《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第9-17話 星走り

機械の腕は重い。故に、一撃は強くなる。

「……はッ」

地面に落ちた天日(あまひ)を見下ろして、ハヤトは笑った。彼も高層ビルから飛び降りる。真下に天日(あまひ)を見據える。彼は上から落ちてくるハヤトを見て、咄嗟に地面を転がった。

「『天降星(あまだれぼし)』ッ!」

ズドンッ! と音を立てて著地。衝撃を地面にけ流すと、地面が大きく陥沒する。

「くはッ。やはり、“天原”はしぶといの」

「どうも……ッ!」

ハヤトは吠えると同時に跳躍。再びの超駆が音の速さに乗って、天日(あまひ)を毆り飛ばす――瞬間、天日(あまひ)はそれに食らいつく。左手でハヤトの『星走り』を『星(まどいぼし)』によってけ流し、がら空きになったに『星穿ち』を叩き込む。

「……ッ!!」

ハヤトは衝撃を回転、だが間に合わないッ! の奧からせりあがってきたを吐き出すと同時に、殘りの衝撃を天日(あまひ)に撃ち返す。

天日(あまひ)は素直に打ち合わない。バックステップで回避。ハヤトの拳が空を切る。

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「チッ!」

舌打ちを一回。天日(あまひ)を見ると、深く腰を落とす構え。

――――來るッ!!

「【神降】」

ハヤトは両腕をクロスして、ガード。

「【恒星(ひさらぼし)】ッ!!」

天日(あまひ)の拳がれた瞬間、ハヤトは両腕が々に砕け散った。これは機械の腕。故に、これは(・)い(・)である。

「上がれッ!!」

ハヤトの足が飛び込んできた天日(あまひ)の顔に向かって蹴り上がる。そして、顎に直撃。天日(あまひ)が撃力を逃がす間もなく、天日(あまひ)のをハヤトの手が摑んだ。

ガチリ、と音を立ててハヤトの腕が治る。

「『星穿――」

「『星穿ち』」

ハヤトが撃つよりも速く、天日(あまひ)の蹴りが炸裂した! 地面を蹴らず、の筋だけで加速させたエネルギーは普通よりも甘めだが、ハヤトのボディに直撃。生は耐えきれず、真後ろに吹き飛んだ。

「……ッ!!!」

再び、の底から湧き上がってくる。吐き出す。

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嫌なじだ。臓のどこかが破裂したのかも知れない。だが、でガチリと音がする。

……なるほど。

どうやら『グロスクロスの無限歯車』は俺に倒れることを許してくれないらしい。

《お、おい。大丈夫なのか? 勝てるのか?》

天日(あまひ)はわずかに脳震盪を起こしたのか、ふらふらとを揺らしているがしっかりと両足で立っている。

(勝つ……ッ! 勝たなきゃ、行けないッ!!)

ツバキに誓ったのだ。俺が守ると。

咲桜さんと約束したのだ。後は任せろと。

「ふ、はははッ。なるほど、“探索者”とは面白いッ! 往生際が悪いのも、納得だ」

炎が燃え盛る。【継続戦闘の祝福】。天日(あまひ)のに起きた欠陥を治している。

「なぁ、婆さん」

「なんだ?」

ハヤトも起き上がる。砕け散った腕は既に鋼鉄のを輝かせている。

「今まで、戦っていた相手で一番強かったのは誰だ」

「うむ? それは決まっておろう。“草薙”よ」

「は、はははっ」

天日(あまひ)はしたり顔で頷いた。それにハヤトは笑ってしまう。なるほど、この人でも“草薙”は強かったらしい。

「……なぁ、聞いても良いか?」

「質問ばかりよの。まあ良い。私とここまで打ち合った相手は久方ぶりだ。答えよう」

「“天原”の技は、弱者の技だっつったよな」

「いかにも。“草薙”のは所詮、真似事よ。自らでは及ばぬ相手を狩るのが、“天原”の真骨頂なり」

「じゃあ、何で俺は“天”の名を継げなかった」

“天”の名前。それは、“天原”の正當後継者に與えられる2つ目の名前だ。

「くははははッ。奇妙なことを聞く。名前だと?」

天日(あまひ)は幽鬼のように全を揺わせながら、こちらに歩いてくる。

「ここに立っている。それが全ての答えよ」

「ああ、そうか。なら、もう1つ聞いても良いか?」

「うむ」

「俺は強(・)い(・)か(・)」

「弱(・)い(・)」

その言葉にハヤトは笑う。

「なら、俺でも勝てるってことか。アンタに」

「くはッ。お主の全てをかき集めろ。それが“天原”だ」

「ああ、それを聞いて安心したよ」

ハヤトは機械の腕を差し出した。

そこには5つの綺麗な明な玉が乗っている。

「うん? ガラス玉かの?」

「これが、俺の全(・)力(・)だ」

そして、詠唱を始める。

「大いなる怒りよ(ノウマク・サンマンダ)」

ズン、とが重たくなる。

「力を持ち給え(バサラダン)」

天日(あまひ)はしっかりと待っている。

ああ、これこそが強者の余裕。弱者の謀(はかりごと)を真正面から叩きのめせるという絶対の自信があるからこその余裕。

「大いなる力よ(センダン)」

炎が燃え盛る。が熱い。

「我が艱難辛苦を(マカロシャダヤ)打破し給え(・ソハタヤ)」

まだだ。まだ耐えろ。

「不明王よ(ウンタラタ)」

……頼む。俺のこの行為を許してくれ。

「我が願いを葉え給え(サラビバ・カンマン)」

「ほう? 不完全ながらの【神仏降臨】。だが、それはを痛めつけるだけだろう」

「流石は……開発者だぜ」

だからこそ、俺は手元に持っていた狀態保存珠(ホルダージュエル)に保存して、打ち消した。

「ほう?」

そして、再び詠唱。タイミングよく2重掛けし、狀態保存珠(ホルダージュエル)に保存して打ち消す。

「ほう。それは、それは」

天日(あまひ)はハヤトが何をしようとしているのかを悟って、大きく目を見開いた。

「ずっと、考えていた」

ハヤトは3重目の【神降ろし】を終えると共に保存。

「これは……俺の切り札だから」

4重目の【神降ろし】が終わる。保存。次で、最後だ。

「だから、全力の相手じゃないと使えないッ!」

「良き! 良きかな!!」

最後の詠唱が終わる。ハヤトの手元に殘るのは5重の【神降ろし】の狀態が保存された狀態保存珠(ホルダージュエル)。

「これが、俺の全力だ」

そして、砕いた。

が信じられないほど重い。不明王の力を5重に借りている。人間ので耐えきれるようなじゃ無い!

ぼとり、と機械の腕が熔けて落ちた。熔けた金屬がアスファルトの上をつたっていく。

だが、『グロスクロスの無限歯車』は『超(オーパーツ)』だ。すぐに耐熱仕様の腕が作り上げられる。

ハヤトはく様な聲を上げて、一歩を踏み出した。アスファルトが熔け落ちて、蜘蛛の巣のようなヒビが走る。

「最後に聞くぞ、天原天日ッ!! “覚(・)悟(・)”は良いか!!!」

ハヤトは右手を前に突き出し、左手を大きく引く。

絶対に引かない。前に進むしかない。足のが全て熔け落ちて、骨が丸だしになる。そこを『グロスクロスの無限歯車』が覆っていく。もうが持たない。不明王の威圧に、の臓が朽ち果てて、それでもを治そうと『超(オーパーツ)』がハヤトのを機械にしていく。

「良くぞ問うた! 天原ハヤトッ!!」

天日(あまひ)もハヤトと同じ構え。

「「【神降】」」

2人の聲が重なる。

それは、彼の閃きから始まった。衝撃が速度と重さによって決まるのなら、それを極めれば良い。それは『地』と『寸勁』の合わせ技。

撃力の瞬間に、全ての重を乗せれば良い。

だが、この場において天日(あまひ)の重はハヤトには及ばない。だからこそ、速度を求める。軽いで、全てを置き去りにして激突することがこの場の勝機。

ならば、ハヤトの勝機は。

「「【星走り】」」

2人の足が地面を蹴る。

剎那にして、彼らは音を置き去りにする。ソニックブームによって炎が世界を彩った。【神降ろし】によってからあふれ出す炎が、彼らのを追いかける。神々の炎の痕が空に尾を殘す。

それはさながら、夜空に煌めく流れ星のように。

故にその名は、『星走り』。

ハヤトの拳が天日(あまひ)に激突する。

天日(あまひ)の拳がハヤトに激突する。

天日(あまひ)はそこで、手を引いた。ハヤトの全力を『彗星(ほうきぼし)』で撃ち返そうとした。彼がハヤトの撃力をれて撃ち返す――――はずだった。だが、ハヤトの方が速(・)か(・)っ(・)た(・)。

「吹き飛べえッ!!」

ハヤトの拳が天日(あまひ)を叩きつけた。生粋の“天原”でもってしても撃ち返せない一撃が、天日(あまひ)のに吸い込まれる。ハヤトは両足を踏ん張り、そして大きく振りぬいた。

発的な轟音!

凄まじい衝撃波と、天日(あまひ)のかられた衝撃が東京の街を吹き荒んだ。

天日(あまひ)のが拳によって、吹き飛んだ。ビルにぶつかり、貫通する。だが、止まらない。2つ、3つと天日(あまひ)のが抜けていく。

そして、天日(あまひ)のは宙空に放り投げられて、

「……あぁ。そうか」

天日(あまひ)のを炎が覆う。

「負けたか」

全てを諦めたように悟り、そして墮ちた。

「…………ふぅっ」

殘心。

炎が消える。が前に倒れる。

「…………俺の、勝ちだ」

だが、機械の腳を前にだす。立ち上がる。

空には、無數の星が煌めいてた。

さながら、たった1人の勝者を祝福するかのように煌めき続けていた。

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