《【完結】処刑された聖は死霊となって舞い戻る【書籍化】》終わりと始まり

の死から始まった王國の危機は、結果的に大きな被害を出すことはなく終わりを告げた。

王都や近郊の街に住む者たちは事の顛末を口々に噂した。

、魔王、王子、樞機卿、破壊王。歴史に名を殘すような大が中心となって引き起こされた數々の騒は、様々な形で王國中に伝わることになった。噂の出所は戦爭に參加した兵士たちや、現場に居合わせた騎士たちだ。しかし、元が荒唐無稽な容のため尾ひれが付き、背びればかりか手足が付いて勝手に歩き回るような有様で、真実とは程遠いものとなった。

だが、彼らは知らない。

その騒の中心には、常に一人の凡人がいたことを。

「アレン君、大丈夫ですか?」

皺一つない法を包んだ樞機卿レイニーが、王宮の一室にって來た。移用の簡素な法から正式なものに著替えた彼はアレンの正面に座った。

「落ち込んでる暇はないからな」

「そうですね。私がもっと早く來ていれば……いえ」

それでも魔王を止めるには至らなかっただろう、とレイニーは冷靜に分析する。

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魔王が聖セレナだった死霊を連れて王都を出てから、三日が経った。赤年を母親の元へ送り屆けた後、念のため王都に寄ったレイニーは後始末に奔走していた。

こんなことなら早々に王國を出ておけば良かった、と心で何度呟いたか分からない。しかし魔王の襲撃という未曽有の事態に王宮は混していて、さらに王子の死亡が重なったため、指導者の擁立は急務だった。

本來であれば必要な手続きのほとんどを飛ばして、レイニーが指揮を取っていた。日和見の貴族よりは、王國で多顔の効くレイニーが立った方が良い。

「今後の王國について、おおよその方針が決まりました。この國はギフテッド皇國の支配下におかれます」

一度は王國を見捨て離れることを決めたレイニーだが、狀況が変わった。王國の支配、それが彼の決斷であり、既に皇國へ早馬を送ってある。皇國へ向かった神たちも直に戻ってくるだろう。

アレンは黙ったまま続きを促す。

「筋書きとしては、聖の処刑を強行したことへの報復です。王族や貴族への沙汰は……あなたに聞かせる話ではありませんね。それと同時に、魔王を教會が撃退したと公表します。聖の魔化など到底公言できるものではありませんから、手柄を橫取りする形になってしまいますがご理解ください」

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これは、教義を破ってアレンに『勇者』のギフトが與えられたことも含まれているのだろう。

「それは大丈夫だ」

言葉遣いを気にする必要はない、と言われているから、彼は砕けた口調でそう答えた。

王國は完全に皇國の屬國となり、今後は派遣された神によって統治されることになる。王宮で高い地位にあった貴族や病に伏せる國王などは、おそらく責任を取らされるだろう。

ギフテッド皇國に貴族制度はない。全ての貴族家は解され、神の名の元に平等に扱われる。

とはいえ、皇國とは距離もあるから実質的な統治は、貴族だった各領主が行うことになるだろう。

皇國にとって王國を支配することはそれほど旨味のあることではないのだ。

「聖様が守ろうとしたこの國を、見捨てようとしたのは間違いでした。今度こそ、必ず守り切ってみせます」

皇國の返事を待たずして決定を下したのは、偏にレイニーが聖の意思を継ぎたいがためだった。一度は見放したこの國。そこに住まう人々の生活を守ることが自分の使命だと思っている。

「ありがとう」

「いえ、禮には及びません。それとあなたのギフトですが、私が鍛えましょう」

「いいのか?」

「ええ、そのままでは聖様を救い出すなど不可能ですからね」

樞機卿と、元凡人だった勇者。

新たな語が始まろうとしていた。

私、変態魔王に連れていかれました!!

アレンに別れを告げ、骨ドラゴンの背に二人で乗って戻って來たのは、森の中の砦。

ああ、ここで私の解剖実験が始まるんだ……と戦々恐々としてたんだけど、何もされることなく三日が経過した。

どうやら本拠地に戻るための準備をしているらしい。私はとくにすることがないので、自由行を言い渡されていた。

忙しなくき回るスケルトンたちを橫目に、ファンゲイルの周りを右往左往する。いつか來た玉座のある広間だ。

「結局さ、何で王國を侵略していたの?」

私たちの活躍で被害は最小限に抑えられたとはいえ、多くの人間が犠牲になった。魔になりその辺のが希薄になっても、安易に許すことはできない。

「言っただろう? 天使のタリスマンがしかったんだ。いや、取り戻したかったと言うべきかな」

「天使のタリスマンって……あれだよね」

ファンゲイルが離さず抱える、の人骨。

相変わらず魂はなく、ドレスを著ているだけの骨だが、以前と変わった點がある。首元に赤い寶石をつけたタリスマンが煌めているのだ。

「これは、元々こいつのだからね」

「そのの人の?」

「そう」

それだけ言って、ファンゲイルは押し黙ってしまった。これ以上話すつもりはない、ということだろう。

あの後、騎士の一人が國王から預かったというタリスマンを持ってきた。ファンゲイルはそれをけ取り、即座に人骨に付けたのだ。にプレゼントを渡すようなにこやかな表で「やっと取り戻せた」と言いながら。その橫顔は嬉しそうでもあり、同時にひどく切ないものにも見えた。

生前の彼とどんな繋がりがあったのか。天使のタリスマンとは何なのか。

『不死の魔王』ファンゲイルについては分からないことばっかりだ。

でも、なんとなく悪い人ではないような気がしてきた。

そしておそらく、彼はこのを蘇生させるために研究しているのだろうということも分かって來た。

ちょっとくらいなら協力してあげてもいいかも。いや、さっさとアレンの元に戻りたいだけだから!

「ああ、戻って來たね」

「ん?」

ファンゲイルが口の方に視線を向けた。釣られて私もそちらを見る。

大きな音を立てて、扉が開け放たれた。

「ファンゲイル様、ただいま戻ったのじゃ」

「ファンゲイル様。不覚を取り大変申し訳ございません」

そこにいたのは、倒したはずのゴズとメズだった。

「ええ!?」

思わず聲を上げた私は、二人とばっちり目が合った。ゴズメズも目を丸くして、即座に得に手がびる。

それを制したのはファンゲイルだ。

「やあやあ、遅かったじゃないか。この子は僕のペットだから、気にしないで」

「ペットだったの!?」

初耳なんですけど。

ゴズとメズは武から手を離し、膝を付いた。

ゴズはレイニーさんと一緒に間違いなく倒したし、メズもアレンが心臓を突き刺したはずなのに……。ソウルドレインは効かなかったけど、今の私が魔の死を見間違うことはない。二人は確実に息絶えていた。

「ファンゲイル様のおかげで、こうして新たなとして蘇ることができました」

「力が溢れるようじゃ。今なら誰にも負ける気がせん」

「やっと僕好みの魔になったね。式がちゃんと作して良かったよ。良い実験結果も得られたしね」

よく見ると、二人のは以前とは異なっていた。

は青白く、ところどころを流している。皮がただれているのだ。これではまるで……。

「グール? 死者蘇生に功した……?」

「蘇生にはまだ屆いていないんだ。今僕ができるのは、高位の魔が死ぬ前に式を掛け、死亡を條件としてアンデッドに進化させる、ってことくらいなんだよ」

ゴズとメズは、ファンゲイルのでアンデッドとして生まれ変わったということらしい。

つい最近死闘を繰り広げたばかりだから、ちょっと気まずい。ていうか、進化した二人に勝てるわけがない!

「君たちはもう仲間だから、仲良くね」

仲良くなんて言葉がまったく似合わない魔王から、そんなことを言われた。

気づかぬうちに睨みあっていた私たちは、そっと視線を外して咳払いをする。

私の周りには変態魔王と死、馬と牛の頭を持ったアンデッド。その他たくさんのアンデッド。私自も死霊。

うん、早く帰りたい。

アレン! 待ってるよ!

「じゃあ、僕らの國に戻ろうか」

妙に明るいファンゲイルの言葉に、私は頷くしかなかった。

一章完結!

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