《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第9-2話 仕事の依頼と踏破者!
「護衛ぃ~? 何で俺が、お前の護衛をやるんだよ」
ハヤトは骨に顔をしかめてそう言った。
「だってはやちゃん以外に頼める人がいないんだもん」
「なんで?」
「『百鬼夜行』のアレで全員死んじゃったから」
あっさりツバキはそう言った。あまりにもあっさりした死亡報告。ハヤトがそれで口ごもっていると、ツバキが懐から書類を取り出した。
「なにこれ」
「契約書だよ。仕事するなら書いてもらわないといけないと思ってさ」
「けるなんて言ってないだろ」
仏頂面のハヤトに対してツバキがにこっと笑った。
「そもそも、なんでお前に護衛がいるんだよ。咲桜(さくら)さんみたいに命が狙われてるわけじゃないのに」
「命は狙われてないけど、柄は狙われてるんだよ」
「柄? なんで」
「何でって。私、こう見えても“八璃(やさかに)”の當主継承者だよ? そりゃ私がしい人なんて世界中にごまんといるよ」
「……俺にける理由がない。金には困ってないし」
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「おおっ。ハヤちゃんの口からそんな言葉が出てくるなんて。私、泣いちゃいそうだよ!」
「くっそ笑ってるじゃねえか」
「ま、ハヤちゃんにける理由は無いかも知れないけど、私にはハヤちゃんのける理由を作ることが出來るんだよ」
「……教師か?」
「そ。家庭教師の先生を雇ってあげれる。そして、その學費も出して上げれるんだよ」
「そんなの、俺だって出來るわ」
「誰が保証人やるの?」
「ぐっ……」
「未年の契約なんだから親の許可がいるに決まってるじゃーん! そこら辺、私ならうまくやれる。なんで勉強してるのか知らないけど、要をしっかり押さえておくのが取引のコツだよ。ハヤちゃんはなんの勉強してるの? その気になれば東大でも京大でも好きなところの先生を呼び出せるよ」
「……高認試験」
「へ?」
「だーかーらっ! 高認試験の勉強してんの!」
「高認試験の勉強って……。高卒資格取るの? なんで?」
「何でって、大學に行きたいからに決まってるだろ?」
「何で大學に行きたいの?」
「…………きゃ」
「きゃ?」
「キャンパスライフが……送りたかったから…………」
あまりに理由が不純なのでツバキに怒られるかと思って、ハヤトは小聲になったのだが
「あ、そうなんだ。どこの大學に行きたいとかあるの?」
「いや、それは……無いけど……」
「まあ験まであと1年だし、そこら辺は適當に考えておきなよ。んじゃ、大學験の家庭教師を用意すれば良い訳だ」
「大學験? 俺がけるのは高認試験なんだけど」
「それなりの大學かる様な勉強してれば高認試験くらい通るでしょ」
「んなアホな。あの問題、くっそ難しいんだぞ」
「センターの方がはるかに難しいよ。って、勉強の話をしに來たんじゃないの! ハヤちゃんが高認試験の勉強してるのは分かったから、護衛をけてくれるなら家庭教師つけるって言ってるのっ!」
「……正直、獨學じゃ限界があるから家庭教師はしいんだよ」
「じゃ、契約立。それでOK?」
ツバキは笑う。ハヤトはため息をついて、エリナにペンの所在を尋ねた。
しばらくツバキと話したあと、彼は紅茶をちょうど一杯だけ飲み切ってから立ち上がった。
「帰るのか」
「うん。時間は何にも代えられないからね」
そういって玄関までハヤトは送りに行った。
「辛くないのか? 仕事ばっかりで」
「楽しいよ。ううん、脳(・)が(・)楽(・)し(・)む(・)ように出來てるから、それはハヤちゃんだって同じでしょ?」
「……まあ」
戦うのが好きかと聞かれれば、ハヤトは首を橫にふることはしないだろう。答えに詰まるかも知れないが、イエスとは言わない。昔はそうでは無かった。だが、今は楽しいと思える。好きだ、なんて言ってしまうかも知れない。
「うーん、やっぱりハヤちゃんは大晩型なのかもね」
「そこで褒められても嬉しくねーよ」
「……そっか。じゃあ、またね。迎えに來るからドレスコードを持って來て。間違っても防なんてもってきたら駄目だよ?」
「あー。スーツでいっか」
「そういえば持ってたね」
授賞式の時に1度だけ著たものがある。まさか2度も著ることになるなんて微塵も思っていなかったが、人生何があるか分からないものだ。
「ね、ハヤちゃん。これ」
「手紙?」
ツバキから渡されたのは紫の紙片。それは、丁寧な黒文字でただシンプルに書き上げられていた。
『八璃(やさかに) ツバキ様
お誕生日にお迎えに上がります』
と。
「なにこれ」
「差出人は不明。気が付いたらこれがポストにってたんだよ」
「お前、なんでこんな大事なを最初に見せないんだよ」
ハヤトはし怒ったようにそう言った。これがあるのと無いのじゃ話が変わってくる。なくとも、明らかに狙われているのが分かるのだから。
「ふふっ。ハヤちゃんはそう言うんだね。他の人に見せたら笑われちゃったよ。こんな古風なやり方、今時無いってさ」
「悪戯(いたずら)なのか?」
「分かんないよ」
それは、久しぶりにみたツバキの困った顔だった。
「いまはさ、どこも立て込んでるから。これじゃ、いてくれないんだって」
「そんな訳あるか。この間拐されたばっかりだろ? いてくれないなんてこと……」
「私を拐した『百鬼夜行』は壊滅した。ダンジョン関連も片付いた。『星界からの侵略者』は……まだ殘ってるけど、それでもほとんど解決したって良い。そんな中で、拐するのにわざわざこんな手紙送ってくる人なんていないでしょ。だから、悪戯なの」
「………………」
ハヤトは言葉に詰まる。彼が聲に出さずに怯えているというのが痛いほど伝わってくる。
「っていうわけだから、期待してるね。ハヤちゃん」
だが、ツバキは手紙をしまうと、何でもないかのように振舞って部屋を後にした。
ハヤトはしばらく玄関で立ち盡くしていたが、
(どー思う)
と、口を開いた。
《さて。普通に考えれば悪戯だろうな。ツバキはあの歳(子高生)でダンジョン関連の會社を立ち上げ、そのまま東証一部にのっけた天才だ。ネットで調べれば名前は簡単に出てくる。それにこの時代、住所を完全に隠すなんて不可能に近いからな。まあ、“三家”のセキュリティがどれだけのものか分からないが、悪戯に大きく目くじらを立てるほど暇でもないだろう》
(……だよな)
だが、ハヤトはまだ納得のいかない顔を浮かべていた。
《やけにこだわるな》
(いや、あの字をどっかで見たような気がしててな……)
《字?》
(あー。だめだ。思い出せん)
元まで出かかっている気持ち悪さを飲み込んで、ハヤトはリビングへと戻った。
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