嫌ったのでしょう。苦しんだんでしょう。けれど、彼は探索者になった。戦うことを選んだのです」
「そ(・)れ(・)し(・)か(・)出(・)來(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)んだよ。やっぱりさくらちゃんは何も分かってない」
「私(・)も(・)戦うことしか許されませんでしたよ。あなたも、道以外の選択肢はなかったでしょう」
「それは……」
「1000年の歴史というのは、人間の生き方を変えてしまうのです。……ハヤトさんには『星蝕(ほしばみ)』を討つという責務があったとは言え戦うことを選んでくれました。彼は、戦(・)う(・)こ(・)と(・)を選んだんですよ」
咲桜(さくら)の手がしっかりと刀を摑んだ。
「私は彼が斷わった場合のためのプランを考えていました。けれど、彼はダンジョンを攻略することを選んだ。だから私は全力でサポートするんです。既に道を決めた人の決意を揺らがせるようなことを言ったら、駄目じゃないですか」
「何を言ってるのやら」
「貴方は確かにハヤトさんのことを思っていたんでしょう。けれど、遅(・)す(・)ぎ(・)た(・)。あなたがハヤトさんのことを思うのであれば、今ここでハヤトさんのことを足止めするのではなく天日(あまひ)さんを倒すべくサポートすることだったんです」
「そんなこと……」
「彼の本心を聞いてみなければ分からないですか? なら聞いてみますか?」
咲桜の言葉に力が込められる。
「彼は婚約者を取り戻すために戦う道を選びますよ。なんて言っても、純粋ですからね」
「……その婚約者だって“三家”の力で決めたものでしょ」
「でも、ハヤトさんは助けるんです。あなたにだってそれは分かるでしょう、アカネさん」
「…………」
「とっても素敵じゃないですか」
「ハヤトくんの純粋さを、利用して……っ!」
「そうかも、知れませんね」
咲桜の手がいた。それは最強の抜刀。
“草薙”が“草薙”たる所以(ゆえん)の技。
「けど、私はズルいですから」
そして、が迸って。
「ごめんなさい」
アカネを斷ち切った。
淺倉一真さんよりレビューを頂きました……!
無量です……!!!
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