《【完結】処刑された聖は死霊となって舞い戻る【書籍化】》ついに人型へ……!

『セレナ……どうかお元気で』

『助けていただきありがとうございます』

『がんばれー!』

『聖様、どうかお救いください』

『聖様……』

ファントムへ進化する途中、無數の聲が頭の中に流れ込んできた。

で、これは國中の人々の聲だと分かった。私はもう魔なのに、こうやって思ってくれる人がいることが、涙が出るくらい嬉しい。

『進化條件が新たに達されました』

(え、進化條件?)

『必要條件:聖魔力、特殊條件:祈り』

天使様が淡々と、新たな條件を告げる。

祈り。そうか、それでさっきから、人々の気持ちが集まってくるんだ。王國のみんなが、今この瞬間私に祈ってくれてるんだ。

力が溢れてくる気がする。時間がゆっくりと流れ、が作り替わる。人間だった時は決して味わうことのなかった、種族の進化。

応援が、気持ちが、祈りが、私のに流れ込んで澄んだ水のように指先まで満たしていく。

人間の子ども程度だった軀は、生前と同じ背格好までり輝きながらび、白い出した。髪がふわりと首元をでて垂れ下がった。

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レースの付いた白いカーテンをそのまま巻き付けたようなドレスが、元から下を覆って後ろに靡いた。足はなく、ドレスの裾がひらひら揺れるのみだ。

『進化が完了いたしました。種族……』

覚が研ぎ澄まされていくようだ。

魔力も、聖、闇ともに各段に増えている。生前には及ばないけど、今なら王都くらいなら結界で覆えるかもしれない。ポルターガイストなら一日中発することすらできそうだ。

ファントムがどういう魔だったのかは分からないが、特殊條件を達しただけあって今までにない長をしている。勝手に決まってた気がするけど、こっちで良かった。

天使様が、生まれ変わった私の種族名を告げる。

『聖霊』

「ヒール(・・・)!」

進化が終了したと同時に、私を庇って傷を負ったアレンに回復魔法を飛ばした。込める魔力やギフトによって効果が大きく変わる魔法だ。『樞機卿』がホーリーレイで全てを焼き払うように、『聖』がヒールを使えば四肢の欠損すら瞬時に癒す。

メズの槍によって空いた大はたちどころに塞がって、が止まった。今にも倒れそうだったアレンはぽかんと口を開け、腹をさすった。

「アレン、お待たせ! 痛かった?」

「いや、全然。おせえよ」

またまた、強がっちゃって。

からかうように笑うと、アレンはむすっとしてそっぽを向いた。そしてすぐに噴き出した。釣られて、私もまた笑う。

久々に聲を出した。アレンとまた話せて嬉しいね。

「なんだ、その姿は」

メズが槍を構えたまま警戒をわにした。

「可いでしょ」

「レイスがそのような魔に進化するなど、聞いたことがない。いや、その姿は魔というより……」

自分の顔は見えないから分からないけど、腕は半明であること以外普通の人間のそれだ。髪もそう。

かなり人間に近い姿になれたんじゃない?

「セレナ、言いたいことはたくさんあるが、後だ」

「うん、分かってる」

アレンの背中に飛びつきたくなるのをぐっと堪え、メズを睨みつける。私は進化してCランク、メズはBランクだ。未だ格上だが、聖屬の魔法があればきっと勝てる。

「とりあえず一つだけ……髪、跳ねてるぞ」

「うそ!?」

慌てて両手で髪を整える。えー、わかんない。どこ?

アレンがくつくつとを鳴らすのを見て、からかわれたのだと分かった。さっきの仕返しかな。ひどい。

「多特異な姿になったとて、所詮は死霊。我の敵ではない。ダークスパイクッ!」

メズはもっとも得意とする攻撃で、速攻を仕掛けてきた。発の早いスキルで、アレンを狙い打つ。

そこで私じゃなくてアレンを狙うあたり、だいぶ警戒してるよね。怯えていると言い換えてもいい。

私はアレンを守るように聖結界を張った。速度も強度も、レイスだったころの比ではない。斜めに展開することでメズの槍をけ流し、アレンの橫を通り過ぎた。

「それと……可いぞ」

「え?」

ぼそっと呟いて、メズに斬りかかっていった。メズは槍をけ流して勢が崩れた狀態だったが、部分的に闇魔力を纏う技で即座に防される。

待って、今可いって言った?

アレンくん、いつからそんな甘い言葉を吐くようになったの? もしかして私と會わないうちに慣れしちゃった?

「ホ、ホーリーレイ」

大混の私は、とりあえずホーリーレイで追撃。これも容易く弾かれた。

メズとの決戦は、なんとも締まりのない雰囲気で始まった。

アレンの橫顔は真っ赤だった。

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