《【完結】処刑された聖は死霊となって舞い戻る【書籍化】》森にただいまー!
別に、謝されたくてやったわけじゃない。
會うことはできなかった孤児院の皆や、街を守ることができた。それだけで十分だ。
本音を言えばアレンともっと一緒にいたかったけど、このがけれられないことは元より分かっていた。
でも、こんな思いはもうたくさんだ。
(ぜったい人型になってやる!)
うじうじしてるのは私らしくないもんね!
人間らしい見た目の魔になれれば、なくとも初対面で怖がられることはなくなる。ファンゲイルは骨さえ持ってなければ人間にしか見えないもん。進化を重ねればきっと、人型になれるはず。
(もしかしたら人間に戻れたりとか!?)
それはないか。
とりあえず魔の侵攻を食い止められたから、森に戻って向を探ろう。
今度こそ見つからないように、報を集めないと。
夜の帳が降りるとほぼ同時に、私は『不死の森』へと戻って來た。不気味な靄(もや)が立ち込めるこの森も、私にとってはすっかり心安らげる場所になったね。第二の生まれ故郷と言ってもいい。
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(ただいまー!)
「おかえり」
(ひゃいっ!)
まさか返事が返ってくるとは!
ていうか、この年のような明るい聲は……。
(ファンゲイル!?)
慌ててその姿を探すと、針葉樹に寄りかかって座るファンゲイルの姿があった。傍らには當たり前のように魂のっていない人骨がある。しかも、前回とは服裝が変わってる。オシャレさんなのね?
「やあ、見てたよ」
(ぎくり!)
きっと私のことを始末しに來たんだ!
上手く逃げきったと思ったのに……。私が聖だったことはバレてるから、ファンゲイルにとっては因縁の相手だ。見逃す理由がないよね。
私としてもファンゲイルさえ倒せば街は守れる。人間の姿をしているとはいえ魔王、躊躇してられない。私はちょっと逃げ腰になりながら、ポルターガイストの発準備をする。さっきの戦闘で魔力を使いすぎて、殘量がほとんどない。
「驚いたよ。ちょっとした宣戦布告のつもりで下位の魔をけしかけたら、まさか君が現れるなんてね。ましてや被害ゼロで勝つとは思わなかった。エアアーマーは結構強いんだけど、レイスになったおかげかな」
ファンゲイルは地面に置いた杖に手をばすことなく、呑気に骨子ちゃん(私命名)の頭をでた。
相変わらずの変態趣味で怖気立つ。どうやら即殺し合い開始、みたいな雰囲気ではないようで穏やかな笑みを湛えている。
(なにしにきたの?)
「ああ、そんなに怖がらないでよ。さっきも言ったとおり、ここにいるのはたまたまなんだ」
(私を捕まえたいんじゃないの?)
「昨日はそう思っていたけど、今は君に興味が湧いているんだ。取って食おうなんてつもりじゃないから、安心していいよ」
ファンゲイルの口調は優しい。でも、そうやって油斷させてくる気かもしれない。
それならそれでむところだ。このチャンスに報を引き出そう。その迂闊さで捕まりそうになったことを棚に上げつつ、腕を降ろした。
「君、聖だった子だよね?」
(うん、そうだよ)
「そっか。死んだから結界がなくなったんだね。てっきり皇國に行ったのだと思っていたよ。不運だったね」
聖のこと、皇國のこと。隨分人間側の事に詳しいらしい。
「生きてたころの記憶はあるし、ギフトも使えるんだよね?」
(うん)
「すごいな。長年研究してきて初めてだよ、そんなの。聖だからなのか、式に変化が生じたのか。聖以外にも、レアギフト持ちの魂なら……。再現が可能なら知能の高いゴーストの集団を作れるし、もしかしたら人を……お前(・・)を蘇らせることも……」
顎に手を當てて、骨子ちゃんを見ながらぶつぶつと思案するファンゲイル。
気がつけば私が報を引き出されている気がするね。
うう、腹の探り合いは苦手なんだよぉ。貴族にはそういうの得意な人たくさんいたから、なるべく余計なこと喋らないように、とレイニーさんに厳命されてた。アホな子だと思われていたのかもしれない。
このままで終わるわけにはいかない!
(ねえね、次いつ攻撃する予定?)
「はは、直球すぎるでしょ。教えたら邪魔するんでしょ?」
(しないよ!)
します。
さすがに教えてくれないか。
砦で見た魔が一斉に攻めてきたら、兵士だけじゃとても対応できない。冒険者や騎士団が揃ったらなんとか抵抗できるかもしれないけど、ゴズメズや門番スケルトン、あるいは姿を見ていない幹部の魔が現れたら勝ち目がないだろう。
もし負けたら、その時は王國が滅ぶ時だ。
「そうだな、君が僕のになるっていうなら教えてあげるよ」
(え゛っ)
「そんな嫌そうにしなくても……」
いや、乙としては死んだの骨とイチャイチャするような変態はちょっと……。
ファンゲイルの綺麗な顔が悲しそうに歪む。
(私は、王國に大事なものがあるから、あなたの仲間になるわけにはいかないの)
「大事なものっていうのは、さっきの人間たちかい? 隨分嫌われていたようだけどね」
(それは……)
「人間って薄で殘酷だよね。たった今助けてくれた相手にも、平気で手のひらを返すんだ。それが正しいことだと盲信してね。固定観念に支配されて、本質を見ようとしない。君の心はとっても優しいのにね」
見た目もキュートだけど、と歯の浮いたセリフを吐くファンゲイルの目は、ちっとも笑ってなかった。まるで、別の誰かに向けた言葉のようだった。
(そんなことない! アレンはちゃんと私って気づいてくれたもん)
「君を庇っていた男の子かな? そうだね。でも君は彼を攻撃したじゃないか」
(それは……)
「分かってるよ。彼が君の仲間として迫害されないように機転を利かせたんでしょ? 今後も侵攻が続けば、彼の立場がどんどん危なくなってくからね。でも――それこそが、君が人間を信用していない証拠じゃないかい?」
言葉が詰まる。
別に、そこまで深く考えていたわけじゃない。アレンが困らないようにしたいなって思ったら、ファイアーボールを撃つことを思いついた。
結果的にアレンはカールの元に戻り、私は森に逃げ帰って來た。彼らの中で、私は完全に敵だと認識されただろう。
「君は死霊なんだ。人間の中に居場所はないよ。どれだけ盡くしても彼らは何度でも君に牙を剝く。僕のところなら可がってあげられるし、仲間もいっぱいいる。悪くない話だと思うけどね」
(なんで私がしいの?)
「研究に協力してしい。君は特別な存在だから、できれば無理やりじゃなく自分の意思で來てしいと思ってるんだ。聖の時にさんざん邪魔してくれたことは不問にしてあげる」
やっぱに持ってた。
「まあ、考えておいてよ。僕はいつでも君をけれるよ。ただし邪魔をするなら容赦しないけどね」
ファンゲイルは立ち上がって念に汚れを落とすと、骨子ちゃんを抱きかかえた。
木の裏から巨大な骨が顔を出した。人骨じゃない。あれは……ドラゴン? 見聞でしか知らない存在だけど、ファンゲイルの三倍ほどの軀に巨大な足、比較的小さな腕といった特徴はまさしくドラゴンのだった。
ファンゲイルは魔力を使って跳び上がり、ドラゴンの頭蓋骨に乗った。
「じゃあね、死霊聖ちゃん」
ドラゴンは骨の翼を羽ばたかせ、ファンゲイルを乗せて空へ舞い上がった。
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