《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第8-27話 再會の踏破者
ハヤトは『妖刀』を手にして息を吐きだす。1振りで群を屠るほどの刀。弱いとはいえ有象無象の無數に対してはこの一本あれば十分だと分かったのは大きな収穫だった。彼は手にもっていた日本刀をこれ以上の犠牲が出ないうちにとかき消した。
1振りでそれが『天羽々斬(アメノハバキリ)』と化すのであれば下手に刀を振り回すことが出來ない。特に今みたいに周囲が味方に囲まれている間は、特に。
「……すげぇ」
そう呟いたのはアマヤだった。
「何にも考えずにやっちゃったけど、もしかして捕まえてた方が良かった?」
「いや、要らねえ。アイツらが來た方向から、あの蝙蝠(コウモリ)を放った連中がどこにいるのかの逆探知くらいはもうやってる」
「流石だな」
よく出來た弟だ。アマヤはいつの間にか地面に差し込んでいた刀を引き抜くと、納刀。あれはソナーの代わりだろうか?
「だが全員で向かうわけじゃない。敵の罠かも知れないからな」
「そりゃそうだ」
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「ってなわけで、ここでチームを分ける。ここで師の連中が元の世界に戻る“”をあけるのを守る奴らとあの蝙蝠(コウモリ)を放ったやつを倒しにいくやつら」
アマヤは全員に聞こえる様に、大きな聲でそう言った。
「つってもそんなに大きく分けられねえ。俺はここを離れられねえし、草薙の當主だってまさか前線に行かせるわけにはいかないからな」
「いえ、咲桜(さくら)は行っても構いません」
「……凜さん」
アマヤの話が終わるよりも先に凜が彼の言葉を遮った。
「ここには私がいます。咲桜(さくら)が出ても構いません」
「……良いんですか?」
アマヤのそれは“草薙”の現當主が命の危機にさらされることを警戒してのものだろうか。それとも全く別の何かだろうか。ハヤトにそれは摑めなかったが、凜はしっかりと頷いた。
「まさか、この程度の場所で死ぬような子でもないでしょう」
「しかし、天日(あまひ)がいた場合は……」
「二度目の敗北は、無いですよ」
凜はアマヤに向かってほほ笑んだ。彼も一度対敵しているだけあって、天日(あまひ)の化けじみた強さはよく知っているはずだ。しかし、アマヤは凜の言葉に頷いた。
もし天日(あまひ)が出て來た場合、咲桜(さくら)の助けが無いと生き殘れないということを知っているからだろう。集団で挑めば、まだ幾ばくかの勝ち筋が見えるかも知れない。
「つーことでさっきの蝙蝠(コウモリ)を放った奴に行くのは5人だ」
「5人?」
「ああ、兄貴だろ。『星界からの來訪者』たちだろ。草薙の當主様、そしてクロエだ」
「え、私も?」
「ああ。お前の出番だぞ。てなわけでよろしく頼む。兄貴、これを」
「なにこれ」
アマヤが差し出してきたのは古びたコンパスだった。“異界(こんな場所)”でこんなものが役にたつとは思えないが、コンパスの針はひたすら一か所を刺し続けていた。
「これはさっきの蝙蝠(コウモリ)を放った奴を指し続けるコンパスだ。このコンパスの指す方向に進めばたどり著ける」
「分かった」
ハヤトはそれをしっかり握ると、殘った“魔祓い”たちに指示を出し始めたアマヤから離れて見慣れたメンツと顔を見合わせた。
「結局このメンツでやるんだな」
「ちょっと、私のことも勝手に仲間にれるのやめてよ」
「この中の最高戦力ですからね」
咲桜(さくら)はそう言って肩をすくめた。
「蝙蝠(コウモリ)をつかってきた“魔”はそんなに厄介ってことなんでしょうか?」
「……こればっかりは見てみないとですね」
しかし、蝙蝠(コウモリ)を使役する“魔”は數ない。もしアマヤが正に気が付いていて、このメンバーを選んだというのであれば確かにこれくらいの戦力は必要だろうと思える。
「それより、急いで向かいましょう。ぼーっとしていたら2波が來そうですし」
「ですね。急ぎましょう」
咲桜(さくら)とハヤトは互いに頷く。アイゼルとヒロも元気そうだ。クロエは……よく分からない。ハヤトはコンパスの指す方向を全で共有すると、駆けだした。
その後ろを4人がついて走る。出來れば方角だけではなく距離も一緒に分かれば何よりだったのだが、あいにくとそこまで便利ではないらしい。距離が分からないマラソンは力の消費合を摑めず下手に疲れてしまうので出來るだけ避けたいのだが。
5人は草原を駆け抜け、石畳で作られた道の上をさらにまっすぐ走っていく。道の周囲には柳桜が頭(こうべ)を垂らし、5人を歓迎する。地面に積もった桜の花びらが甘い匂いを出して舞った。
「いやに日本チックだな」
「ああ」
“異界”は“魔”の神面に大きく影響される。とにかくこの“異界”を生み出した存在は日本で生まれた“魔”なのだろう。
「どうしたんですか、咲桜(さくら)さん。そんなにきょろきょろして」
「……見覚えのある景なのに、見覚えがないもので」
「…………?」
いつもよく分からないことを言っているが、今回のは特に意味不明だ。
「鳥居が無いんですよね」
「何の話ですか」
「私が襲われた時も“異界”に飲み込まれたんですけど、ここはその時に飲み込まれた“異界”にそっくりなんです。ただ、その時は大きな鳥居が見えたんですけどね……。あと月もこんなに大きく無かったですし……」
「じゃあ別の“異界”ってことですよ」
「そうなんですかね……?」
腑(ふ)に落ちない顔をしていたが、それでも咲桜(さくら)がその問いをもう一度口に出すことは無かった。“異界”というのは神面に大きく影響される。似たような考えの持ち主であるなら、似たような“異界”になってもおかしくない。
そんなことを考えて走っていると大きな石の階段にたどり著いた。とっさに元からコンパスを取り出すと、階段の先を指している。ハヤトはそれを確認して、階段を駆け上がった。
「やっぱり來たんだね」
嫌というほど聞いた聲。
「……ああ、やっぱりお前だったか」
ハヤトの問いかけに、アメリアは右手を掲げた。
「久しぶりだね。元気してた?」
「心配されなくても、な」
蝙蝠(コウモリ)を配下として使う“魔”はない。その中で有名なものと言えばやはり吸鬼(ヴァンパイア)だろう。そして眷屬の力は使役する者の力に大きく依存する。あれだけ破壊力を持った蝙蝠(コウモリ)を扱える吸鬼(ヴァンパイア)となればそれなりの力を持った存在だけに限られる。
例えば、それが真祖であるなら。
「お前がここにいるなら話は早い。ツバキの居場所はどこだ」
「んー?」
「……知らないはずが、無いだろ」
「うん。流石に知ってるよ。それにハヤトには(・)々(・)とお世話になったからさ。教えてあげてもいいけどぉー」
アメリアはそっと笑って、
「そうだ。私に勝ったら教えてあげるよ。私、強いからさ。本気で戦える相手がいなくて、最近腕が鈍ってた所だったの。どう? ハヤトたち強いから、全(・)員(・)でかかって來ても良いよ」
「お前に勝ったら? そんなのでいいのか?」
「そ(・)ん(・)な(・)の(・)? やだなあ、ハヤト」
アメリアは消えて、
「本気の真祖だよ?」
ハヤトの元にそっと指をれた。
「どう? 楽しめるでしょ?」
「ああ。だが、戦うのは俺たちじゃない」
ここは『百鬼夜行』の本部。強い“魔”が大勢いる中で、こんな所で力を消耗するのは得策じゃない。
「ハヤト、戦うのは俺たちじゃないってどういうことだよ」
後ろからヒロが尋ねてくる。だからハヤトは右手を掲げた。
「助(・)っ(・)人(・)がいるんだよ」
「助っ人?」
「はいはいはーい!!」
指の紫水晶(アメジスト)が輝いて、の中から魔人が解き放たれる。
「呼ばれて飛び出てばばーんっと! 都合の良いちゃんこと私でーす!!!」
「……なッ!?」
ヒロとアイゼル……だけではなく、アメリアですらも『核の』が出てくるとは想像していなかったのだろう。絶句して、息を飲んだ。
「よし、やれ!」
「あいあいさー!!」
『核の』はハヤトの首に指をばしていたアメリアの細腕に裏拳を叩き込むと、発。真っ赤な鮮と共にアメリアの右腕が々に消え去った。
《アメリア が しょうぶを しかけてきた!!》
(こんな好戦的なの嫌でしょ)
ハヤトはゲタゲタと笑いながらアメリアに襲い掛かる『核の』に顔をしかめながらヘキサにぼやいた。
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8 126久遠
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