《【完結】処刑された聖は死霊となって舞い戻る【書籍化】》最終話 約束
「孤児院だー!」
ここに戻ってくるのは久しぶりだね!
期から育ったここは、私にとって実家そのものだ。
何度も改修が繰り返された、ぼろぼろの壁。小さな井戸と、心ばかりの家庭菜園。手作りの干し。
ぜんぶぜんぶ、懐かしい。
ほとんどは記憶にあるまんまで、思わず泣きそうになる。
「まさか戻ってこられるなんて……」
柄にもなく、してしまう。
王宮に連れていかれたのが九歳。
処刑されたのが十五歳。
たまに見に來たこともあったし、レイスになってから一度、アレンに會いに來た。
でもその時は帰ったというより、ちょっと寄っただけだったから、すぐに出なくてはならなかった。
ずっと帰りたかった場所だ。
だって、私のお家はここだけだから。ここで過ごした日々が、私の心の拠り所で。なによりも大切なものだった。
「セレナ」
アレンが私の名前を呼ぶ。
私と一緒に孤児院で育った、馴染。
遊びで言っただけだけど、婚約者。
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魔王の元まで助けに來てくれた、勇者。
「アレン!」
「早くろう。俺たちの家に」
「あ、翼を消さないと」
「ははは、あいつらがびっくりしちゃうからな」
アレンはそう言って、手をばした。
私はその手を取る。自然と笑顔が溢れる。
「セレナがいなかったら、この孤児院は……いや、この國はもうなかったよ」
「ファンゲイルが滅ぼしていたもんね」
「ああ。今となってはあいつにも事があったことはわかったけど、それでも、國を滅ぼそうとしていたことはたしかだ。それを、セレナが守ったんだよ。ありがとう」
「ううん、アレンがいなかったら、國を守ることなんてできなかった。一人じゃ勝てなかったもん。レイスだった私をアレンが信じてくれたから、守れたんだよ?」
々あったから、もうかなり昔のことのように思えるね。
あの時はレイニーさんとか他の神の子にも敵視されたばっかりだったから、アレンが信じてくれて嬉しかったなぁ。
「ああ。俺たち二人の力だな」
「うん! だって、約束したもんね! 二人で孤児院を守ろうって」
「はは、まさかそのために魔王と戦うことになるとは思わなかったけどな」
「相手が魔王でも神様でも、私は戦うよ!」
「聖がそんなこと言ってもいいのか?」
「もう聖じゃないもん」
「そりゃそうか」
二人で笑い合って、それから、孤児院の扉を開けた。
「セレナねえちゃん!」
「ねえちゃんだー!」
中にると、まっさきに妹たちが出迎えてくれた。
「ミナ! レナ!」
駆け寄ってくる二人を、抱きしめる。
ふふ、ることができない死霊だけど、今の私は一味違うんだよ!
天使になってさらに魔力のコントロールが上手くなった私は、ついに魔を完璧にることに功したのだ。
それこそ、うっすらとに纏わせて、疑似的に質のようにすることだってできる。
攻撃力を持たないように注意しながら、暖かい聖魔力を纏って二人を抱きしめる。
「ほら、ロイも」
「……うん!」
し遠巻きに眺めていたロイも呼んで、一緒に包み込んだ。
三人とも、元気だ。
よかった。本當に。この子たちの笑顔を守れて。
自分が死ぬことよりも、孤児院のみんながいなくなるほうが、ずっとずっと嫌だ。
そう思うと、ファンゲイルの式でヒトダマになれたのはよかったね。おかげで守れたんだもん。
三人はぐりぐりと頭をりつけてくる。ふふ、可い。
「セレナ」
ひとまず三人を解放すると、シスターのエリサに話しかけられた。
「エリサ……」
彼に、なにを言えばいいだろう。
三人みたいに抱き著くべき? 頭を下げるべき?
死んでから會うのは久しぶりだから、どう接するべきかわからない。
私を拾って育ててくれた、お母さんみたいな人だ。ううん、私にとっては、紛れもなくお母さん。
再會できるのは嬉しいけど、同時に怖くもある。
先に死んで魔になった私を、どう思っているのだろう。
「あのね、エリサ……」
一歩、彼に近づく。
彼も私に向かって歩を進める。
お互いに近づいて、やがて手の屆く距離になった。
「セレナ」
先に口を開いたのは、エリサのほうだった。
「おかえりなさい」
そして、目を細めて微笑む。
記憶にあるまんまの、優しい笑顔だった。
「ただいま……っ」
その顔を見た瞬間、が溢れ出した。
エリサのに飛び込む。
「ただいま、ただいま。ずっと、帰りたかった……っ」
「ええ、おかえりなさい。待っていましたよ」
「エリサ。ごめんなさい。死んで、ごめんなさい。育ててくれたのに、私、魔になっちゃって……」
魔になったことは、あまり後悔していないつもりだった。なんだかんだ楽しいし、こうしてアレンとも話せるようになったし。いいこともたくさんある。
でも、エリサに対してだけは、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
戦爭孤児にすぎない私を、立派に育ててくれたのだ。聖になる時も、を出すことなく、笑顔で送り出してくれた。
謝してもしきれない。なのに、恩を仇で返すような真似を……。
「なにを言っているのですか。セレナはセレナでしょう?」
「えっ……?」
「わたくしは、こうして帰ってきてくれただけで嬉しいです。でも、ちょっとしくなりましたね」
エリサは優しく、頭をでてくれる。
「死んでごめんなさい、なんて、言うものじゃありませんよ。こちらこそ、守ってあげられなくてごめんなさい。そして……戻ってきてくれてありがとう。私たちを守ってくれて、ありがとうございます」
「ううん、守るのは當たり前だよ。だって、私の大事な家族だから」
「ふふ、さすが、わたくしの自慢の娘です」
ああ、戻ってきてよかった。
ずっとにつっかえていた何かが、やっと取れた気がする。
貴族や王子に嫌われて、突然処刑されて。
魔になって、魔王に連れ去られて。
皇國に攫われ、を奪われそうになって。
いろいろあったけど、私……今、とても幸せだ。
「セレナ、そろそろ報告しないか?」
「うん! そうだね、アレン!」
エリサから離れて、アレンの隣に並ぶ。
手を繋いで、まっすぐエリサを見た。
「私たち、結婚します!」
私は魔だから、いろいろと問題があるかもしれないけど。
アレンとなら、乗り越えられると思うから。
今日、ようやく約束を果たします!
ここまでお読みいただいた皆様、本當にありがとうございました。
この作品は私の初書籍化作品であり、初めて多くの方のお読みいただけた作品でもあります。
お楽しみいただけたでしょうか? もししでも心に殘っていたら、至上の喜びです。
「処刑された聖は死霊となって舞い戻る」完結です!
もし機會があったら、人間に戻るためにゴズメズを作った魔王のところに會いに行く話とか書くかもしれませんが、
タイトルの通り「國を助けるために舞い戻り」そして「全てを終えて家に戻った」ところで完結させるのが一番いい形なのかな、と思います!
書籍は二巻まで発売中。
コミックは一巻発売中、ニコニコ、ピッコマなどで大好評連載中ですので、よろしければ覗いてみてください! セレナがめっちゃ可いですので!
それと、6月17日にガガガ文庫から「ママ友と育てるラブコメ」という作品が発売されます。
本作とはだいぶが違いますが、よければお手にとってみてください。
長くなりましたが、
改めて、ありがとうございました。
じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出身の魔導士、通訳兼相棒の新米回復術士と一緒ずてツートな無詠唱魔術で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】
【2022年6月1日 本作が角川スニーカー文庫様より冬頃発売決定です!!】 「オーリン・ジョナゴールド君。悪いんだけど、今日づけでギルドを辭めてほしいの」 「わ――わのどごばまねんだすか!?」 巨大冒険者ギルド『イーストウィンド』の新米お茶汲み冒険者レジーナ・マイルズは、先輩であった中堅魔導士オーリン・ジョナゴールドがクビを言い渡される現場に遭遇する。 原因はオーリンの酷い訛り――何年経っても取れない訛り言葉では他の冒険者と意思疎通が取れず、パーティを危険に曬しかねないとのギルドマスター判斷だった。追放されることとなったオーリンは絶望し、意気消沈してイーストウィンドを出ていく。だがこの突然の追放劇の裏には、美貌のギルドマスター・マティルダの、なにか深い目論見があるようだった。 その後、ギルマス直々にオーリンへの隨行を命じられたレジーナは、クズスキルと言われていた【通訳】のスキルで、王都で唯一オーリンと意思疎通のできる人間となる。追放されたことを恨みに思い、腐って捨て鉢になるオーリンを必死になだめて勵ましているうちに、レジーナたちは同じイーストウィンドに所屬する評判の悪いS級冒険者・ヴァロンに絡まれてしまう。 小競り合いから激昂したヴァロンがレジーナを毆りつけようとした、その瞬間。 「【拒絶(マネ)】――」 オーリンの魔法が発動し、S級冒険者であるヴァロンを圧倒し始める。それは凄まじい研鑽を積んだ大魔導士でなければ扱うことの出來ない絶技・無詠唱魔法だった。何が起こっているの? この人は一體――!? 驚いているレジーナの前で、オーリンの非常識的かつ超人的な魔法が次々と炸裂し始めて――。 「アオモリの星コさなる」と心に決めて仮想世界アオモリから都會に出てきた、ズーズー弁丸出しで何言ってるかわからない田舎者青年魔導士と、クズスキル【通訳】で彼のパートナー兼通訳を務める都會系新米回復術士の、ギルドを追い出されてから始まるノレソレ痛快なみちのく冒険ファンタジー。
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