メズは、おそらくゴズと同等かそれ以上の力を持つBランクの魔だ。公用語をり、知恵を持つ高位の魔で、幹部ではないものの軍勢の中では最強の戦闘能力を誇る。

ゴズ一倒すのに、『聖』である私と『樞機卿』レイニーさん二人が協力する必要があった。レイニーさんはもういないから、別の手段を考えないといけない。

「ゴズの馬鹿がどこかにいったようだが、指揮は我一人で十分である」

「カタカタカタカタ！」

軍勢を引き連れ、先頭に立つメズが槍を掲げた。それに呼応して、アンデットたちも各々の武を掲げ骨をカタカタと鳴らした。知恵がなくただ暴れるだけだった有象無象が、移以外で初めて統制の取れた行を見せたのだ。

兵士たちは怯えた様子でごくりと唾を飲み、震える手で剣の柄を握った。対して、冒険者は好戦的な笑みで進み出た。一即発の睨み合いが始まる。

「セレナ。あいつは強いのか？」

アレンが憮然と訪ねてきたので、大きく頷いた。それでも、アレンの表は変わらない。

「どのみち全部倒すからな」

アレンが頼もしい。実力が兵士に及ばなくても、こうして隣にいてくれるだけで頑張れるね。本當は、ずっと隣に居られるはずだったんだけどね。

じり、じりと彼我の間隔が詰まっていく。戦闘開始まで秒読みだ。

（私はメズと戦おう）

メズと正面から戦える人間なんて、冒険者の中にもいるか分からない。

防が得意な私が相手するべきだろう。

「スケルトンジェネラル、スケルトンナイト。來い」

メズの合図で、スケルトンジェネラル（私が勝手に門番スケルトンって呼んでた奴だ）が一とスケルトンナイトが數、前線に並んだ。スケルトンナイトは剣と盾を持つDランクの魔である。エアアーマーと同じく、直接戦闘を得意とする魔だね。

「あれが最大戦力かなぁ？」

「だろうな。兵士にゃ荷が重そうだ。ニコラ、どうする？」

「にひひ、俺があの金ぴかっす。その後に馬ヅラっすね」

短いやりとりで、冒険者が上位のスケルトンを擔當することに決まった。

他の冒険者たちは名前も知らないけど、みんな自信に満ちた表で特に気負った様子はない。気だるげな魔法使いはぼーっとしているように見えて、風の魔法でエアアーマーをバラバラにしていた。恐ろしいね。

「アレン、気を付けてね」

カールはそれだけ言って、前線に走っていった。彼もスケルトンナイトを倒すつもりらしい。

開戦の合図はなかった。互いの間合いにった瞬間、どこからともなく戦いが始まった。

（メズ！！　ファイアーボール）

「む、レイスか」

私の先制攻撃は、軽く振るわれた槍に容易く弾かれた。メズはそのまま槍を引き、目を見開く。

「ダークスパイク」

（ポルターガイスト）

闇魔力が迸る穂先が、私を狙い打つ。このスキルには一度結界を破られているし、破邪結界も一點突破の攻撃には弱いのだ。結界の天敵とも言えるスキルなので、ポルターガイストで対応する。

質に直接干渉する魔力の塊で、槍を橫から毆りつける。刺突はスピードこそあるが側面からの衝撃に弱いのだ。剛力で大斧を振り回すゴズとは正反対の、繊細でな突きはわずかに軌道を逸らし、私の右側を素通りした。

（ホーリーレイ）

「小癪な！」

カウンターで放った線は、を無理やり捩ったメズに回避され、たまたま背後にいたスケルトンを貫いた。槍を戻して勢を立て直そうとするメズに、追撃を放つ。

「くッ！」

メズは左手を槍から離し、闇魔力を凝させた手の甲でホーリーレイをけ止めた。

（スキルっぽくないよね。ゴズも魔力を対外に出して纏ってたなぁ）

ゴズは全でメズは部分的っていう違いはあるけど、高位の魔は魔力そのものを扱う技を持っているのかもしれない。

なんにせよ、あれを使われたら私のホーリーレイではダメージを與えることができない。

（仲間が必要だ！）

アレンはし離れたところで複數の兵士と連攜している。

冒険者たちはまだスケルトンナイトに苦戦しているようだ。援軍は期待できない。

「なかなかやるようだ。我も本気を出すとしよう」

（たいへんだ、そろそろ魔力がなくなる！　とりあえずポルターガイスト）

闇魔力はまだ余裕がある。聖魔力は破邪結界なら一回使っただけでなくなる。

「ファンゲイル様からも裏切り者のレイスには気を付けるよう指示があったのだ。格下なれど、全力で殺すとしよう――一角槍(ユニコーン)」

今までのダークスパイクとは格が違う。メズの手元から穂先に掛けて、渦を巻くように闇魔力が高速で錐み回転している。

（ぜったい防できないよね？）

破邪結界一枚では止められない。そう確信があった。かといって槍全を魔力が包んでいるため、ポルターガイストでの妨害もできそうにない。

（回避！）

メズが右足を大きく踏み出し、突きを放った。

私はを傾けて軌道上から逃れようとする。

（きゃぁあっ、いたい！）

しかし、避け切れず黒マントに突き刺さった。ただのボロマントに見えるけどレイスのの一部だ。久しく忘れていた魂を削られる痛みが全を襲った。

「まだだ」

（ポルターガイスト）

連撃。

細かいきで私のや頭を狙い続ける。私はポルターガイストでなんとかメズを押しのけようとするけど、効果は薄い。

なんとか致命傷を避けるが、魂はどんどん削られていく。霊は魂が破壊されれば死ぬのだ。このまま攻撃をけ続けるのダメ。

痛みに耐えかねて、思わず後ろを向く。逃げないと。

（でもどうする！？　防も回避も攻撃もできないのに……）

殘った手段は……。

「セレナ！」

アレンの聲が聞こえた。そう思った次の瞬間には、痛みが止まっていた。攻撃が止んだのだ。

（ホーリーレイ！　聖魔力全部使うよ！！）

ありったけの魔力を込めて、ホーリーレイを無數に作り出した。

標的はメズではない。

全方位に向けて、無差別にホーリーレイを放った。聖屬の魔法は人間には効かない。だから、戦の中でも魔だけに當てることができる。

（お願い、レベル上がって！）

殘された手段は、進化しかないのだ。

何倒せただろうか。適當に撃ったから、もしかしたらほとんど外れたかもしれない。

倒せても、レベルアップには満たないかもしれない。ランクＤになってから、レベルの上昇が遅いのだ。

時間の流れが遅い。もうだめかも。

『進化條件を達いたしました。ファントムへの進化を開始いたします』

（やったぁ！）