《【完結】処刑された聖は死霊となって舞い戻る【書籍化】》レイニーVSミレイユ

思えば、この姿でレイニーさんに會うのは初めてだ。

処刑されて魔になってから、會ったのは二回だけ。商人の男を助けた時はゴーストの姿で、ゴズと戦った時はレイスの姿で。

一回目は問答無用で攻撃されたけど、二回目は半分くらい察してくれたんだったかな。でも聖霊になった今なら、生前と同じ姿だから信じてもらえるはず。

そういえば、最初は人型になってレイニーさんに會うことを目標にしていたね。ずいぶんと遠回りしてしまった。

「聖……様……?」

私の姿を捉えた雙眸が、かっと見開く。

ちょっと足がないけど私だよ!

突然いなくなってごめんなさい。また會えて嬉しい。喋れるようになったからこそ伝えたいことが、たくさんある。

でも今は、それどころではない。

私はレイニーさんの前に降りて、聲を張り上げる。

「レイニーさん! 戦うのをやめてしいの! 敵はファンゲイル……『不死の魔王』じゃないんだよ!」

「聖様、どういうことでしょうか。たしか、あなたは『不死の魔王』に囚われているんじゃ……」

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「えっと、説明すると長いんだけど、本當の敵は『蟲の魔王』と皇國で……とにかく、今すぐみんなを止めて、撤退して?」

兵士や冒険者もいるみたいだけど、神がほとんどの割合を占めている。レイニーさんは皇國でも地位が高いから、彼が言えば従う。

っているレイニーさんをさらに説得しようとして……背後に気配をじたので、慌てて聖結界を展開する。

「セレナ。これ以上邪魔をするなら、本當に消し飛ばしますわよ?」

「ミレイユ……」

聖結界をこんなにすぐ突破されるなんて……。

大地を揺らすスカルドラゴンに、周りの神たちが怯えて後ずさる。この巨が暴れるだけで十分脅威だ。

ミレイユはスカルドラゴンの頭に直立したまま、私を見降ろす。

「まったく。だから聖を仲間にするなんて反対だったのですわ」

「聖様を仲間……? 魔が、何をおっしゃっているのでしょうか」

「あら、ずいぶんと下賤な魔力が多い方ですこと……。厄介ですわね」

私を挾んで、レイニーさんとミレイユが火花を散らす。

白く輝く鎖が空を切り、蒼く揺らめく炎が迎え撃つように踴る。

「なんでみんな、そんなに好戦的なの! 聖結界」

中央に割り込んで、両手から聖結界を展開する。

私が挾み撃ちされる形だ。それぞれの攻撃が聖結界に衝突する。さすが武闘派の二人なだけあって、ものすごい威力だ。

なんとか防いだ、と息を吐いたのも束の間。風が晴れた先に見えたミレイユの魔法を見て、ぎょっとする。

「手加減は終わりですわ。冥府の炎よ、顕現なさい――青龍」

スカルドラゴンほどに大きく細長い、蒼炎の龍がミレイユを中心にとぐろを巻いた。

そして、顎を大きく開けて突進してくる。

これは無理!

炎に包まれているのに、ミレイユの目は冷え切っている。実は冷たい炎なんじゃないかと錯覚させられる。

しでも食い止めようと、全力で結界を張ろうとして……止めた。レイニーさんが私の前に出たからだ。

「もう二度と、あなた様を失わないと決めましたから。ジャッチメントホーリー」

空から降り注ぐ聖なる柱は、本來は攻撃の魔法だ。しかし、魔に裁きを與える絶対的なの放流は、冥府の炎すらも消し去る。

頭やを貫かれ、炎の龍はどことなく苦しそうにもがいた。

「聖様。今は別行をしていますが、アレンも來ています」

「アレンが?」

「はい。見違えるように強くなっていますよ。ですから安心してください。脅されているのでしょう? わたくしたちが助けますから」

『勇者』のギフトを使いこなせたみたいだね。

約束通り助けに來てくれるのは嬉しい。早く會いたいね。

「でも、私は大丈夫だよ。それより今は……」

「下がって!」

ミレイユから、絶え間なく攻撃が飛んでくる。

戦闘の余波だけで周囲が破壊されていく。私は聖結界を各所に展開して、人間たちを守る。ミレイユが本気を出せば、下級の神ではひとたまりもない。

しかし、レイニーさんなら対抗できる。

『樞機卿』の名は伊達ではない。彼が放つ聖魔力で作られた鎖が、何本も寄り集まって青龍に匹敵するほど大きな塊になった。それは巨人の腕のようにき、蒼炎と衝突する。

「どっちにも死んでほしくないっていうのは、私のわがままなのかな」

なんでこうなってしまったんだろう。

ついに本格的な戦爭に発展してしまった戦場を呆然と眺めて、そうひとりごちる。

レイニーさんとミレイユだけじゃない。遅れて到著した高位の魔が、あちこちで人間と戦い始めている。王國の戦力は神や冒険者など、戦闘に秀でた者が多い。それでも、押され始めていた。

「これじゃ、敵の思うつぼだよ」

本當は戦う必要なんてないはずなのに。

というか、なんで王國の人たちがここにいるんだろう。レイニーさんは私を助けに來たと言っていたけど、それに他の人たちを巻き込むとは考えづらい。

もしかしたら、『蟲の魔王』と同じように、皇國が手引きしたのかもしれない。戦力を削り、弱ったところを叩くために。

もしこの狀況で蟲の魔までしてきたら三つの混戦になる。

「レイニーさんがダメなら……私が直接みんなを説得するしかないね」

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