《【完結】処刑された聖は死霊となって舞い戻る【書籍化】》ex.それぞれの対応

孤児院で聖とともに育ったアレンは、王都の外れで樞機卿レイニーと相対していた。

沈痛な面持ちで目を伏せるレイニーに対して、アレンの表は決意で満ちていた。

「本當に、よろしいのですね」

レイニーに呼び出され、皇國への亡命を提案されてから一日が経った。翌朝の出発ギリギリまで結論を待って貰ったのだ。

「ああ。この國を見捨てたら、あいつが死んだ意味がなくなっちゃうからな」

「あなたが息災であることが、何よりも聖様の願いだと思いますが……」

この問答は幾度となく繰り返されたものだ。

無論、本當に魔が攻めてくる保証はない。結界がなくなり魔被害が増えることは間違いないが、今すぐ滅びるという話ではないだろう、とレイニーは考えていた。

だが愚かにも聖を処刑した國に未來などない。ならば、彼の家族は助けたい。アレンは何度もその説得を聞いたが、それでも決意は揺るがなかった。

「妹と弟をよろしく……お願いします」

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ぎごちない言葉遣いで頭を下げた。

「神に誓ってお守りしましょう」

もっとも、アレンは孤児院で面倒を見ていた三人の子どもたちまで、己の我がままに付き合わせる気はなかった。アレンにとって、そして聖にとっても三人は大切な家族だ。危険に曬すのは本位でない。

よって、子どもたちとシスターは皇國に預けることにしたのだ。レイニーの言葉に甘える形になる。

「あなたのことも、いつでもれる準備はしておきます。命の危機をじたら、いつでも皇國に」

アレンが王國に殘ったとして、何かできるだろうか。

彼はギフトもなければ、冒険者や兵士のように戦うを持っているわけではない。彼が殘ったとしても、魔を打倒しうる力はない。

だが彼は王都に多くの知り合いがいる。今でこそ五人で暮らしている孤児院であるが、期を孤児院で過ごし一人前となって巣立っていった者たちは多くいる。アレンは彼らを見捨てることなどできなかったし、事を伝えてともに立ち向かうつもりでいた。

「この國はあいつが育ち、守り、死んだ國だ。俺も死ぬときはこの國で死ぬ」

「それが、聖様を殺した者のせいであっても?」

「ああ。それにこの國にいれば……あいつが戻ってくるような気がして」

アレンのその言葉に、レイニーは何も返さない。

ただ小さく息を吐いて、踵を返した。出発の準備はできている。後は馬車に乗り込むだけだ。

「ありがとうございました」

アレンの行は、意味のないことかもしれない。それは本人も重々承知だ。

それでも、國を離れるという決斷はできなかった。

ここは、聖と育った國だから。

第一王子セインは、次々にやってくる部下から報告をけていた。

國王が病で表に出なくなって數年、政治的にも軍事的にも彼が最終的な決定権を握っていた。支配していると言い換えてもいい。

ここまでの地位に上がるまで、決して楽な道のりではなかった。

王位継承権を持つ王子と言えど、國に敵は多い。また明確に敵でなくとも、崩する前から実権を握ることに反対する重鎮も多くいた。

彼はその全てを、権謀數の果てに退けてきた。権力を握るためならなんでもした。政敵を暗殺し、人質を取って有力貴族を従わせ、不都合があればみ消した。

一つ間違えば自らを追い詰めるような策で、薄氷の上を歩きながらも全てをやり遂げた。彼は政戦に長けていた。

そしてついには、王宮でセインに逆らうものはいなくなった。

「くそっ、あの忌々しい聖がいなければ」

ギフテッド教會を除いては。

王國に支部を構えていても、厳には皇國に所屬しているギフテッド教に対しては、彼の権力も屆かなかった。樞機卿レイニーは切れ者で、彼の手練手管を歯牙にもかけなかったのだ。

だから、彼が王都を離れている隙を狙って聖の首にギロチンを落とした。

「あと一歩だったのに……」

「あの、王子様?」

「聞いている! 続けろ」

「はっ。近隣の街ではスケルトンの目撃報告が先月の十倍にまで増えております。現在冒険者を中心に対応に當たらせておりますが、既に現場からは限界だと……」

「兵士ならいくらでもいるだろう。スケルトンごときに何をてこずっている」

苛立ちを隠さず足を上下に震わせるセインを前に、報告に來た騎士は無言で頭を垂れた。

ようやくここまで來たのだ。

を擁することで態度を大化させていたギフテッド教を牽制し、王國貴族から聖を輩出することで彼らをも取り込む。そして爵位こそ高くないが資産を多く持つ有力な貴族を、聖の実家ということで重用する。全て、セインの思い通りに行くはずだった。

「おい、アザレア! お前は聖だろう!? なんとかしろ」

「なんとかってなんですの! 聖なんてお飾りだから何もしなくていいとおっしゃったではありませんか!」

アザレアは取り立てて量の良いではなかったが、元聖を手籠めに出來なかった腹いせに妾にした。ただ聖という存在を自分のものにしたかっただけだ。

「ちっ。だが、所詮魔など王國の敵ではない。樞機卿は滅ぶなどと抜かしていたが、大げさに言っているだけだろう。全て返り討ちにし、ついでに皇國も裏切った罪で征服しよう。俺にはそれができる」

彼は、未だに気が付いていなかった。

否、目を逸らしているだけかもしれない。

己が致命的なミスを犯したことに。

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