《【完結】処刑された聖は死霊となって舞い戻る【書籍化】》勝った!

(勝った!!)

ゴズとの遭遇は想定外だったけど、なんとか年を守り切ることができた。

レイニーさんが來てくれなかったら絶対に勝てなかった。私の攻撃力では、ゴズの守りを突破することができないからだ。

聖域と破邪結界を解除して、レイニーさんに向き直る。ポルターガイストを作して、背にいる年をゆっくり降ろした。

「あはは!」

(いえーい)

右手を上げてハイタッチ。

レイニーさんは手を半分だけ上げて、すぐに降ろした。私から目線を外し、年の前にしゃがみ込む。

「よく頑張りましたね。歩けますか?」

「う、うん……」

年は涙と鼻水でぐちょぐちょの顔を袖で拭って、立ち上がった。その手には変わらず薬草が一束握られている。平民や農民がよく使う、風邪に効くという薬草だ。お母さんを助けるために自分で取りに來るなんて偉いね。

タイミングが悪くてゴズに襲われることになっちゃったけど、それでも手放さなかったのはすごい。きっと優しい青年に育ってくれるだろう。

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「魔はまだいるでしょうから、わたくしが安全なところまでお連れしますね」

そう言って、レイニーさんは年の手を取った。私が連れて行こうと思ってたけど、彼に任せれば安心だ。私ではついてきてくれるか分からないし、村に行ったら騒ぎになるに違いない。

年がしっかりと握り返したのを確認して、レイニーさんが立ち上がり再度私を見た。

「さて、あなたについては……この子を助けたことに免じて、今は攻撃しません。どこへでもお行きなさい」

の魔法を見たからといって、レイスが聖セレナだと安易に認めるわけにはいかない。でも、とりあえずは見逃してくれるみたいだね。視線にも敵意はなく、どこか悲し気だ。

「ここに來るまでに、魔の大群とそれを迎え撃つ者たちを見ました。予想よりも遙かに早いですが、魔王ファンゲイルの侵攻が再開されたと見て間違いないでしょう。ギフテッド教は、聖様を害した王國を助ける気はありません」

(そうか、私が処刑されたことで王國との関係が悪化しちゃったんだね)

だって何も悪いことしてないのに、王子が勝手に処刑したんだもん。私は聖として皇國に屬しているから、王子にそんな権限はないのに。

王子はに権力を與えたかったんだろうね。あの子爵令嬢の家はお金もあるし、次期國王として地位を盤石にしたかったんだと思う。最初は私を直接取り込もうとしたけど、それが失敗したから別の聖を擁立しようと……。

そのせいで今の事態を招いて、國王になるどころか國存続の危機に瀕している。

「いいですか? 魔王は強大です。今の牛頭の魔とて、戦力のほんの一部でしかありません。皇國から本隊を呼ばねば対応できない事態なのです」

ゴズもメズも、幹部ですらないらしいからね。

皇國の聖騎士団が王國を助ける義理もないし、たとえ派遣されたとしても間に合わない。

「ですから、王國を守ろうとするのは無謀なのです。國にいる程度の兵士や冒険者だけでは、本気で攻め落とそうとしてくる魔王を撃退するのは不可能。そもそもなぜ魔王がこの國に執著するのかは謎ですが、諦めて隣國にでも亡命した方がよろしい」

獨り言のように、あるいは言い訳するように事実を並べていく。

なんで私に言うんだろう。

「分かったなら、無駄なことをするのはおやめなさい。あなたはいつも自分を殺して……いえ、なんでもありません」

レイニーさんは年の手を引いて、離れていく。私はそれを呆然と見送った。

私は何と言われようと、アレンと共に王國を守る。この國には大切な人たちがたくさんいて、思い出もたくさんある大切な故郷なんだ。

「わたくしは手を引きます。正直に言えば、魔力がもう心許ないです。ここに來るまでにも相応に使いましたし、聖様のように無限にあるわけではないのです」

(私だって無限じゃないよ!)

レイニーさんには立場がある。一人で行しているところを見ると、私と會うために戻ってきてくれたのかもしれない。それでも長くギフテッド教から離れるわけにはいかない。引き止めるわけにはいかないんだ。

「道中の魔はお任せを。それと、この子は間違いなく送り屆けます」

名殘惜しそうに、レイニーは踵を返した。

「あの、えっと、ありがとう!」

年が晴れやかな笑顔で振り向いて、手を上げた。

この笑顔を守れただけで、頑張ってよかったと思う。

「あははは!」

次はアレンと合流して軍勢と戦わなきゃ!

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