《【完結】処刑された聖は死霊となって舞い戻る【書籍化】》みなぎってきたぁああ
(ついにレベルが十になる!)
ヌシを倒し、そのままの勢いで部屋中のヒトダマを食べつくした私は、ついに進化條件のレベルに達した。
わくわくしながら進化の時を待つ。
何を隠そう、私は魔の生態に興味津々なのだ。
聖として魔の駆除に攜わるようになってから、普通のとは似て非なる生きである魔に興味を持ち始めた。
魔は子を産まない。あらゆる魔は『魔王』と呼ばれる最強種が生み出すとされている。
魔王とは絶対的な力を持ち魔を生み出す能力を持つ魔の総稱で、王國の近くの森にも一住んでいた。
どのようにして魔を創り出すのか。そして、どのように進化するのか。
聖として表立ってはできないけど、こっそり魔を観察したりしたものだ。
『進化條件を達しました。種族名:オニビへの進化を開始します』
(天使の聲!? きたきたー!)
ずっと靜かに暮らしていて鬱屈していた分、ヒトダマになってなんか吹っ切れた気がする。いつになく元気だ。
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これが俗世から解き放たれるということか!
(みなぎってきたぁああああ)
覚として近いのは魔力の増加だ。
でも、なんか違う。魂のが広がっていくというか、存在そのものが強化されているというか。
これが進化。
今までの自分とは違う、全能。例えるなら、子どもからいきなり大人になったくらいの差がある。
『完了いたしました』
天使の聲、と呼ばれる、スキルやギフト関連のお知らせをしてくれる聲だ。
神託の時とは聲が違うことから、神の使いだと言われている。
というか私魔なんだけど、唯一神様も天使様も普通に教えてくれるんだね。魔は庇護下にないって話は、もしかしたら間違いなのかも。
まあ考えても分からないことは頭の隅に置いといて、新しくなったで水たまりに飛んでいった。
(どれどれ……おお、尾? が付いた!)
ただの球だったのが、蝋燭の火のようになった。いている間は完全にオタマジャクシだ。空中を泳ぐように進めるから、移速度が格段に上がった。
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停止すると、尾は真上に立ちのぼる。オニビという名の通り、空中に浮かぶ火の玉だ。
も変わった。
白いだったのが、うっすら赤みがかっている。
(神託)
『お告げ
種族:オニビ(F) LV1
ギフト:聖
種族スキル:ソウルドレイン 火の息』
『種族系譜
進化先候補
キツネビ(F+) 進化條件:LV20』
種族がオニビになり、『火の息』というスキルが増えている。
(ふむふむ、次は二十まで上げなきゃいけないのね)
手も足も顔もないけど、尾が生えたおかげで移が楽になった!
蝶が飛ぶくらいのスピードは出ていると思う。
楽しくなってきたので、窟を自由に飛び回った。
(進化したから出られるかも!)
ヒトダマだったころは障壁があって閉じ込められていたが、オニビとなった今なら突破できるかもしれない。
出口とは反対側の壁まで下がって、助走をつけた。
勢いで結界を破壊する戦法である。力任せともいう。
進化して向上した移能力が、確かな速度を私に與える。
衝突する――と思った瞬間、結界の向こうに気配をじて急停止した。質ではないから驚くほどあっさり止まった。
「まったく、ファンゲイル様はなぜ我らにこのような雑用を押し付けたのじゃ」
「牛頭(ゴズ)、滅多なことを言うな。これも大事な役目だ」
「だがのう、馬頭(メズ)よ。ヒトダマの回収など、もっと弱い魔にでも任せればよいだろう」
くぐもった二人の聲が聞こえてくる。
(まずい、隠れなきゃ!)
話している言葉は大陸の公用語だ。もしかしたら人間かもしれないし、たまにいる人語を話す高位の魔かもしれない。
どちらにせよ、戦って勝てる相手ではない。私はさっと振り返って、奧の巖にを隠した。
「なぬ! どういうことじゃ!」
こっそり様子を伺うと、中にって來たのは二人の男だった。
いや、はたしかに人間の男のようだが、頭部は魔だった。人間の倍以上の軀に、牛と馬の頭部。それに、流暢に話す公用語。
間違いない。高位の魔だ。
「なぜ、ヒトダマがほとんどいないのじゃ!」
「牛頭、落ち著け。いないものは仕方ない」
「これが落ち著いていられるか! ファンゲイル様は戦力の増強をお求めなのだぞ!」
「大方、式に不備でもあったのだ。どれ……ふむ、ヒトダマの作も結界も問題なく作用しているな」
「當然だ! ファンゲイル様が式を間違えるわけないじゃろう」
「狹い窟で怒鳴るな。響くだろうが。式に不備がないとすれば、オニビに進化したのだろうな。前の回収から日が開きすぎたのかもしれぬ。この結界はヒトダマしか防げぬからな」
「たった一週間で進化などするわけないじゃろが! ああ、どうすれば」
「幸い養場はここだけではない。他の部屋を當たるぞ」
馬の頭部を持ったメズが、冷靜に分析している。その橫で、牛の顔で怒るゴズが地団駄を踏んでいる。
(ファンゲイルって……もしかして……)
彼らが口に出した名前に聞き覚えがあった。
かすかな記憶を手繰って、なんとか思い出そうとする。
脳裏におぼろげに浮かび上がってきた可能が、彼らの次の言葉で鮮明になった。
「戦力増強は急務だ。聖の結界が消えたのが本當ならば、これ以上ない好機である」
「わかっている!! 行くぞ、馬頭」
(不死の魔王ファンゲイルだ!)
それは、王國近くの森に住み、魔を使って攻め立てていた魔王の名だった。
何やら會話をしながらゴズメズが外に出ていったからひとまずの危機は去ったけれど、私の心境はそれどころではない。
私が聖として王宮に行くまで、人々は魔の脅威に怯えて暮らしていた。戦う力のある者たちは徴兵され、魔との戦いに繰り出されていたらしい。私が戦爭孤児となったのも、それが原因だ。
それを救ったのが、実はあまりないけど聖である私だ。
聖の作る結界は魔の侵攻を食い止め、聖域で弱化させる。その効果は絶大で、王國は安寧を取り戻した。
(私が死んだってことは、魔の侵攻がまた始まるってこと!?)
心つく前の話だから、詳しくは知らない。
でも、聖の結界がなければ敗戦必至の狀況だったらしい。
(も、戻らないと! みんなが死んじゃう!)
でも、どうやって?
私は死んだ。今はなぜか意識があるけど、所詮魔のだ。
(それに、私を処刑したのが悪いんじゃ?)
そんな思いも浮かぶ。
王子や貴族が死ぬ分には、悪いけど興味ない。殘に殺してきた相手を慈しむほど、優しくはない。
でも真っ先に死ぬのは市井の者たちだ。権力を持たない民が、最初に魔の被害に合う。また魔との戦爭が始まれば、徴兵と稱して命を搾取されることになる。
そしてその中には、私の馴染もいる。婚約者かどうかはこの際置いておいて、孤児院のみんなは私の家族と言っていい存在だ。
(このじゃだめだ。せめてもっと進化しないと、魔力が足りない)
今からいて、助けられるだろうか?
私がいなくても大丈夫じゃない? 死んだで頑張る必要ある?
相反する二つの気持ちが、心中で渦巻く。
を振ってネガティブなを追い出す。
(死んだから俗世のことは関係ないと思ってた。だけど、私はみんなのことを諦められない)
ファンゲイルが侵攻の準備を始めていることは、私だけが知る報だ。
聖の力が萬全でなくても、それを伝えることができれば、何か策を講じることができる。
(まずはオニビじゃなくて、もっと人間っぽいじゃないと。言葉を話せる魔にならないと、伝えることもできない)
今のまま王國に行っても、魔として殺されるだけだ。
私の中で目標が定まっていく。
(とにかく進化だ。まずは人型を目指す! そして孤児院の皆を助ける!)
信仰なんてこれっぽっちもしていなかったけど、一応聖だからね。
ついでに國も救ってあげよう。
あ、偽聖扱いしてきた王子は絶対許さないから覚悟しておいてね!
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