《【完結】処刑された聖は死霊となって舞い戻る【書籍化】》VSゴズ

(やばい!)

私は咄嗟に年を背に隠す。座り込んだ子どもくらいなら私のでも隠せるし、半明とはいえけて見えるほどじゃない。今のうちに逃げて!

「ひっぐ」

橫目で盜み見ると、年は息を飲んで固まっていた。もはやび聲も上げられないくらい、恐怖に支配されている。當然だ。見上げるほどの軀を持つ牛頭の魔は、大人でも足がすくむほど迫力がある。なんとか気を保っているだけでも褒めてあげたい。

「あ? なんじゃ、レイスか。早く隊列に戻るのじゃ」

「あ、あはは……」

幸い、子どもには気が付いていない。それに、私が例のゴーストであることも察していないみたいだ。

「レイスなんていたかの……? まあいいわい」

ゴズはそう言って、興味を失ったのか目線を逸らした。これがメズだったらもっと追及されていたかもしれない。今まで聞いた會話だと、メズは用心深い格のようだから。

とはいえ、このままゴズが離れてくれるに越したことはない。子どもを守りながら戦うのは難しい。早く逃がさないと。

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(ほら、危ないからお姉さんと街道に戻ろう?)

伝わらないと思うけど、そう必死に念じる。

一歩、また一歩とゴズが遠ざかっていく。大丈夫、このままいなくなってくれれば、年を助けられる。

「カタカタ」

悪い事というのは重なるもので、今度は背後からスケルトンが現れた。ゴズがちらっとこちらを見た気がする。

スケルトンは同じアンデットである私は無視して、年に眼孔の空を向けた。完全に腰を抜かしている年はけない。

スケルトンは年に狙いを定め、近づいてくる。きは遅いが、年には逃げる気力は殘っていない。

「や、やだ。ママ……」

(ソウルドレイン!)

今の私ならホーリーレイなしでもただのスケルトンくらい倒せる。

し手こずったけど、魂を吸い出すスキルで骨から魂を無理やり引きはがした。魂がなくなった瞬間、骨はばらばらになって地面に転がった。カタカタ、と骨同士がぶつかる音が靜かな森に響いた。

「ほう」

恐る恐る振り向くと、ゴズが鼻を大きく開いて口角を上げていた。

「ファンゲイル様がおっしゃっていたのは貴様のことか。子どもを庇い同族を殺すとは、あの日の結界といい、特殊な個のようじゃな」

「怖い、怖いよ……」

うわ言のように繰り返すだけの年を責めることはできまい。こんな狀況、冷靜でいろと言う方が無理がある。

こうなったら形振り構ってられない。

(聖結界、ポルターガイスト)

私とゴズの間に素早く理に強くした聖結界を展開し、ポルターガイストの魔力で年を包み込んだ。

エアアーマーの兜を強引に外せるくらいの力が出るスキルだけど、あれはと兜を別々に摑んで引っ張ることで可能にしている。を固定したり摑むためのスキルなので、握りつぶすような使い方はできないのだ。だから、脆弱な子どもとはいえ宙に浮かせても壊さず摑んで移させるくらいはできる。

「えっ?」

(ちょっとじっとしててね)

念のため、スキルの度を上げるために抱きかかえるようにして、年を浮かせる。転んでけがをしているかもしれないから、軽い回復魔法もセットだ。どうか安心してしい。

「逃げるか! なら――ダークスイング」

「あははは!」

そりゃ逃げるよ!

ゴズは大きく一歩踏み込むと。闇魔力を纏った斧を豪快に振りぬいた。凄まじい威力だ。勢いのまま中木を數本なぎ倒し、私の結界を破壊した。エアアーマーといいメズといい、私の得意魔法である結界をいとも簡単に壊してくるから自信がなくなるね。

「不快な笑い聲じゃな。ファンゲイル様より、貴様を見つけたら全力で攻撃するよう仰せつかっている。それに、景気づけに子どものが食べたかったところじゃ」

なんとか間合いから逃れた私は年を抱え、バキバキと木が倒れる音から逃げる。

大斧が橫薙ぎに振るわれるたび木を切り株に変えるが、ゴズの勢いはとまらない。なんて力と腕力なのだろうか。

それにしても、ファンゲイルが私を殺す気ならなんでこの前やらなかったんだろう。ゴズに倒されるようなら仲間には必要ないっていう判斷なのかな。

子どもの、というワードに、年の顔が一層恐怖に歪んだ。私をちらちら見てるけど、食べるために運んでいるわけじゃないよ!

(ホーリーレイ!)

「ふんッ」

木の裏側に逃げ込みながら放った線は、盾のように構えた斧の側面に弾かれた。次の瞬間には、背後の木が砕された。

年を抱えているからすり抜けて進むことができず、木を避けて蛇行しているため付かず離れずの距離を保たれている。反対に、ゴズは木があっても構わず、力任せに破壊しながら直進してくる。

(もうどっちが街道かも分からないよ……)

方向を気にして逃げる余裕なんてなかった。

年はすっかり怯えた顔で、ぎゅっと目を瞑っている。それでも手には、いつの間にか拾い直した薬草がしっかり握られているので、ママ思いのいい子だね。

「なかなか逃げ足が速いようじゃが、わしには勝てぬぞ。牛鬼斬(ぎゅうきざん)ッ!」

大斧の存在が増した。先ほどまでとはけた違いに多い魔力が斧に込められているのが分かる。

それだけじゃない。ダークスイングでは炎のように揺らめく闇魔力を纏っているだけだった。謂わば私が兵士の剣に聖屬を付與したのと同じじだ。

しかし、今の大斧は刃が二倍、いや三倍ほど大きくなっている。魔力が実を持ち、斧を拡張するようにの刃をばしているのだ。

本能的に悟る――あれをければ死ぬ。

(聖結界……ありったけ! 理も魔法もどっちも防げるやつ!! そして破邪結界!)

全力で防態勢を取る。

ゴズは好戦的に目を細めて、間合いを詰めた。

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