《【完結】処刑された聖は死霊となって舞い戻る【書籍化】》ex.それぞれの祈り

起死回生の進化が行われた時、各所でセレナのことが話題に上がっていた。

『聖』セレナが生まれ育った孤児院の次代を擔う子どもたちは、神が警護する馬車で皇國へ向かっていた。

「あれん……大丈夫かな」

「一緒に來ればよかったのにね!」

特別に用意された緩衝材の上で足をばたつかせるのは二人のの子、ミナとレナだ。その隣では、ロイがを丸めて寢息を立てている。麻袋に布を詰めただけの簡素な緩衝材だが、小さなを守るのに一役買っていた。

客人だからと最も豪奢な馬車に案され、シスターは恐していたが子どもは呑気なものである。狀況もあまり理解していないので、ちょっとしたお出かけとでも思っていそうだ。

「こうこくって楽しいかな?」

「楽しいとおもう!」

ミナが尋ねれば、レナが溌剌と応える。もっとも會話の容は何でもよく、暇つぶしに話しているだけだ。

先日までは『樞機卿』レイニーも共に搭乗していたのだがどこかへ行ってしまった。彼の経験談はおとぎ話のようで、子どもたちは目を輝かせて聞いていた。

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「かみさまがいるって」

「天使もいるって言ってたよ!?」

「すごい」

「お城もきらきらしてたもんね!」

「せれなお姉ちゃんも天使になってるかも。だって聖様だし」

「きっとそうだよ! 優しくて可かったからね!」

出発してから就寢中以外はずっとこの調子で、元気に過ごしている。疲れを見せないのは助かるが、々やかましい。

この馬車に乗るのは者と孤児院の面々だけではないのだ。

シスターのエリサは疲れた表で、正面に座る男に頭を下げる。

「騒がしくて申し訳ありません」

「いえいえ、お気になさらず。子どもは元気が一番ですから。私が降りる街もそう遠くありませんし」

「そう言っていただけると助かります」

彼はとある街を拠點に行商を営む商人で、魔に襲われているところを神に保護されたらしい。安全な地區まで相乗りすることになったのだ。

「えりさ、せれなお姉ちゃんはどんな人?」

舌ったらずなミナが、上目遣いで尋ねる。

セレナが聖として教會にった時は、三人はまだかったため一緒に暮らしたことはないのだ。たまに様子を見に來る時に優しくしてもらった記憶はあるが、その程度の繋がりである。

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レイニーに彼の死を告げられた時も、あまり実が湧かなった。ただ漠然とした悲しいという気持ちが涙に代わり、怒るアレンを前におろおろしていただけだ。

「そうね、人のために頑張れる、優しい子だったわ。弱蟲で臆病なのに、家族を守るためなら絶対に逃げないの。カールが屋の子どもと喧嘩して負けた時も、真っ先に飛んでいったわ」

返り討ちにされてアレンにめられていたけどね、と懐かしむように笑う。もう會うことができない、大事な娘の話だ。思い出ならいくらでも出てくる。

忘れることがないように、そして子どもたちの心にしでも殘るように、思い出話を紡ぐ。子どもたちは黙ってそれを聞いていた。

「素晴らしいですね」

エリサが言葉を詰まらせたタイミングで、商人の男が口を挾んだ。

「不躾ですが、今そのは……?」

「亡くなりました」

「そうですか……」

男は目を閉じ、ギフテッド教の作法に基づいて祈りを捧げた。

「私も先日、心優しい方に會いましてね。ゴーストの姿をしていたのですが、魔から私を守ったのです。その時は怯えてしまいましたが、その方は確かにして私を救い、手を差しべました」

「ゴーストが人を?」

「ええ。私の故郷では、人間は死ぬと死霊になると言い伝えがありました。……っと、今のは緒でお願いしますね」

ギフテッド教の教義では絶対に許されない言い伝えだ。

地方の伝承を絶やしにしようとするほど狹量な宗教ではないが、大っぴらに言うことではない。

「あのゴーストも、生前はそののように心優しい仁だったのでしょうね。そのも、きっとどこかで元気にされていますよ」

「だと、良いのですが」

「祈ればきっと、屆くはずです」

エリサと男は、無言で目を閉じた。ミナとレナもそれに倣い、いつの間にか起きだしていたロイも続いた。

馬車の中が、五人の祈りで満たされる。

「あのオバケはどこにいったの?」

「彼は戦いに行ったのでしょう」

ところ変わって、王都付近の街道。

『樞機卿』レイニーが背負う赤年が、薬草をしっかりと握り直した。

「なんで?」

「大事な人を守るためですよ」

軽い口調で年に答えながら、通りがかったスケルトンをホーリーレイで仕留めた。

この子どもを母が待つ農村まで屆けるまでは、手を抜くつもりはない。殘りない魔力を何とかやりくりしつつ、先を急いだ。足の痛みは無視だ。

「大事な人を……」

「あなたもそうでしょう? お母様を助けるために頑張ったではありませんか」

「でも、僕だけじゃ帰れなかった」

彼は危うくスケルトンに襲われかけ、ゴズの斧に掛かるところだった。

レイスやレイニーがいなければ命はなかっただろう。

「いいのですよ。人間なんてそんなものです。わたくしだって、神からギフトなんて大層なものを頂いても、大切な一人守れないちっぽけなです」

「おばさんでも……?」

「次その言葉を吐いたら降ろします」

背筋が凍る。

思わず息を飲んだ年に、すぐに弛緩させた表でレイニーは続けた。

「人間、一人じゃ何もできないんですよ。大切なのは、まずき出すことです。誰かを守ろう、誰かのためになりたい、そういう強い気持ちで自ら行することができれば十分なのです」

その點で、あなたは合格ですね、と笑いかけた。

「行……」

「どれだけ不格好でも、無計畫でも、まずは一歩踏み出すことが大切です。その行が他人に認められれば、周りが勝手に応援してくれますから」

母親を助けたい。僅かな財産も底を突き、それでも強がる母を救いたいがために村を飛び出した年は、その言葉を深く心に刻み込んだ。

「あのオバケも?」

「はい。現に、あなたを助けることができました。わたくしの力を借りて、ね。そして今度は、國を守ろうとしています」

「國を」

「それは到底、一人でできることではありません。」

「僕に何かできる?」

「簡単ですよ。頑張れ、そう口にするだけです」

年端も行かない年に、出來ることはない。魔と戦い國を守るなど、不可能だ。

だが、レイニーは一言応援を口にするだけで良いと言う。年は大きく息を吸い込んで、青空を仰いだ。

「がんばれー!」

「ほう、を投げだしてそのレイスを守るか」

「あたり、まえだ。こいつは俺の婚約者だからな」

アレンの腹には、深々と槍が刺さっていた。即死は免れたが、一角槍(ユニコーン)の威力は絶大。何秒もしないうちに死に至るだろう。

意識が薄れていく。

「その意気や良し。武人に敬意を表して、次の一撃で終わらせてやろう」

ああ、ここで終わりなのか、とアレンは腹に手を當て、おびただしい量の出を確認した。痛みはもはやじない。

自分も死んだら魔になってセレナの隣に並べるのだろうか、などと場違いな想像を巡らせる。

「セレ、ナ。あとは頼んだ……」

アレンは婚約者であり、馴染であり、『聖』でもあるセレナに、最後のみを託した。

彼だけじゃない。魔の侵攻を知った國中の者がギフテッド教、ひいてはその中核にいると噂される聖に、祈りを捧げた。

を直接知る者は、死を悼んだ。魔だと知った上で、盛栄を願った者がいた。

『進化條件が新たに達されました』

その言葉が、アレンにも聞こえた気がした。

「ヒール(・・・)!!」

背後から、聲がした。

「アレン、お待たせ! 痛かった?」

「いや、全然。おせえよ」

あはは、と底抜けに明るい聲が戦場に響いた。

主人公が第一聲を放つまでに11萬字かかる小説があるらしい。

たくさんの想をいただき大変勵みになってます!めちゃくちゃ嬉しいです。

報は作中で表現したいので簡素な返信になってしまいますが、いつも大切に読ませていただいております。

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