《【完結】処刑された聖は死霊となって舞い戻る【書籍化】》聖なる鎖

年を抱えていてスピードの落ちた私では、拡大された斧を避けられない。

闇魔力によって拡大された刃は、周囲の木を容易く切り裂きながら結界と衝突した。

その威力はエアアーマーの『虛無斬り』以上だ。

の持つ結界の中で強度という點ではもっとも強い破邪結界。聖屬でありながら理的な破壊力ももつそれは、ゴズの『牛鬼斬』となんとか拮抗した。

(重たいっ!)

ゴズの方を向き、結界に魔力を送り続ける。反屬魔力が思い切り衝突したことにより、空気を切り裂く轟音と雷のようなが結界と斧の間に生じた。年が両手で耳を塞ぐ。

「ふがぁああああ!」

さながら剣士の鍔競り合いのように、膠著狀態が生まれた。その間も破邪結界は斧を破壊しようと食らいつき、闇の刃は私と年の首にびていく。

聖結界が一枚のガラス板だとすれば、破邪結界は圧された空気だ。高度の魔力が渦巻くように絶えず移し、斧の勢いを殺していく。

(破邪結界だけじゃなくて、聖結界も張ってよかった)

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破邪結界だけでは押し切られていた可能がある。

また相手が斧という攻撃範囲が広い武であることも幸いした。一點突破の槍のような武の場合、食い止められたか怪しい。

それでもパリン、パリンと聖結界が一枚ずつ割れていく。

(でももう、無理!)

じりじりと押され始めた。

私はポルターガイストで包んでいる年を斧の程外に一息で飛ばし、大木の前に座らせる。そして、私自も回避する準備をする。

(結界を解除すれば、このままの軌道で斧が振りぬかれるはず!)

結界の突破は時間の問題だ。

覚的にはかなり長かったけれど、拮抗していた時間は実際十秒か二十秒くらいだと思う。両手を前に突き出して結界を維持していたけど、もう限界だ。

私は押し切られる前に結界を全て解除した。それと同時に、上空へ跳びあがった。空を飛ぶのはレイスになってもできないけど、ゴズの頭上を跳び越すくらいならわけない。

「ぬうぉっ!?」

唐突に破邪結界が消えたことで、ゴズは勢い余って前につんのめった。斧を手放すような下手はうたなかったが、遠心力に振り回されて余分に一回転する。

だが、足腰が相當強いのか、右足を一歩踏み出すことですぐに勢を立て直した。

(ポルターガイスト!)

ゴズが斧を下ろしきを停止した瞬間を見逃すわけがない。ゴズの頭上から、今度は全力の闇魔力を叩きつける。

(これが死霊聖の戦い方だよ!)

の魔法で守り、魔のスキルで攻撃する。

『聖』のギフトを持ち魔として蘇った私にしかできない戦い方だ。

「こざかしい! この程度の魔力、跳ね返してくれるわ!」

を摑む力を、下方向に掛け続ける。魔力がさながら落石のように、ゴズを上から押さえつける。ゴズは膝を軽く曲げることで対抗してきた。

(斧を奪えれば!)

ポルターガイストで斧を摑む。ゴズがきを取れない今なら強奪できるかもしれない。

「舐めるな!」

ゴズは両手でしっかりと斧を握り、離さない。エアアーマーの兜ですら引きはがしてみせたポルターガイストでも、彼の握力には敵わなかった。

ゴズは全から魔力を放出し、に降りかかるポルターガイストを吹き飛ばした。

力任せに見えて、意外にも機転が利くらしい。魔力の作もだ。

「たかがレイスにしてはやる(・・)ようだが、所詮その程度!」

「あ、あはは……」

(強い。これがBランクの魔!)

これで幹部ですらないとは、ファンゲイル軍勢の層の厚さは人間の比ではなさそうだ。ゴズと戦えるものが、人間にどれだけいるだろうか。

レイニーさんは『樞機卿』という『神』や『聖』などと同系統のギフトでありながら、直接戦闘に優れた魔法を持っていた。噂だと『教皇』に近いらしい。さらに、彼は聖騎士団に努めた経験もあると聞いたことがある。

私が知る中でゴズやメズと戦えるとしたら、彼だけだ。

あとは、冒険者ギルドの上位陣がどれだけ強いか。実際に関わったことがほとんどないから分からないけど、數人いるかどうかだと思う。

「儂が斧を振り回すだけの能無しだと思ったか? 力だけでは高位にはなれぬぞ!」

(メズと比べたら大分おバカだと思います!)

「貴様があの人間を守りながら戦っていることは分かった。ならば、こうするまでじゃ」

嫌な予がした。

ポルターガイストを自力で解き、自由のになったゴズは私に斧を振り上げたかに見えた。

だが、次の瞬間にはを翻し、口角を耳に屆きそうなくらい吊り上げた。彼が向いた先は――薬草を抱きかかえてこまる年だ。

「止めてみろ」

ゴズは斧を上段に構え、地面を蹴った。

彼の腳力に掛かれば、年を逃がした距離などたかが知れている。一足飛びで、瞬く間に接近した。

(だめ! 間に合わない。聖結界!)

彼の前になんとか聖結界を張るも、わずかな足止めにしかならない。

斧はなんのスキルも発していない狀態であるが、人間の子ども一人殺すのに、絶大な威力はいらない。斧本來の重量で叩き潰せば命はないのだ。

「殘念じゃったな。魔は非道なものじゃ」

斧は木れ日を反して煌めき、年に振り下ろされた。

それを止める手段は、私にはない。

「ママ――」

年のか細い聲が、かすかにれる。

私は懸命に手を、ポルターガイストを、結界をばす。足りない。

「聖なる鎖(グレイプニル)」

年の命を刈り取る巨大な刃は、髪一本を斬ったところで停止した。

「なぬっ!?」

見ると、ゴズの腕にはり輝く鎖が巻き付いていた。斧にも同様だ。

穢れをしらぬ、純白の鎖だ。どこか懐かしい、らかい聖魔力で満ちている。それでいて、敵には容赦のない正義の魔力。

「大きく、分厚い刃は世界で一番嫌いなものです。敬するお方の命を奪ったものですから」

知っている聲だ。

「降ろしなさい、下郎。私が相手になりましょう」

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