私は魔を使えない。

ずっと練習していたんだけど、どうしても圧した魔力を安定させることができなくて、霧散してしまうのだ。

ミレイユ曰く、魔と魔のどちらか得意かは個人差があるらしい。聖や魔法系のギフトを持っている人は魔が得意な傾向があるから、私が苦手なのもさもありなんってじだ。

でも、ミレイユもファンゲイルも、苦手なはずの魔を普通に使いこなしている。

だから、苦手なことを言い訳にもできない。

「どうする？　どうするー？　このままやってても勝てないよぉ」

ピィがふわりと舞って、鱗を飛ばしてきた。魔力を溶かす毒のだ。

魔法生命である私があれをければ、どうなるかわからない。

思えば、最初に気配をじられなかったのは、私の霊域が無効化されていたからだろう。

あらゆる魔を消し去る特を持つ魔。非常に厄介だ。

「サイレン、あなたが頼りだよ！」

「ひひっ」

私たちの中で魔を使えるのは『忍び斬り』を使えるサイレントゴーストだけ。

魔法が通用しない以上、サイレンの攻撃を當てるしか勝ち目がない。

でも、サイレンのは私と同じく、魔力と魂だけでできている。霊だからがないのだ。

いわば、存在自が魔法みたいなもの。鱗をもろにければ消滅しかねない。

それに、先ほどは隙をついたはずなのに避けられてしまった。

避けたということは有効であるという証左でもあるのだけれど、當たらなければ意味がない。

「いいなぁ、君のペットは可くて。あたしのペットはね、蟲だからちょっと怖いよぉ」

ピィの後ろから、蟲の魔たちが大勢押し寄せてきた。彼は空中で優雅に漂っている。

二十を優に超える魔たちをウェイブ、クラウンと協力して焼き払う。烏合の衆だが、如何せん時間が掛かってピィへの攻撃まで手が回らない。

サイレンはを潛めて、攻撃の隙を窺っている。

「あなただって蟲じゃん」

「は？」

ピィの顔から表が消えた。

「蟲？　あたしが？　超絶可いこのあたしが、蟲だって言ったの？」

ふわふわした口調は消え失せ、低い聲で捲し立てる。

なんかすごい怒ってる！　逆鱗にれてしまったみたいだ。

『蟲の魔王』から生まれたんだから、蟲であることは間違いないと思うんだけど……。人間に近い姿だけど、羽と覚は蝶のそれだし。

「あーあ。優しく連れていってあげようと思ったのになぁ……。もういいや。全部消えちゃえ」

「っ！　まずい、サイレン！」

ピィが大きく羽ばたき、さらに高度を上げる。

嫌な予がする。食い止めようとサイレンがスキルを使いながら迫るけど、間に合わない。

蟲たちの猛攻は依然続いていて、フリーになったピィが上空で両手を広げた。

「頑張って耐えてねー。白紋羽」

下から見上げると、降り注ぐ鱗が月明かりに照らされてキラキラと輝いている。まるで、ピィを中心に星屑が踴るようだ。

幻想的な景にうっとりしそうになる。でも、それは一粒一粒が魔力を消滅させる破滅の流星だ。

「あれをけたら、消えちゃう。私も、ゴーストたちも、村の結界も」

広範囲にばら撒かれているから、避けるのも難しい。

それにもし避けたら、村に張った聖結界は消え失せ、その瞬間蟲の魔たちがなだれ込む。

だから――防ぐしかない。

「広範囲に魔法を発するのは得意なんだよ。聖結界、できるだけ沢山！」

半円形の聖結界で、村と私たちを同時に包み込む。その數、十五枚。

しかしピィの鱗はれた魔法を問答無用に消滅させる。それは魔に対して絶対的な力を発揮する聖結界でも同じだ。

ほんのわずかな抵抗を見せたけど、鱗は速度を落とすだけで止まらない。聖結界をだらけにした。

これで止められるとは思っていない。

「ポルターガイスト！」

聖結界はあくまで時間稼ぎだ。

闇魔力で一帯を包んで、ポルターガイストを発する。質を摑むという質を持ったこのスキルも魔でできていることには変わりないので、鱗は防げない。でも、防げるものを摑めばいいのだ。

「ちょうど、蟲がたくさんいるからね」

うじゃうじゃと蠢く蟲の魔たちを一斉に摑んで、宙に持ち上げた。

隙間なく空を埋め盡くす。うへぇ、気持ち悪い。

鱗が到達すると同時にポルターガイストも消えちゃうけど、蟲自は魔法ではなく質だ。

重力に引かれて落下するまでのわずかな時間、彼らは鱗を防ぐ盾になる。

「でも、これだけじゃダメだ」

一時的に防いだだけで、ピンチは終わってない。

「サイレンに……ううん、サイレンはあそこまで上がれないもんね。なら――私が」

私が魔を使って倒すしかない。

魔の使い方は、理屈だけなら簡単だ。

魔力を空中に放出するのではなく、あるいは表に留める。そして、高度に圧することで魔力自の破壊力を高めるのだ。

魔力を違うものに変質させて使う魔とは違う、無骨で直接的な使い方。

「――魔」

魔力を全に、ぴっちりと纏わせる。

このままじゃ度が低すぎるから、どんどん魔力を増やしてその度に押し込んでいく。覚的には、袋の中に綿を詰めるみたいなじ。

度を増やしていくと、次第に魔力が反発してくる。私はいつもこの段階で失敗して、袋が破けるように魔力が霧散してしまうのだ。

「んっ……ダメ、もたない」

何か。何か魔力を留める方法があれば。

「きゃきゃっ」「けらけら！」「ひっひっ」

ゴーストたちが応援してくれる。

蟲たちが落ちてくるまで、もう時間がない。

失敗したら、この子たちもろとも消えちゃうんだ。

冥國に來てゴースト研究を始めてから、ずっと一緒にいる三匹。最初はお散歩するにも一苦労だったのに、今では仲良しだ。

「……そうだ！」

彼らの顔を見ていたら、閃いた。いや、思い出した。

最初、散歩しようとした時……勝手にき回るゴーストたちを捕まえておくために、したことを。

すなわち、魔法生命であるゴーストを傷つけることなく保持する魔法を。

「不定形結界！！」

ポルターガイストと融合させ、闇魔力の質を高めた可式の聖結界。

魔になりかけの魔力に沿って、不定形結界を展開する。いわば、結界の鎧だ。そしてその鎧は、闇魔力を霧散させず留める役割も擔う。

「サイレン、ウェイブ、クラウン。私、行ってくるね！」

決著を付けに。