時は天使のタリスマンが奪われた直後にさかのぼる。

アレンの聖剣が、次々と人造人間を切り裂いていく。聖屬は互いに効かない。ならば、魔法なしでも絶大な戦闘力を誇るアレンが有利だ。聖屬由來でありながら実を持つ聖剣にとって、継ぎはぎのなど障害にならない。

「おい！　魔王！　余裕そうな顔しといて負けてんじゃねえよ！」

「……うるさいな。長く生きていると、焦らなくなるだけだよ。――ソウルリリース」

人造人間の大群に埋もれていたファンゲイルが、小さく聲を上げた。彼がいるであろう、人造人間の山の中央から、闇魔力が波狀に広がる。

その魔力にれた瞬間、人造人間がきを止めた。そして、気絶したようにバタバタと倒れていく。そのままき出すことはない。

もしセレナがここにいれば、人造人間から抜け出す大量の魂を目撃できただろう。

「お、おう？　なんだ、結局余裕なのか」

ようやく活躍できたアレンは、瞬く間に全滅した人造人間を見て拍子抜けする。

「元は僕の開発した式だからね。だいぶ改変されているから反魔法の開発に時間がかかったけど、たった今完させたんだ。前回捕獲した奴は実験中に死んじゃったから、ぶっつけ本番だね。あはっ、僕の前で魂をさらけ出すなんて、好きにしてくれって言っているようなものだよ」

軽い口調だが、ファンゲイルのはボロボロだ。ローブはだらけで、頬には毆られたような跡がある。おそらく、ローブの下も無事ではない。魔法を維持する余力もないのか、氷の義肢は消えている。

そして、なにより……トアリの骨から、天使のタリスマンが奪われていた。

「さて――トアリの首を折って許されると思っているのかな？」

ファンゲイルは眥を吊り上げて、怒りをわにする。

彼は人造人間の猛攻の中でも、トアリをに庇い続けた。しかし、敵の目的はトアリの首にかけられた天使のタリスマンだ。

混戦の隙をつきそれを強引に奪い取った者は、し離れた位置で靜かに笑った。

「人形ごときに遅れを取るとは、『不死の魔王』も落ちたものだな。どうせ死なのだからくっつければいいだろう」

窟の大部屋の隅から聞こえてきた聲に、アレンは慌てて剣を構える。

そこにいたのは『蟲の魔王』ネブラフィスの配下であるカマキリの魔だ。両腕の代わりに生える大鎌に、天使のタリスマンが引っ掛かっている。

「それを奪ってどうするつもりだ！」

「ふん、『勇者』が魔王の味方をするか。どれ――」

突然、カマキリがを屈め地面を蹴った。土煙が上がり、目にも止まらぬ速さでアレンに迫る。鎌を大きく揚げた。

「首刈り」

「ホーリーセイバーッ！」

キンッ、と甲高い音がして、剣と鎌が衝突する。聖剣の鍔がしっかりと鎌をけ止めていた。

「ほう、こちらの速度に反応するとは、人間にしては面白い。……が、勇者の討伐は依頼にっていないのでな」

ピィが魔法を無効化することに特化した魔ならば、カマキリの魔は速度に特化している。強靭な足と背中の小さな羽を用いて、縦橫無盡に駆けまわる。

小手調べの攻撃を防がれたカマキリの魔は、バックステップで即座に距離を取った。アレンの追撃は屆かず空を斬る。

「天使のタリスマンをいち早くネブラフィス様にお屆けせねば……ピィ」

「あーい」

「足止めは任せた」

れ替わるように『蝶化』のピィが道を塞ぐ。

「待て！」

アレンが聲を上げた時には、既にカマキリの姿はなかった。

息を整えたファンゲイルが、アレンの橫に並び立つ。

「天使のタリスマンは聖の魂に作用することがわかっている。……聖ちゃんに何かするつもりなのかもしれない」

「あっさり取られて良かったのか？」

ファンゲイルが執念深く追い求めたものだったはずだ。そのせいで王國が長年被害をけ続けたのだから、アレンとしては複雑な心境である。

「まさか。取り返すよ。天使のタリスマンには探知魔法をかけてあるから、追いやすくなったね」

「そうか。まあどの道、やることは変わらない。急ぐぞ」

目を合わせて頷き合う。

本來相容れないはずの二人だが、同じ目的を持つ者同士、奇妙な一が生まれていた。

「うふふ、通さないよぅ」

「永久凍土」

「ざんねん――白紋羽」

ファンゲイルが放った冷気の魔力は、ピィの鱗にかき消される。羽ばたくたびに舞い上がる白いは、れた魔力を消滅させる。魔のように度の低い魔力では、立ちどころに消え魔法を維持できない。

しかし、魔なら話は別だ。

「はぁああああ！」

ファンゲイルの魔法は目くらまし。

アレンが魔を滾らせる。聖剣に注ぎ込まれた高度の魔力が刃を一層輝かせる。空中にれ出た魔力すら、目視できるほどに濃い。

強化されたが、衝撃波をまき散らしながら突っ込む。

「うへぇ、やばば」

「ホーリーセイバー！！」

ゆっくり戦っている暇はない。

アレンは全力で、聖剣を振り抜いた。