《【完結】処刑された聖は死霊となって舞い戻る【書籍化】》の子ども

ファンゲイルに付き従う二の魔。人語をるBランクの魔で、私の聖結界を一瞬で破壊した実力者でもある。

同時に、今回の侵攻が日のある時間に行われた理由が分かった。

彼らはアンデット系ではない。ファンゲイル曰く半人半獣で的な種族は分からないが、おそらく視界を理的な目に頼っているタイプだ。人間に近い姿をしているため、夜の戦闘は不向きなんだと思う。

だがそれは人間も同じ。わざわざゴズとメズが指揮をしているということは、晝間でも勝つだけの勝算があるに違いない。私が人間側についていることも既にバレているし、なかなか厳しい戦いになりそうだ。

(正直、今でも勝てる気がしない)

思えば、ヒトダマになってから三回も遭遇している。一回目は、ヒトダマのヌシを倒してオニビになったすぐ後、ヒトダマの回収に來た二人を隠れながら盜み見た時。二回目はゴーストになって浮かれていた時、森の中で。そして三回目は、追いかけた先にあったファンゲイルの砦に侵した時。

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その中で、彼らと戦ったのは一度だけだ。いや、戦いなんて呼べるものではなく、彼らの攻撃から必死に逃げた時だ。

牛頭のゴズは闇魔力を纏わせた斧で、馬頭のメズは槍を用いて同じく闇スキルで、私を狙った。その時、咄嗟に張った聖結界はメズの槍でいとも簡単に貫かれた。

(あの頃よりは強くなっているけど、アンデットじゃないなら聖屬の効き目は高くないし……)

かといってポルターガイストで出力が足りるかどうか。

エアアーマーには有効だったし、重たい巖でも持ち上げることができたから、有効だと思いたい。仮にダメでも、諦めるわけにはいかない。

(街の人の避難はまだ終わってないんだ。街にられるわけにはいかない)

ファンゲイルの目的はおそらく王都だ。

軍勢は相変わらず、『不死の森』から王都へまっすぐ向かっている。経路上に私たちの街があるのは不運でしかない。王都に危機が迫れば騎士団も重い腰を上げるだろうに、街の防衛には參加する気はないらしい。

孤児院のある街は王都のように外壁に囲まれているわけではなく、堀もない。簡素な塀など、取りつかれたら簡単に破壊されてしまうだろう。なんとしても手前で止める必要がある。

(今回は兵士も多いし、冒険者だってたくさん協力してくれるもん! ぜったい勝てる!)

まずはアレンたちと合流しよう。

あの數の敵に一人で挑むような真似はしない。敵視察を終え、ゴズメズに気取られないよう注意してその場から離れる。二はアンデットに歩調を合わせているのか、多先行しているものの速度は遅い。この分なら、し離れた場所に兵を展開する余裕はあるだろう。

雑木の中を通って來た道を引き返そうとした、その時。

「あった! 薬草だ!」

無邪気な聲が耳にって來た。

「これでママを助けられる! 早く持って帰らないと」

前回の侵攻により、付近の村や街には街道に出ないように、と通達が行っていたはずだ。

そうでなくとも、街道から外れた雑木林。それも不死の森に近いこの場所は、慣れた大人でもることはない。冒険者以外、用事がないからだ。

だが、そこにいたのは一人の男の子だった。

年齢はおそらく十に満たないくらい。赤がキュートで目がぱっちりとしている。

どうみても冒険者ではない。戦う力を持たない、子どもだ。

(どうしてこんなところに子どもが!?)

ファンゲイルの軍勢が、すぐそこまで來ているのだ。

早く、街まで逃がさないと! なによりも、その考えがすぐに浮かんだ。

「あははは!」

なるべく笑顔を作って(といっても顔はないから雰囲気だけだ)両手を上げながら近づく。

ここは危ないよ、一緒に逃げよう。

年は泥だらけの手で草を一束握って、ぽかんと私を見つめた。

(怖がらないで、私は優しいおばけだよー)

安心させるように、手を振ってを左右に揺らす。

でも、私の姿は黒マントの霊だ。大人でも即座に戦闘態勢にる魔が、子どもにとって怖くないはずがない。

年の目に涙がにじみ、薬草を落として數歩下がった。踵がっこに引っ掛かり、餅をついてしまう。

「ま、ママぁあああ! やだ、やだよ! 來ないで!」

助けるどころか、盛大に怖がられてしまった。

近くの村の子どもだろうか。先ほどの発言から、怪我か病気のお母さんを助けるために薬草を取りに來たのだろう。とっても良い子で努力は認めるけど、タイミングと場所が悪いよ……。

(えっと、えっと、どうしよう)

子どもの対処はアレンの方が上手いんだよね。どっちかといえば、私はお世話される側だったから。

とりあえず街道まで連れて行けば兵士の人に預けられる。

「こっち來ないで!」

腰が抜けて立てないのか、這うように私から離れていく。

どうしよう、連れて行くどころじゃない!

「この辺から聲が聞こえた気がするのじゃが」

(最悪の狀況だ……)

これが子どもの聲を聞いて様子を見に來た兵士だったらどれほど良かったか。

後ろから姿を現したのは、斧を肩に擔いだゴズだった。

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