《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第8-33話 まぜるな危険

「降伏しろ。『百鬼夜行』を解するんだ」

ハヤトは気を取り直して“伏見”の狐にそう言った。彼が抱えている半たち、それが戦闘要員だったとしてもハヤトたちの敵になるとは到底思えない。ならば今の問題は目の前にいるこの狐だけだ。

「そんな焦ってどうする。天原の」

だが“伏見”の狐はその細い目をさらに細めて口角を釣り上げた。ハヤトは手元に剣を生。威圧を持って警告する。

……というのも、天日(あまひ)がいない今だからこそ『百鬼夜行』は解出來る。もし彼がこの本部に帰ってきたなら自分たちが1時間と持たずに全滅させられると分かっているからだ。

當然、“伏見”の狐もそれを分かっている。だからこそ、こうしてゆっくりと時間を稼ごうとしているのだ。

「……草薙家の當主として、貴方に警告します。今すぐこの“異界”を解いてください。“伏見”様」

「ほう。まだこんな私に様をつけるか、草薙の。はは。ありがたいことだ」

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「…………」

咲桜(さくら)は攻撃するかどうか迷っているように思える。この人が攻撃を迷う理由はただ一つ。殺す、あるいは戦闘不能にするよりも戦わないことの方がメリットの大きい人だけだ。

100%の占い的中率をもつ“伏見”。確かにここで失うには痛い存在だろう。

……ということは、咲桜(さくら)さんは殺さずに捕まえることが難しいと思っているのか? この狐が?

…………いや、そうだ。

まさかとは思っていたがこの狐。……九尾だ。

《お? 漫畫のアレか?》

(……ちげーよ。確かにそれで有名にはなったけど)

しかし元々有名な妖怪であることには変わりないだろう。元々は中國の神獣として扱われていたが、次第に妖怪になった。つまり、善のものが悪に――“魔”にったのだ。それは人の生活様式の変化、文化の変化などが関係しているのだろうと思う。

元は神の使い、あるいは神同然と扱われていたものが人間の歴史の中では悪として扱われる。何という不條理だろうか。

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だが、それは今のハヤトには関係のないことだ。

「なに、そう焦らずともいずれは避けては通れぬ道よ」

伏見の狐は3人を見據えて、手を打った。

パァン! と嫌に甲高い音を立てて拍手の音が拡がるとその音を始點にしてが発。屋敷自が拡張され、変形し、組み変わっていく!!

目の前に見えていた“伏見”の狐があり得ないほど後ろに下がっていくと気が付くと生まれていた襖(ふすま)たちが、ハヤトと狐の境になってその姿を隠した。

……“覚醒”スキルへの警戒だ。

ハヤトとアイゼルの両者にとって戦場での距離は無いものに等しい。その目で捉えられ、斬る様子を想像できるという條件を満たすのであれば“覚醒”スキルの程は無限だ。だが、対象を目で見えなくなった場合。例えそれが1cm前だとしても“覚醒”スキルは発しない。

“伏見”の狐はそれを知っていたのだ。

「アイゼル!」

「分かってる! こっちだ!!」

既に彼は追跡の魔法を発した。襖を『魔劍』で切り裂きながらどんどん先へと進んで行く。

「アイゼルッ! 俺たちと狐の距離は分かるか!?」

「距離!? 直線距離で1.5kmだ!!」

隨分と離れたようだがそれだけ分かれば十分だ。右手を突き出す。1.5kmという距離を明確に頭の中で思い描き――創造。

生まれた刀を手にすると同時に抜刀。逆袈裟に斬り上げる!

剎那、生み出された発的な衝撃波。(・)程(・)1.5kmの斬(・)撃(・)がハヤトの振るった刀から生みだされ、目の前の障害全てを切り裂いた。

「往けッ!」

「分かったッ!!」

その瞬間、アイゼルは敵の姿を視(・)た(・)。一瞬遅れてアイゼルの姿がその場から消える。多分、1.5km離れた場所にいるのだろう。ハヤトと咲桜(さくら)は顔を見合わせると、走り出した。

『流石は『星蝕(ほしばみ)』を討った者。無茶苦茶じゃな』

「クソッ! どっから話しかけてる!!」

だが走っている途中で聞こえてきたのは余裕綽々な“伏見”の聲。

『さて、どこかの。『來訪者』に聞くのが良いのではないか?』

ハヤトの優れた視力がアイゼルの姿を探す。……居ない。あり得ない。この直線上にいるはずなのに。

「アイゼルをどこにやった!」

『さて、さてさて』

試すような口ぶり。とにかくアイゼルの場所に追いつこうと足をかすも、足が重たい。全然進まない。

「ハヤトさん。坂になってますよ!!」

「坂?」

咲桜(さくら)から言われて気が付いた。ハヤトたちが走っているのは無限に拡張された屋敷の中、であったはずなのに見ればいつの間にか大きな坂が目の前に出來ているではないか!!

しかもどんどん傾斜がきつくなっていく。今の時點で40%はありそうだ。

『よい。走れ走れ』

再びあざ嗤うような“伏見”の聲が響くと同時に、

『GYAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!』

初めて聞くモンスターのような鳴き聲が真後ろから聞こえてくるではないか!!!

「何々!? 今度は何だっての!!」

ちらりと見ると巨大な口だけのモンスターあり得ないほどの傾斜の坂を何とも気にせず追いかけてくるではないか。

「クソッ!!」

ハヤトは後ろに向かって氷柱(ツララ)を発。モンスターごと貫こうとしたのだが、モンスターにぶつかる前に氷柱(ツララ)は消された。

「は!?」

『そういうのは無し』

「卑怯だぞッ! ババアッ!!」

「ちょっ、ハヤトさん。口が悪いですって……」

しかし遠距離攻撃が通じないと分かったのが収穫だったかもしれない。それからどうしろという話だが。

しかも走っている間に傾斜がどんどんきつくなっていくでは無いか! 先ほどの40%から傾斜はさらにきつくなっていき、今はもう60%になっている。だが、足を止めれば後ろから謎のモンスターに喰われて終わりだ。

“伏見”の狐が遠距離攻撃を対策していた。近距離攻撃も何らかの対策をされているとみるべきだろう。

「ハヤトさん。そろそろ走り方を変えた方が良いですよ!」

もうすでに80%の傾斜。ほぼほぼ垂直である。

「つま先だけで地面を蹴ってください。壁に足を撃ち込むんじゃなくて、引っかかりを使って自分のを上に持ち上げるんです」

「ん? こうですか?」

ハヤトは咲桜(さくら)の言った通りに足の運びを変える。が、失敗してそのまま地面を下っていく。

「うおおおおおおおっ!!」

落ちてなるものかと武を壁に打ち込んで無理やり靜止させると、何とか我流の足運びで持ち直した。

「あ、ごめんなさい。変に変えないほうが良かったですよね」

「言われたことが出來るんだったら“天原”追い出されてないですからね……」

しかしスタミナの化けと化した2人は既に直角となった屋敷の壁を駆け上がっていく。

『《えぇ……》』

どこかからドン引く聲が聞こえてきたが、今はそれどころではない。後ろのモンスターを殺す方法を探らないといけないのだ。

ハヤトは後ろを振り向く。敵の姿をその両目に捉える。遠距離攻撃が通用しないバリアのようなものがられているとしても、ハヤトの目がそれを捉えたのであれば。

「斬れるはずだッ!」

“神に至るは我が剣なり《イグジティウム・デウス》”。そして、スキルが発すると同時にハヤトのが消える。そして、モンスターのを斬った。ハヤトが切り抜けると同時に世界が渦巻く。これは転移するときの前れだ。

そう思った瞬間に咲桜(さくら)とハヤトは再び“伏見”の狐の前にやって來ていた。

「……ここは?」

「良いものを見せてもらった」

「……シッ!」

ハヤトは反的に目の前の狐に向かって氷柱(ツララ)を放つ。だが、その氷柱(ツララ)は“伏見”の狐をすり抜けて、壁に當たった。

「……気盛んよの。本でここに來るわけ無かろうて」

「これは……」

「幻覚。ほろぐらむ、みたいなものよ」

“伏見”の狐は半のままたちを尾でいたぶりながら、ハヤトたちを見據えた。

「天日(あまひ)が帰ってくるまでに、もうし遊ぶかの」

“伏見”の狐がにたにたと笑う。

格悪そうな笑い方しやがって……!)

《時々お前もあんな笑い方してるときあるぞ》

(え、噓っ!?)

《噓》

(ぶっ殺すぞ!!!)

こいつ冗談を言っていいタイミングってのを知らねえのかッ!!

「……困りましたね。このままだと私たち、“伏見”様に遊ばれるだけですよ」

「あ、私に良い考えがあります」

「「はっ!?」」

どこからともなく後ろのほうから『核の』の聲が聞こえる。と、思って後ろを見るとそこに彼がいるではないか。

「お、お前。どこから……」

「そういうのは後にして、ちょっとハヤトさんの耳貸してください」

「耳? 別に良いけど」

「えっとですね。――――――」

……………。

…………。

「……それ、俺が言わなきゃ駄目なの?」

今世紀一番の苦の表を浮かべてハヤトが尋ねる。

「當り前じゃないですか」

「咲桜(さくら)さんでもだめ?」

「當り前です」

「……分かったよ」

渋々と言った合でハヤトが“伏見”の狐の前に移した。

「作戦會議かの? 良き良き。男(おのこ)とはそうでなくてはの」

“伏見”の狐があんまりにも楽しそうにそう言うのものだから、ハヤトは意を決して口を開いた。

「お、」

「お?」

「俺もぜてよ」

世界が、止まった。

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