《【完結】処刑された聖は死霊となって舞い戻る【書籍化】》ex.聖処刑への対応

王宮に併設された禮拝堂は重苦しい空気に包まれていた。

たちは膝をつき、一心不に祈りを捧げている。知らせが屆いた昨朝から続けており、既に一晝夜が経過している。その間、誰一人として立ち上がる者はいなかった。

貴族たちからは疎まれていた聖だが、ギフテッド教では慕われていた。それは滅多に現れない聖のギフトを持っているから、という理由だけではない。決して驕らず、怠けず、職務を淡々とこなし皆に明るく接する彼が好ましく思われていたからだ。名実ともに聖だ、と近しい者たちは言っていた。

「ああ、聖様……」

王宮で厳しい立場におかれていることは聞き及んでいたし、ギフテッド教として正式に抗議もした。

だがそれを跳ねのけるばかりか処刑を強行するなど、誰も予想していなかった。

こんなことなら、さっさとギフテッド皇國に連れ帰るべきだった。聖のギフトを持つというだけで、この國の貴族よりも良い暮らしができる。生まれ育った孤児院が気がかりなら、全員まとめて引き取る準備もしてあった。

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だが全ては後の祭り。神たちは後悔の念に押し潰されそうになりながらも、せめて安らかな眠りを願ってひたすらに祈った。

「みなさん、そのままでいいので聞いてください。ギフテッド教は王國から撤退することを決定しました。本國にも連絡済みです。王國に籍を置く方も皇國でれますが、ここに殘るか付いてくるかは各々判斷してください」

もっともそんな人はいないでしょうが、と心の中で付け足したのは、聖に次ぐ地位にあった樞機卿レイニー。

ながら確固たる地位を築き、聖を側で支え続けた才だ。四十近くにもなるというのには若々しく、貌は衰えていない。

禮拝堂をざっと見渡し、決意を目に宿す神たちを確認すると、重々しく一度だけ頷いた。

たったそれだけで、一斉に全員がき出す。彼らの思いは一つだ。

「レイニー様。例の孤児院へ使いを出す許可を」

「もちろんです。偉大なる聖様のご家族は、我らの家族と同義。使いではなくあなたが直接迎えにいきなさい」

「かしこまりました」

王國に長居はできない。

この國は直に亡びるだろう。聖が現れるまで、神三十人分の結界を張ってもなお、魔の侵攻を抑えきれなかったのだ。聖の結界が消えたことはすぐに魔王に伝わり、事実確認をしたのち一月以には侵攻が再開されるはず。

そうなれば、聖が人生を賭けて守ろうとした孤児院も被害に合う。それはギフテッド教としても本意ではない。

その時、禮拝堂の大扉が勢いよく開け放たれた。

「おい! どういうことだ!」

突然の怒聲に、神たちのきが止まる。

焦った様子で飛び込んできたのは、第一王子セインだった。その隣に不遜な態度で立つ子爵令嬢アザレア。

を処刑した張本人の登場に神たちが殺気立つ。レイニーが彼らを視線で靜止しつつ、すっと前に出た。

「これはセイン王子。いかがなさいましたか?」

「どうしたもこうしたもない! 王國から引き上げるとはどういう了見だ? お前も裁判にかけるぞ!」

「わたくしのは神に捧げておりますので、王國の法で裁くことはできません。聖様も同様でしたがこのような扱いをされた以上、王國は盟約を破棄するということでよろしいのでしょう?」

「破棄? 何を言っているんだ。いくら寄付していると思ってる!」

「王國をお守りする対価として頂いていたにすぎません。聖の結界なしでは魔を抑えることはできないのですから」

樞機卿レイニーは口調こそ穏やかだが、心では怒り狂っていた。當然だ。敬する聖を勝手に処刑されたのだから。

最も権力を持ち頭も回るレイニーが公務で王宮を離れている間の出來事だった。帰った時には、する聖は冷たくなっていた。否、死裏に処理されたため取り返すことすらできなかった。

「聖だと? ふん、あんな孤児上がりの偽聖を傀儡にして、ずいぶんデカい顔をしていたものな? 貴様らの思などとっくに見抜いていたぞ!」

隣に控える子爵令嬢アザレアが、意地悪く口角を上げた。

この王子は本気で言っているのだろうか。レイニーは怒りを通り越して呆れてくる。

「あなたの言葉に耳を貸すつもりはありません。先に裏切ったのはそちらですもの。我々は王國と心中するつもりはございませんので」

「心中?」

「ええ。聖亡き今、魔王の侵略を防ぐことは不可能ですので」

「聖ならここにいる! それも筋の確かな、本の聖だ! 汚い平民のから聖が現れるなどありえない話だったのだ。それに比べ、アザレアは由緒正しい、完璧な聖だ。なあ、アザレア」

「もちろんですわ! あんな庶民にできて、わたくしにできないはずがありませんわ!」

アザレアの返答に、王子は満足げに頷く。

王子は己のいを無礙にした聖が気にくわなかっただけなのだが、そんなことはおくびにも出さず正當を主張する。いかに彼が愚鈍であれ、ギフテッド教を手放すのは問題だと理解しているのだ。

「分かったな? 今すぐ撤回し、アザレアの補佐をしろ」

「見習い神にすら満たない魔力で、よくそんなに自信が持てますね。あなたなど、聖様の足元にも及びません。これ以上の問答は無意味です。そちらの方が真の聖だと言うなら、一人でも結界は張れるはずです。我々は必要ありませんね」

話は終わり、とレイニーは法を翻して振り返った。

ギフテッド教は王國の國教として指定され禮拝堂を構えてはいるが、所屬は皇國である。王國の王子に命令権はない。

良好な関係を築いているは多のお願いを聞きれることはあるが、この狀況では土臺無理な話である。

「おい! 俺は第一王子だぞ!」

「ちょっと、一人で結界なんて無理ですわ! 聖なんてニコニコ座っているだけのお飾りじゃなかったんですの!?」

なおもび続ける二人を神たちが追い出し、扉を閉めた。

これ以上無駄な時間を続ける必要はない。近日中に王國を出るために、準備をしなければならないのだから。

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