《【完結】処刑された聖は死霊となって舞い戻る【書籍化】》共闘

「なんじゃこの鎖は……!」

「魔の分際で、言葉を話すようですね。――縛り上げなさい」

細く白い指で糸を手繰るように宙をなぞったのは、純白の法を纏う。木々がなぎ倒され土埃の舞う森の中で唯一、穢れのない存在を発する存在。

(レイニーさん!!)

先立って皇國へ向かったから、ここにはいないはずなのに。

「儂がきを封じられただと?」

「神聖な気配をじて來てみれば、隨分と大柄な魔がいたものです。とはいえ、私の聖なる鎖(グレイプニル)には手も足も出ないようですが」

戦闘能力、特に魔と戦う能力においては『聖』すらも超える『樞機卿』によって生み出された鎖が、ゴズを締め付ける。

ゴズは顔を真っ赤にしてこうと藻掻くが、巻き付いた白い鎖がそれを許さない。

聖なる鎖(グレイプニル)……レイニーさんの誇る強力な魔法だ。彼の魔力で生み出されたそれは、実を持って対象を縛り付けるのだ。聖屬を帯びており、レイニーさんによって自由自在にく。

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(今のうちに年を助けないと! ポルターガイスト)

年は膝を抱えて目を堅く瞑っている。ポルターガイストで彼を摑み、直前で停止している斧に當たらないように、慎重に移させる。

君は頑張ったよ。えらいえらい。そう意思を込めて、回復魔法をかけて上げる。私が雑に放ったせいでちょっとりむいてるからね。

年は、目をぱちくりさせて、私とレイニーさんを互に見た。あんな目にあって気絶していないなんて、なかなか將來有だね。

(あ……レイニーさんから見たら年を攫ったように見えるかな?)

商人の男を助けたあと、弁明の余地もなく攻撃されたことを思い出す。あの時はゴーストで、今はレイスという違いはあるけれど……むしろ今の方が見た目も能力も兇悪だ。

レイニーさんと目が合う。

すっと細められた目は、何を意味しているのか。

「そこの――ん?」

「ふん、がぁあああ!」

レイニーさんが私に何か言おうとした瞬間、ゴズが力任せに鎖を引きちぎった。

聖なる鎖が壊れるところを見たのは初めてだ。強度もさることながら、魔の力を奪う効果もあるはずなのに。

「この程度で儂を抑えられると思ったか!」

大破した鎖を払いのけたゴズが、斧を構えて吠えた。

「ふむ、きを停止することを優先しすぎましたか。それでも、解くまでに數十秒は掛かったようですが」

「やかましい! 二度と喰らわぬわ!」

誰が聞いてもやかましいのはゴズだと思う。

レイニーさんは極めて冷靜にゴズを見據えている。

再び聖なる鎖を放とうと魔力を形した瞬間、ゴズが地面を蹴った。

「ダークスイング」

(聖結界!)

私はすかさずレイニーさんの前に躍り出て、結界を展開した。レイニーさんは聖ほど防が得意ではない。私が守らなくても自分のくらいは守ったと思うけど、代わりに結界を張ることに意味はある。

この隙に、レイニーさんが攻撃をできるからだ。

「ホーリーレイ」

レイニーさんは結界を張るために指先に集めた魔力を即座に攻撃へ転じた。

それは聖職者系のギフトであれば一般的な、聖屬の攻撃魔法だ。私も使えるし、なんなら見習い神でも使える。

しかし、使い手によってその威力は大きく異なる。

レイニーさんの卓越した魔力作によって生み出された高度の線は、私の橫を過ぎ去りゴズを貫いた。

「ぐはっ」

面積の広い斧が正中線にあったため致命傷にはならなかったが、左肩に命中した。ホーリーレイが貫いた場所は指先ほどのが空いていて、傷口は焦げ煙が上がっている。

「き、貴様よくも!」

ゴズはバックステップで距離を取り、傷口を抑えた。

肩を貫いたとはいえ魔の生命量は高く、Bランクの魔ともなれば勝負が決するほどではないだろう。だが、確かなダメージを與えることができた。

「私が攻撃を擔當しますので、防とその子の護衛はお願いしますね」

レイニーさんが、生前の私に語り掛けるような優しい聲音で言った。

「子ども好きのレイスさん?」

「あはは!」

(任せてよ!)

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