《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第8-17話 しのぎ切った踏破者!
ハヤトの振るった拳がアメリアの蹴り上げた腳とぶつかる。人間を辭めたステータスを持っているハヤトの拳でさえも、アメリアの足を砕くことは出來なかった。
……い。
思わず唸ってしまうような骨の強度。確かにアメリアもステータスは強化されている。だとしても、格差はある。別差がある。筋力差がある。しかし、止められた。
「こんなもんだっけ? ハヤトってもうちょっと強くない?」
「くっ……」
心のどこかで手加減していた。それをアメリアに見抜かれた。
“【鬼狩り】を排出(イジェクト)”
“【真祖殺し】をインストールします”
“インストール完了”
スキルインストールが、止(とど)めと言わんばかりにアメリアの正を教えてくれる。
「まあ、いいや」
ぐるん、と回ってアメリアの回し蹴りがハヤトの拳を押し返す。その腳を地面に叩きつけ、勢いづけてハヤトの心臓に拳をばす。だが、
「『彗星(ほうきぼし)』っ!!」
ハヤトの手がその間に割ってると、衝撃を足へと流してアメリアに向かって蹴り返した。彼はそれを腕でガードすると、殘りの手でハヤトの足を摑んでぶるん! と大きく振るった。
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「うおっ!!」
誰が想像できよう。アメリアという小さな軀が、ハヤトを投げ飛ばしたのだ。
もうダメだ。やるしかない。
覚悟を決めろ! 天原ハヤト!!
「俺はお前を、仲間だと思ってたよ」
宙に浮かんだ狀態で、ハヤトはアメリアにそう言った。
「私もだよー」
アメリアはにっと笑う。
さあ、スキルを思い浮かべろ。
彼を縛り上げるんだ。
「【誓約(ルール)】:『アメリア』に告げる」
紡(つむ)げ、言葉を。
「今後一切の魔法をずる」
“覚醒”スキル『スキル・インテリジェンス』の力を借りて、“正義を詠え、(オムニオ・)言葉でせ(ヴォルカルム)”が発した。魔法の鎖がアメリアの心臓を縛り上げ、一つとして魔法を使えないになる。
「ありゃ? なるほどー。そっか、ハヤトってこういうのも使えるんだね」
アメリアはハヤトの聲を聞いて、魔法を使おうと試したのだが上手く発しなかった。
「アメリア。お前のメイン火力は魔法のはずだ。格闘も強いようだが……俺たちを相手にして勝てるとは思ってないだろ」
「まーね」
「大人しく投降しろ。うちの天日(バアさん)に何言われたか知らねえけど、死ぬリスクを冒してまで協力する必要なんてないだろ?」
「うーん。まあ、そりゃそうなんだけどさ。やっぱり生きづらいんだよー! 人間の世界って」
「いや、生きづらいのはお前が変わってるせいだと思うぞ……」
「あははっ。ひどい事いうなぁ。けどさ、『真祖』ってみんな私みたいなじだよ?」
「マジ?」
狂人の集まりじゃん……。
ハヤトは息を吐いて、穂先に銀を含んだ槍を生み出した。
「吸鬼の伝説ってのは、ほとんどが噓だ。そうだろ?」
「そだね。家を追い出されたわりには勉強はしてたの?」
「覚えさせられたんだよ。無理やりな」
吸鬼(ヴァンパイア)にまつわる噓で一番有名な噓と言えば、『太のに弱い』だろうか。これは映畫によってもたらされた解釈であり、本來の吸鬼(ヴァンパイア)を記したものに似たような記述は存在しない。吸鬼(ヴァンパイア)は夜行ではあるが、別に太ので死ぬということは無いのだ。
だが、銀は効く。
故に、ハヤトは槍を構えた。
「けどさー、ハヤト。魔法を封じたって、足りないよ?」
そう言ってアメリアは人差し指を噛(・)み(・)ち(・)ぎ(・)る(・)。小さな指が噛み切られ、がボタボタと地面に落ちる。丸見えになった骨をハヤトに向ける。
「ばーん」
その瞬間、アメリアの指先から凝固したが弾丸のように飛び出したッ!!
「シッ!!」
不意打ちとはいえ、既に弾丸如きで死ぬような男ではない。ハヤトは生み出した槍での弾丸を大きく弾く。そして、地面を蹴った。
「なんてね」
そう言ってアメリアが手を振るうと、ひゅぱっ、と嫌な音が腹から響いた。見ると、ハヤトの弾いたの弾丸が不可知の軌道を描いてハヤトの背中から腹へと突き抜けたのだ。
「天日(あまひ)は初見で気づいたよ?」
その瞬間、ハヤトのを突き抜けた弾丸が大化。銛(もり)のようにかぎ爪が出來ると、弾丸からうっすらとびていたの糸が大きくハヤトのを引っ張り上げた!!
「っつ……」
痛みに顔をしかめる。空中に押し上げられたハヤトにアメリアが人差し指を向けてきた。対抗するべくハヤトも指を掲げる。
「往けッ!!」
「およ?」
ズドドドドッッ!!!
ハヤトの打ち出した氷の弾丸がアメリアに雨あられと襲う。彼は弱點となる脳と心臓を守るように振舞いながら、それでもそれ以外の場所は気にも留めず笑いながら氷の嵐をよけきった。
「やるね!」
逃げることに気を回したせいか、ハヤトを演していた糸が斬れる。その瞬間、無理やりハヤトはの銛を引き抜くと、アイテムボックスから取り出した林檎をかじった。治癒ポーションが無くなったので、もうこれに回復を頼るしかない。
に空いたが修復され、造される。氷の破片で出來た煙が晴れると、そこには腕や足を氷柱(ツララ)に貫かれたアメリアの姿。しかし、ひどく元気そうだ。
「変われ」
その時、ハヤトの後ろからヒロが飛び出した。
「もー! いまハヤトと遊んでたのにぃ!!」
しかしヒロは無言。アメリアに猛攻を仕掛けて、ハヤトに逃げ出す隙を作ってくれた。
「ありがとう!!」
ヒロに一言かけると、ハヤトは“八咫”の2人を連れて“八咫”の屋敷の中にった。
「大丈夫?」
「ああ……」
雪がちらり、とこちらを見て聞いて來た。
偽だと思いたかった。こちらの気持ちを揺らしてくるために“魔”が用意したまがいだと思いたかった。
けれど、違った。明らかにあれは本だった。もしかして咲桜(さくら)さんはそれを知っていたから自分に“八咫”の護衛を任せたのだろうか。
そんなことまで考えてしまう。
そして思っていたよりも自分がショックをけていることに気が付いた。
(……恩人だったんだよ。アメリカでの)
《……そうだな》
(はぁ……)
別の部屋にって當主とスミレを座らせた。スミレはとても眠そうだったが、まだ眠るわけにはいかないと自分に言い聞かせる様に何度も何度も船をこいでいた。
「……そろそろ夜明けだ」
隨分と疲れた聲で“八咫”の當主がそう言った。それからしばらくして、太のが部屋へと差し込んだ。
「朝日だ」
ぽつりとハヤトが聲をらす。その瞬間、地震のような地鳴りと共に“魔”が立ち去っていくのが足音で分かった。
「……今(・)日(・)は(・)これで終わりです」
ハヤトの言葉に分かっている。と、言いたげに“八咫”の當主が頷いた。
「“草薙”はこれから追撃戦に持ち込むと思います。それか、本拠地を見つけるまで泳がせるか……。とにかく、これまでのようにやられっぱなしではないと思います。そこは安心しても良いかと」
“八咫”の當主を安心させるようにハヤトはそう言った。彼は疲れ果て、今にも眠ってしまいそうになっていた。スミレは朝日で安心しきったのか、もう微かな寢息を上げている。
それからしばらくして、咲桜(さくら)が戦いの終わりを伝えに來てくれた。
「そういえば、アメリアさんから伝言を頼まれましたよ」
「……なんて言ってました?」
「また遊ぼうって言ってました。ハヤトさんはモテますね」
「いや、アメリアのは違うと思いますよ……」
疲れ切った聲でハヤトがそう言う。
「ああ、そうだ。ハヤトさんはもう家に帰っても大丈夫ですよ」
「……大丈夫ですか?」
「これから追撃を仕掛けた後、しばらく“魔”を泳がせます。それまではゆっくりと養生してください。日本も久しぶりでしょうから」
「ありがとうございます……。そうだ。捕虜がいるんですけど」
「捕虜?」
そう言って首を傾げた咲桜(さくら)にハヤトが雪を指さした。
「ああ。そういうことですか。でもこっちじゃどうしようもないんですよね……。仕方ないんでハヤトさんのところで預かっておいてもらえますか?」
「ウチで、ですか……?」
……エリナに殺されちゃうよ。
「はい。ハヤトさんなら(ぎょ)しきれるでしょうし」
「はぁ。分かりました……」
しかし悲しいかな。咲桜(さくら)さんへの返答は「はい」か「イエス」しか許されないのだ。
ハヤトは先を思い浮かべて、深いため息をついた。
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