《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第9-14話 向かい合う踏破者!

「い、今飛んでいったのって咲桜(さくら)ちゃん!?」

「ああ」

「ぶ、無事なの!?」

いくら仲が悪いからといって、相手の死までを願っているわけじゃない。ツバキは飛んでいった咲桜(さくら)の姿を心配そうに見ていた。

「咲桜(さくら)さんがあの程度で死ぬわけがないから、大丈夫……だと思う」

「えぇ……」

いや、きっと大丈夫である。だってあの人、俺に航空機から飛び降りろとか普通に言ってきたし。あれ自分でも出來るから言ってるんだろう。だから、大丈夫。頑張れ咲桜(さくら)さん。

「そんなことより、今はアイツだ」

天日(あまひ)はこの激しい雨の中で、的確に俺達を見ている。ここから先は兎と亀の追いかけっこだ。

だが、亀は俺で兎が天日(ばあさん)。

「往け! ハヤト!!」

「ッ!!」

父親(テンマ)の言葉で弾かれたようにハヤトは飛び出した。考えろ。考えろ俺! この空間を飛び出せるような……!

「……ッ」

“神に至るは我が剣なり《イグジティウム・デウス》”なら切り取られた世界からの出も可能だろうか。だが、ツバキを抱えたままであのスキルが使えるかどうか分からない。

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「……來い!」

ハヤトは手元に槍を召喚。ただの槍ではない。相手に深く突き刺さるまで絶対に、引かない槍である。

「飛べッ!!」

ハヤトはツバキを抱えたまま天日(あまひ)に向かって投擲。それが開戦の合図となった。アマヤとアマネが雨の中で同時に『地』。いや、『地』の応用技。それが使われる技は一つしかない。

初っ端からの『星走り』ッ!!

2人のが音を置き去りにして、雨が円錐狀に弾かれる。

「『歪め』」

“九尾”は両手を2人に向けると、言霊を紡ぐ。ぐにゃり、と空間が目に見えて歪むと2人の拳は“九尾”に屆かず立ち止まった。

それと同時に天日(あまひ)に槍が接敵。天日(あまひ)はそれを手の甲でらすと、大きく弾いた。『星(まどいぼし)』だ! だが、【武創造】の神髄はその程度で止まらない。

ぐるり、と弧を描いて槍が戻ってくると天日(あまひ)の後ろから槍が飛ぶ。だが、天日(あまひ)は後ろに目でもついているかのような反速度で振り向くと、拳を槍に向かって振るう。――『彗星(ほうきぼし)』。

々に槍が砕け、武としての形を保てずに黒い霧となって消えて行く。

「大いなる怒りよ(ノウマク・サンマンダ)」

テンマの口から祝詞がれる。

こ、殺す気だ! 父親(テンマ)は“九尾”をここで殺すつもりなのだ!!

いや、それもそのはず。人に仇(あだ)なした妖怪は“魔”。それは“天原”が祓うべき相手である。

「ハナから飛ばすの」

“九尾”は顔をしかめる。だが、追撃にはかない。アマヤもアマネもかさない。“九尾”の針に撃ち抜かれた尾からわずかにが滴(したた)る。雨にのって水が流れていく。

「あとは任せたッ!」

ハヤトは全てを飲み込んで、3人に後を任せた。

「任せろ」

テンマが応える。アマヤとアマネの顔がほころぶ。

その顔はとても楽しそうで。

っからの戦闘狂どもめ。

そう思う。彼らは本當に楽しいのだろう。自分の子供たちと戦えることが。自分の兄と共に戦えることが。

自らが切り離した子供が、この戦闘の要(かなめ)を握っていることが。

例え自分がここで死ぬことになろうとも、いまこの瞬間に脳が焼き付くような戦闘を焦がれているのだ。それが、“天原”。それが、“草薙”。

そして、そのが間違いなく自分に流れていることにハヤトは気づいて笑ってしまう。

「なんで、今更なんだろうな」

“人払い”の結界にて、誰一人いなくなった東京の道路を走っていく。

「どしたの?」

天日(あまひ)が地面に飛び降りた。

「……なんでもないよ」

そう応えた瞬間、ハヤトの目の前に巨大な瓦礫が振ってきた。

「……ッ!」

後ろを見ると、第2目が飛んで來ているところだった。何を投げているのかと思えば、天日(あまひ)は近くのビルを砕(・)い(・)て(・)、それを膂力任せにこちらに投げてきているのだ。

「……はっ」

意味の分からなさに不思議な笑いが零(こぼ)れる。

「ハヤちゃん! 上!!」

ツバキの言葉に弾かれて、ハヤトはツバキを手放すと瓦礫に向けて手の平を向ける。

「『彗星(ほうきぼし)』!!」

瓦礫が々に砕けて、ハヤトの周囲に散らばる。第3目は無い。天日(あまひ)はこちらに向かって走ってきているのだ。

「なァ、ツバキ」

「うん?」

「何で、俺だったんだ?」

ハヤトはこちらにやって來る天日を見ながら、ツバキにそう聞いた。

僅(わず)かでも、あの時嬉しいと思った。

家に居場所が無く、學校に居場所が無く。“三家”に居場所が無かったハヤトにとって、ツバキから選(・)ば(・)れ(・)た(・)というのは、なからずハヤトの心を救った。それはハヤトの心の奧底にめてある本音だから。

「放(・)っ(・)て(・)お(・)け(・)な(・)い(・)と思ったんだよ」

「……はっ」

それは、ツバキの本音だろうか? まさか。

「んー。まあ、信じなくてもいーよ。別に許してもらえるだなんて思ってないし」

そういってツバキは笑った。

しいは何でも手にれる。強は善。貪は義。それが“八璃(わたし)”。それが、“天原”の欠陥品と言われた年でも。あの時、私に諦めないことを教えてくれた年だろうと。しいと思えば、全力で手にれる。それが私(やさかに)」

「……その、徹底しているところは嫌いじゃないぜ」

「何言ってんの。ハヤちゃんの方が徹底してるよ」

「そうか?」

「うん。だって、助けてって言ったら助けてくれるでしょ?」

「そうかな」

俺は別に正義のヒーローなんかじゃない。

ただ、やれることを一生懸命やって來ただけだ。

「だから、ハヤちゃん。助(・)け(・)て(・)」

「都合の良い奴だ」

ハヤトは笑う。彼との付き合い方がようやく分かってきた気がする。

「良いのか、俺で」

「私の目に、狂いは無かった。でしょ?」

「はッ。よく言うぜ。俺が途中で死んでたらどうしてたんだ?」

「“八璃(やさかに)”の次期當主が見初めた男が、その程度で死ぬわけないじゃーん」

のいい結果論である。

「咲桜(さくら)さん」

「はいはい。何ですか?」

ハヤトが呼びかけると咲桜(さくら)が高層ビルの上からロープを使って降りてきた。

「バ(・)ト(・)ン(・)タ(・)ッ(・)チ(・)です」

「良いんですか?」

「俺は……。“天原”ですから。人の護衛には向いてません。代々、“帝”を守護していた“草薙”こそが彼の護衛に相応しい」

「じゃあ、その“天原”はどうするんです?」

「“魔”を祓います」

ハヤトはこちらに迫って來る天日(あまひ)を見て、はっきりとそう言った。

「分かりました。貴方を信じます。ツバキさん。こちらに」

「でッ、でも! ハヤちゃんは!?」

ツバキは俺が最後までついてくると思っていたのだろう。咲桜(さくら)の手を振り切って、ハヤトの元に行こうとした。だが、

「ツバキさんッ!!!」

咲桜(さくら)がツバキを引っ張った。

「貴の婚約者を、貴が信じるんですッ!!!」

「…………っ!」

「あとは任(・)せ(・)て(・)く(・)だ(・)さ(・)い(・)」

自分で言って、その言葉の似合わなさに笑ってしまった。

「ハヤトさん。お願いします」

咲桜(さくら)はそう言って、戦線を離れた。彼なら、今の自分より上手に護衛するだろう。

「ん。逃したか」

ここまですさまじい速度でやってきた天日(あまひ)は、しかし息切れの1つも見せずにそう言った。

だから、ハヤトは拳を構える。

それを見た、天日(あまひ)も拳を構えた。

「天の名を継げなかった“天原”よ」

「ハヤトだ」

「うむ。ハヤトよ。良(・)い(・)目(・)だ」

今の自分に天日(あまひ)はヤれるだろうか。

あの攻撃を防げるだろうか、避けれるだろうか。

死なずに全てをけきれるだろうか。

「名乗ろう。“天原”家初代當主、天原天日」

「“探索者”天原疾人」

俺は魔祓いを名乗れない。

俺は探索者だ。

「いざ、尋常に」

だから、全てを使う。

2人の足が地面を摑む。

「「勝負ッ!!!」」

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