《【完結】処刑された聖は死霊となって舞い戻る【書籍化】》訓練
元々、無事を確認しに來ただけなので村からはすぐに退散した。
正直、いきなり態度変わって怖いし! 最初はもうちょっとフレンドリーだったのに……義理堅い人たちなんだね?
聖をやっていた時も、似たようなを向けられたことはある。でもそれは、神様から特別な権能を授かった人、という扱いなのであくまで崇拝しているのは唯一神様だ。私を信奉することは神様を信奉するのと同義ということ。
でも、村人たちは私そのものを信仰しようとしている。たしかに助けたし、聖霊のや聖の魔法は神々しいかもしれないけど、それはちょっと違うよ……。目を覚ましてほしい。
ギフテッド教會は地方の民間伝承まで絶やしにしようとするほど狹量ではないけれど、大々的に魔を信仰していると知られればさすがに怒ると思う。
噂では異端審問っていう教會や皇國に敵対する者を始末する専門の神がいるらしいし。會ったことはないけどね。レイニーさんに聞いてもはぐらかされた。
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「はぁあああ! ダークスイングッ!」
『不死の山』を登っていると、暑苦しい聲が聞こえてきた。
「ぬるい」
冷徹な聲と、金屬がぶつかる音。
冥國からし離れたこの場所は、障害が取り除かれ平らにならされ、闘技場のような空間になっている。
主に高位の魔たちが訓練で使っている。たまに、ファンゲイルやミレイユが広いスペースが必要な実験を行う際にも用いることがあるね。
今訓練しているのは、聲ですぐわかったけどゴズとメズだ。牛と馬の頭部は互いに火花を散らしている。
二人の格は正反対に見えて、二人とも戦うことしか頭にないタイプだ。いつも訓練している。
王國から冥國に移する道中は、何度も二人の訓練に參加したなぁ。
冥國に來てからはゴーストの研究をしていたので、戦闘訓練はあまりしていない。だって、戦う機會があるなんて思わなかったし。
でも、訓練もちゃんとやらないとね。
本當はのんびり暮らしていきたいのだけど、『蟲の魔王』ネブラフィス、そしてその裏にいると思しき皇國と戦うと決めた以上はそうもいかない。
「おお! セレナではないか!」
ゴズが私に気が付いて、巨大な斧を掲げる。
ものすごく親しみのある挨拶だ。お互いに思うところはあるにせよ、今はみたいなものだからね。
一度殺し合った仲だし、実際ゴズは死んでアンデッドになったわけだけど、意外と上手くやれている。それはメズも同様だ。
「來い。相手してやる」
メズは槍の石突でこつんと地面を叩いた。
二人とも知恵と言葉を持つ高位の魔だ。別の魔王に生み出された魔らしいけど、今はファンゲイルの配下になっている。経緯は知らない。
「うん、いくよ!」
「いつになくヤル気じゃな」
「良い心がけだ」
強くならないと。
守るためには力が必要だってことを、改めて実した。
ヒトダマに生まれ変わり、王國を救うために進化を重ねてきた。それは強くなるためでもあったし言葉を話すことが必要だったから。でも、ファンゲイルとの契約で王國から手を引いてもらった時、長をやめてしまった。
「不定形結界――魔力圧」
「ほう」
でも、これからは止まらない。
皇國が何か悪事を働いているなら、聖としてそれを許せないから。
「結界で魔を再現しているのか。面白い」
メズがニヤリと笑った。
土壇場で生み出した技だ。まだ度は不安定で、長時間の使用はできない。
メズは頭上でくるりと槍を回すと、魔を穂先に纏った。高度で一點に集中させた魔は、金屬すらも打ち砕く。
私が全力で聖結界を張ったとしても、紙のように容易く切り裂かれてしまうほどだ。近接戦闘において、魔は圧倒的な力を発揮する。
「ダークスパイク」
メズの放った槍が、私を貫かんと迫る。
私は両手のひらを広げ、前に突き出した。魔力を放出する。イメージは盾だ。
不定形結界で空の盾を形作る。中に流し込んだ闇魔力を一気に圧させた。
完したのは、顔くらいの大きさの円盤。
「聖盾(アイギス)!」
「はあッ」
盾の中心に、槍が突き刺さった。見た目に反して、魔力同士の衝突なので音は小さい。
穂先を渦巻く闇魔力が盾を削り取ろうとうなりを上げた。しかし、私は魔力を注ぎ続けることでそれを食い止める。
「ふむ、まだまだであるな」
「あっ」
メズがぐっと槍を押し込むと、私の盾は呆気なく崩壊した。
「しかし、発想は良い。魔と魔、両方を使わなければ作れないものだ」
「うう……いけると思ったんだけどなぁ」
「我の槍が一朝一夕で防がれてはたまらん」
魔を再現してはいるけど、厳には魔ではない。
だから、や武に纏わせないといけない魔と違って、から離れた位置に展開することもできるのだ。それがアイギス。圧した魔力で作った盾だ。
盾じゃなくても不定形結界を利用すれば々なものが作れると思う。
進化しなくても鍛錬と工夫次第で強くなれるのだ。
まだ圧が足りないので、要練習だね。
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