《【書籍版・講談社ラノベ文庫様より8/2発売】いつも馬鹿にしてくるモデルの元カノも後輩も推しのメイドも全部絶縁して好き放題生きる事にしたら、何故かみんな俺のことが好きだったようだ。》相談

私が電話をかけると、リコちゃんはすぐに応答してくれた。夏休み中予定が合わず、會う事ができなかった間の面白い話で花を咲かせたかったが、世間話もほどほどに、私は今までの出來事を包み隠さずに相談してみる。

「……いや唯、それは流石に唯が変だと思うよ」

「…………そうなの?」

今までの出來事から予想していなかったというわけではないが、それでもしばしの間思考が停止していた。未だに告げられた言葉の意味を理解しきれていない私の様子を察してか、リコちゃんは子供に説明するように丁寧に言葉を紡ぐ。

「今さ、唯ちゃんの、男の人が喜ぶ行の判斷基準は、お店に來てくれるお客さんだけで構されてると思うんだよ」

「そう思う。他に知ってる男の人なんていないし、タクヤさんも隊長さんも優太君も、他の人だって私に罵倒されて喜んでたもん」

「うん、そう思うかもしれないけど、優太君はそこにはってないと私は思うな」

そんなはずない。私がみんなに酷い言葉を浴びせる様になってから、私を推してくれる人は急激に増えた。つまり、需要があったのだ。隊長さんが最初に罵倒するように頼んできて、その後タクヤさんが熱心に推してくれるようになって、優太君だって……。

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優太君は………………。あれ?

「優太君は、私に人気が出る前から推してくれてた……」

「そうだよね? 優太君はきっと、他のお客さんと違うところに惹かれたんだよ。彼はさ、唯のどこが好きで推してるとか言ってなかった?」

リコちゃんは決して急かさず、優しく待っていてくれるおで徐々に思考力が戻ってくる。覚えているはずだ、彼が私のどんなところに惹かれたか、前に質問したはずだ。

「………………笑顔」

そうだ、笑顔。優太君と仲良くなってまだ日が淺い時、私は彼に聞いたんだ。

『ねぇ優太君。私人気ないけどさ、なんで私の事推してくれてるの?』

『うーん……。ユイちゃんは可いし話してて楽しいけど、一番素敵だと思うのは笑顔かな』

『笑顔?』

『そう。なんていうか、すごく輝いて見えるんだ』

「……そっか。優太君は……素の私が好きだったんだ……そっ……かぁ……」

一瞬、自分が泣いているのかと思った。だが、顔にれた指先には覚しかなくて、後悔が涙を枯らしてしまったのを理解した。こんな簡単な事に、なんで気が付かなかったんだろう。他にも仮面の下の私を好きでいてくれた人はいたかもしれないが、それを言葉にして伝えてくれたのは優太君ただ一人だった。

多分、彼には元々大きな傷があって、だからあんなに悲しそうな顔をしていたんだと思う。でも、そこに私が追い討ちをし続けたせいで、ついに抑えていたものが発してしまったのだ。仕事をする上では、このキャラクターは正解だったかもしれない。だけど、何も考えずにそれを演じる事で、彼を傷付けてしまった。奴隷みたいだったのは、私の方だ。

「唯はさ、これからどうしたい?」

「私は……優太君に謝りたい。あと、お禮が言いたい……」

なによりもまず、彼に謝罪しなければ。自分の知識がなかったから、思い違いをしていたからで済む話ではない。言葉で私を救ってくれた彼を、言葉で傷付けてしまったのだから。私はまだ、何も彼に返せていない。それに、素の私を見ていてくれてありがとうって、ちゃんとお禮を言いたい。

「……なら、作戦を立てないとね。優太君の通ってる學校はわかるんだっけ?」

「うん……多分、この辺りで噴水のある高校っていったら一つしかないから」

彼はいつも週末にお店に來るため、通う高校がどこかは分からない。けど、以前學校の話をした時に、噴水があると言っていたのを覚えている。

「じゃあコンタクトは取れるとして……。流石に家までは分からないし、行くのもどうかと思うから、夏休みが終わるのを待つしかないね。勇気が出ないなら私も著いて行こうか?」

「ありがとう。でも、一人で頑張ってみようと思う」

「そ、ならながら応援してるね! また何かあったらいつでも連絡して!」

そう言って電話が切れる。再び部屋の中を靜寂が支配する。しかし、私の心にはもう孤獨はなく、しの勇気が生まれていた。

なんていい友達を持ったんだろう。私が悪いのに、それを責めることなく親に話を聞いてくれた。解決策も一緒に考えてくれて、彼がいなければ、私は未だに自分の犯した過ちを知ることすらできなかっただろう。

優太君とリコちゃん。二人の優しさに報いるために、私は行すると決めた。怖くても、拒絶されるとしても、伝えるんだ。

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