《【完結】処刑された聖は死霊となって舞い戻る【書籍化】》最終準備
『蟲の魔王』ネブラフィスが襲撃を宣言した日まで、殘り半月ほどとなっていた。
「君に見せるのは初めてだったかな」
せっせと作業をするスケルトンたちを見下ろしながら、ファンゲイルが言った。
眼下に広がるのは、冥國の裏にある崖下の小さな谷。瘴気が流れ込み、底で滯留している。『不死の山』の中でも特に濃度の高い場所だ。
生の人間がったら數秒で死んじゃうね。およそ生が息をできる環境ではない。
でも、アンデッドにとってはむしろ過ごしやすい空気だ。
瘴気は空中に漂う闇魔力で、魔が多い地域でよく見られる。
私も魔の端くれなので不快はないけど、聖域のほうが気持ちいいので使いたいなー。ミレイユに怒られるからやらないけど!
「何かするの?」
谷底ではスケルトンが忙しなく行き來している。スケルトンジェネラルが指揮を執ることで、知恵を持たない低ランクのスケルトンであっても労働力になる。
ここから見ると小さくて、アリの行進みたいだね。餌のごとく運んでいるのは……骨?
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「スケルトンを作るんだよ。戦爭前に兵力を増やさないとね」
「へぇ、スケルトンって作れるんだ!」
「君、僕が魔王だってこと忘れてない?」
魔王という名は特定の魔に與えられるものではなく、『魔を産む魔』の総稱だ。
生み出す方法はなんでもよくて、ファンゲイルの場合は式によって作り上げる。
元は人間でも、魔さえ作れれば魔王なのだ。言ってしまえば、自を魔化した時點で魔王みたいなものだね。
魔王にとって配下の魔は、時間さえあればいくらでも作れる戦力なわけだ。
ヒトダマを作っているのは知っていたけど、スケルトンも骨から作っているんだね。
「ファンゲイル様の『魂付與』は素晴らしいですわよ。無駄のないしい式にほれぼれしますわ。セレナもよく目に焼き付けなさい」
「へ、へえ」
ミレイユの目がいつもより熱っぽい。彼もアンデッドなんだけど、生気に満ちてるね!
々な生の骨が谷底に積み上げられていく。
汎用が高い人型のスケルトンが多いファンゲイルの配下だけど、スケルトンは骨であればどんな生でも作ることが出來るらしい。
カラスや犬の骨も見けられる。
「數がなければ研究室でいいんだけどね。たくさん作る時は広い場所のほうがいい。それに、ここは吹き溜まりになっているから魂が集まりやすいんだ」
生が死ぬと、魂はから出て霧散する。その後は風に乗って、新たな生の糧となるまで漂い続けるのだ。
溶けだした魂に原型はなく、いわば純粋なエネルギー。こうなると、死霊でも認識できないし、食べられない。
ファンゲイルの式は、漂う魂だったエネルギーをかき集めて、凝する。そして、魔として生まれ変わらせるのだ。
ヒトダマの場合は凝して終わりだったけど、スケルトンの場合は骨に定著させる必要がある。
「魂はいいよ。元がどんな悪人でも、死ねばまっさらになって純粋なエネルギーになるんだ。王族でも貧民でも、それは変わらない。鳥や魚であってもね」
麓の農村では死者の生まれ変わりが信じられているようだけど、ギフテッド教の教義ではそれはあり得ない。
新しく生まれた生命には例外なく、新しい魂が生まれる。死者の魂が擔うのは、弱く儚い魂に吸収されて礎になる役目。言ってしまえばご飯みたいなもの。
まあ私は例外だけど。
ゴズやメズ、あるいはファンゲイルのように生前に魂に対して働きかければ、形狀を維持することは可能だ。
「まっさらな魂なのに、魔にできるの?」
「やっていることは自然に生命が誕生する時と変わらないよ。一つ違うのは、新しい魂がないことだね。エネルギーだけ集めて、仮初のに無理やり接続するんだ」
そう説明しながら、氷の腕でファンゲイルは杖を掲げた。
余談だけど、切斷された腕はまだくっついていない。人造人間に付けられた聖蝕とでも言うべき呪いは、私の魔法でも取り除くことができなかった。
聖屬の魔法が効かない……それってつまり、聖職者と戦うことも想定されているということにならない?
私が考えても仕方ないので、ファンゲイルの魔法に意識を戻す。
「魂付與」
杖の先に付いている寶玉が煌々と輝いた。青紫のが谷底に降り注ぐ。
変化はすぐに現れた。
カタカタカタカタ。
カタカタカタカタ
至る所から、骨がぶつかる音がする。
その數はどんどん増えていって、次第に音が大きくなる。
カタカタカタカタカタカタカタカタ。
両側を崖のように切り立った壁に囲われているため、音が反響しているのだ。まるで合唱のように合わさった軽快な音が耳をつんざく。
「うげぇ、スケルトンがいっぱいいる」
魂が見える私の目には、さっきまでただの骨だったものに魂が宿っているのがよくわかった。
數は莫大で、數えきれない。
「ファンゲイル様ほどの魔導士なら、この規模の魔法も容易く行使できるのですわ」
「なんでミレイユが誇らしそうなの?」
「ワタクシもファンゲイル様の魔法でアンデッドになったのですもの」
そういえば、ミレイユも元人間なんだよね。
ファンゲイルの昔話には出てこなかったけど、いつ出會ったんだろう?
「ミレイユ、あのさ」
「よそ見は厳ですわよ! ここからがすごいのです」
「ふぁい」
この子、ファンゲイルが関わると変人になるんですけど!
ファンゲイルは杖を掲げたまま楽しそうにしている。杖から出たが雨のように降り注ぎ、ほとんどの骨がスケルトンと化した頃、魔法を切り替えた。
「ソウルドミネイト――さあ、喰らい合え」
彼がそう呟いた瞬間……スケルトンたちは互いに攻撃し始めた。
谷は狹く、左右の通り道にはスケルトンジェネラルが構えているため逃げ道はない。いや、あったとしても逃げないだろう。
魂をられたスケルトンたちは、生まれたばかりなのに殺し合う。
「えっ、せっかく作ったのに殺しちゃうの?」
「あはっ、君だってやっていたじゃないか。山一つ分のスケルトンを倒したこと、忘れたの?」
「あ、そっか……進化させるんだ」
「そういうこと。スケルトン系統はだいぶ研究が進んでいるからね。スケルトンナイトくらいなら、一晩くらいソウルドミネイトを続けていれば完するよ」
レベルを上げて、條件を達する。魔の進化は主にこの二つのプロセスで行われる。
手っ取り早く戦力を増やすなら、共食いさせることで強力な個を作るほうが効率がいい。ただのスケルトンは弱いからね。
幸い、スケルトンは無數にいる。こうしている間にも骨の搬は行われていて、絶える気配はない。
「簡単な命令とはいえこれほどの數を統率するなんて、素晴らしい魔法度ですわ……」
見た目はちょっと怖いけど、理にかなった方法だ。
こうして、著実に戦爭の準備は進められていった。
ドーナツ穴から蟲食い穴を通って魔人はやってくる
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