《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第9-12話 談笑する踏破者!
日が沈み、しばらく時間が経つと同時にちらほらと客がり出した。誰も彼も“良い”顔をしている。虎視眈々と機會(チャンス)を伺ってきているような顔。絶対に與えられた好機を逃さないような貪な瞳。
彼らが探索者として活してもきっと上手くやるだろう。
不思議と経営者たちを見ながらそんなことを想わされた。つまり、その道しかなかったハヤトとは全くの大違いなのだ。彼らは有能だ。何でも出來てしまうのだろう。
ハヤトは彼らにバレないようにそっと息を吐いた。
ツバキは既にやって來た客人と談笑に応じている。そこは一見、雑談をわしているように見えるが違う。明らかに重大な報が換されている。それも無條件で互いに出しているわけではない。お互いに報を小出しにし、互いの誠意に応えているようなそんな會話。
(こういう世界もあるんだな)
《ああ。別にお前だって探索者だけが仕事じゃないんだぞ?》
(そうかなぁ)
ヘキサはめの意味でそう言ってくれたのかもしれない。だが、ハヤトにはそうとは思えなかった。目の前で行われている會話をやってみろと言われてもやれる気がしないからだ。
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まあ、彼らに『星走り』をやれと言っても出來ないのと同じだろう。結局のところ、何に特化したのかの違いなのかもしれない。そう考えれば、彼らも同じ人間だと思えるだろうか?
「お久しぶりですね。ツバキさん」
ツバキが高齢の男との會話が終わるのを見計らって、聞きなれた聲がハヤトの元に屆いた。
「これは、“草薙”の當主殿。お久しぶりですね」
ツバキはそう言ってほほ笑んだ。ここでの彼たちは犬猿の仲である咲桜(さくら)とツバキではない。“草薙”の現當主と、“八璃”の次期當主だ。
「この度はお誕生日、おめでとうございます」
咲桜(さくら)はちらり、とハヤトを見てし驚いた様子を見せたがまた視線をツバキに戻した。
そして、ツバキと軽い談笑。
(こいつらは喋らなきゃ死ぬのか)
《死ぬって言うか……。流のためにやってるわけだからな。楽しむためのパーティーとはそりゃ違うだろうよ》
(流、ね)
咲桜(さくら)は頃合いを見計らって會話を打ち切ると次にバトンを渡した。次にやってきたのは再び高齢の男。この場に來ている者のほとんどはソレだ。たまに若い男もいるが、それもほとんどは書や護衛である。
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「ほんとはね」
初老の男との會話を打ち切って、しだけ空いた時間でツバキがそっと話しかけてきた。
「ほんとは、この場所は私の婚活パーティーになるはずだったんだよ」
「……婚活ね」
「うん。そうだよ。だってもう私は結婚出來るんだから、次の世代を見ないといけないの」
「……まあ、そうだな」
“三家”に個人の活は許されない。“家”という絶対的なものに自分を喰わせるのだ。だが、それが苦痛ではないという人間もなくない。咲桜(さくら)やツバキは間違いなくそちら側の人間だろう。己の才覚を存分に震える機會を無駄にしようと思うほど、彼たちは自分を低く見積もっていないからだ。
「けどね、今は違うの」
「…………うん?」
「たった1人で國を救い、世界を救った英雄をみんなが見てる。本當に自分たちの推薦する次期當主の婿より優れているのかってのをね」
「……は?」
ツバキの言い出したことが一瞬、理解出來ず首を傾げた。
「あれ? 分かんない?」
ツバキは飲みを手に首を傾げた。
「今日はね、私の誕生日を祝う場であると同時にハヤちゃんのお披目會でもあるんだよ?」
「聞いて無いんだけど?」
「言ってないからね」
けらけらと笑うツバキ。
「 “三家”がいがみ合わずに協力した。それがどれだけこの國の幹を揺るがすことか分かる? 數百年ぶり、下手したら千年ぶりかもしれない。そんな危機的狀況を1人の探索者がし遂げたの。だからさ、みんな見てみたいんだよ。ハヤちゃんをね」
「……だからみんな一瞬俺を見たのか。けど何で俺を? 何が目的なんだ」
「さぁ? 目的は様々だよ。取りろうとする人もいるだろうし、ひょっとしたら消そうとする人だっているかもしれない」
ツバキはグラスにった飲みを一気に飲み切って笑った。
「戦って、相手を倒しておしまい! なんてのは原始時代で終わってるんだよ、ハヤちゃん。戦爭が終われば次は話し合いだよ。戦利品をどうするか、戦爭犯罪人は誰なのか。どこがどれだけ活躍したのか。“草薙”はここができない」
ツバキがグラスをウェイターに渡した。咲桜(さくら)が恐るべき聴力で聞き取ったのかこっちを見てきた。こえーよ。
「だから、“八咫”が表に立って“八璃”が支えるんだけどね。今回のケースはちょっと違う。政治……というか、國が絡んでない。ダンジョンは地球の問題だった。だから、“八咫”じゃなくて“八璃”が今回の終戦を締結させるの。ダンジョンの取り扱いをね」
「……ふうん?」
「例えばで言えばハヤちゃんが日本のダンジョンを最初に攻略したから、日本のダンジョンは世界で一番淺い68階層で止まっちゃった。けど他の國はもっと深いところまでダンジョンが進んでる。この差(・)はいずれ大きくなる。その前に手を打ったりするんだよ」
「……なるほどね」
「ま、そーいう難しいのは私に任せて。今日は私の側にいてくれるだけで良いからさ」
「……最初っからそう言ってくれ」
「ちょっと気を紛らわせたかったんだよ」
ツバキはてへっと笑う。そして、すぐに作りの仮面みたいな笑顔を顔にり付けて次の相手に対処しに行った。次の相手はひどく優しそうな中年の男と、もやしみたいに細い白の年の2人組だった。
「この度はお誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」
お互いに禮をする。ハヤトは護衛のため、別に禮はしない。
……うーん? この人、どっかで見たことあるな…………?
そしてまた、談笑開始。それにしてもツバキもツバキですげえよ。もう何十回目って同じ話題を嫌そうな気配を1つも見せることなく対応していく。
(頭がおかしくならねえのかな?)
《逆に聞き返すが、お前ゴブリンを50連続で狩ったら狂うか?》
(……えー。そういう問題?)
《似たようなもんだろ》
ヘキサと喋っていると、中年の男がふとハヤトに手を差し出してきているのに気が付いた。ハヤトはその握手が自分かと言う確認を振ると、中年の男はそっと頷いた。
「君が天原ハヤト君だね。噂は々と聞いているよ」
「あ、ども……」
「私は二宮(にのみや)雅彥(まさひこ)。“二宮”家の當主だ」
“二宮”家……。
「ああ、『厄災十家』の」
ハヤトは記憶の合點が言って深く彼の手を握った。
「昔の話だよ。今は“八咫”の傘下に下(くだ)っててね」
“二宮”といえば、一昔前まで暗殺の名家として知られていた家である。表だって障害を排除するのが“草薙”であれば、裏から靜かに帝の障害を排除したのが“二宮”家である。
ただ、今は時代が時代であるため“暗殺”など出來るはずがない。自然消滅したものだと思っていたが、“八咫”に組み込まれていたのか。
ならスパイでもやっているのかもね。
「そちらは?」
ハヤトはもやしみたいに細い年の方を見て、マサヒコに尋ねた。
「私の子供でね。そろそろ私も歳だから次に譲ろうと思って、々と連れ歩いてるんだ。君たちと歳が近くてね、仲良くしてくれると嬉しい」
跡継ぎか……? まだ中學生くらいに見えるけどな。
マサヒコとの握手が終わると、ハヤトはもやしのように細い年に手を差し出した。
「天原ハヤトです。よろしく」
「……二宮ユツキです」
の子みたいな名前だな……。
見た目もなんか白っぽいし……。
握った手の力にも元気をじない。到底、“人殺し”を出來るようなじには無い。
《“才能”が薄くなってるってことか?》
(どうだろうな。『厄災十家』は皆、軒並み人智を外れた“異能”を持ってる。ユウマの“戦闘力”、咲さんの“言霊”。モモは……分かんないけど、なんか持ってるんだろう)
それは三家と同じ“”の積み重ねだ。
(だからこの子もなんか持っているんだろう)
ユツキと言った年は暗なのか、握手を放すとそっと父親の後ろに隠れる様に移した。
《死神とか見えるんじゃないか》
ヘキサが笑いながらそんなことを言って來た。
(んなわけあるか)
まあ、“異能”を持っていないように見せているという意味で言えば優秀なのかも知れない。
「はは。うちの子は人見知りでね」
マサヒコはそう言って笑った。
「いえいえ。慣れないはそんなものですよ」
ツバキも重ねてフォローする。その時、ツバキはちらりと時計を見た。
「すみません。スピーチがありますので」
そう言ってマサヒコとの會話を打ち切って、ツバキはマイクが用意してあるスピーチ臺まで向かっていく。
「頼むよ、ハヤちゃん」
「ああ」
ツバキのスピーチはパーティーの幕開けを知らせるもの。全ての始まりを知らせるものだ。
思わずハヤトの手にも力がる。
「信じてる」
ツバキがハヤトを見る。
「任せろ」
ハヤトがツバキを見る。
そして、ツバキが檀上にあがると同時にステージが暗転した。
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