《【書籍版・講談社ラノベ文庫様より8/2発売】いつも馬鹿にしてくるモデルの元カノも後輩も推しのメイドも全部絶縁して好き放題生きる事にしたら、何故かみんな俺のことが好きだったようだ。》ライバル

「うん、許すよ」

その言葉を求めていると思ったのだが、対面しているユイちゃんは鳩が豆鉄砲を食ったように目をぱちぱちさせている。

「え……許して……くれるの?」

「もちろん。俺もあんな事言って悪かった。ごめん」

「いや、それは全然……いいんだけど。私、優太君に酷いこと沢山言っちゃったし……」

の謝罪を聞く限り、俺を罵倒していた事に悪意はなかったようだし、そもそも笑っているだけだった俺にも問題がある。何も言い返さずにヘラヘラしていたら、れられていると解釈しても何らおかしいところはないからだ。

お互い良くないところに気付けて、こうして腹を割って話せているんだからそれでいいと思う。俺の言葉が彼に屆いていると知って報われた気持ちもあり、既にユイちゃんに対する負のはなくなっていた。

それに、彼は心なしか前よりやつれているように見える。そうなるのも無理はないだろう。SNSでも現実でも、大勢の見ず知らずの人間から誹謗中傷をけてきたのだ。ただの子高生には荷が勝ちすぎている。彼はもう、十分罰をけたのだ。

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「俺も一言やめてって言えばよかったと思うし、二人とも悪いところがあったって事じゃだめかな?」

「……ううん。本當にありがとう」

の前で両手を合わせ、嬉しそうにこちらを見つめる瞳は微かに潤んでいて、全てを伝えるのに相當の勇気が必要だった事が想像できる。

「最初に植え付けられた知識が間違ってるって気付いたり、それをれるのって凄く気持ち的に辛いよな。常識は気軽に変えられるものじゃないし」

「うん……。だから気付くのが遅れてごめんね」

「謝らなくていいよ。俺もそういう経験あるから分かる」

そう、彼は男経験がないから、一般的にどうすれば異が喜んでくれるか分からなかったのだ。そして目の前に提示された「罵倒する」という行為は、雛鳥が初めて見た生きを親だと思うように、彼に刷り込まれてしまった。

もちろん、現代はネットを使えばいくらでも有用な知識を得る事ができる。だがそれは、數學の公式や禮儀作法のように、既に答えとして完しているものであればよいが、男の様に、じ方が十人十で時間と共に移り変わっていくものに対しては効果を発揮しにくい。

ゲームをやらない人間にゲームを渡しても喜ばれない様に、當人を取り巻く環境によって使えなくなる知識もある。そう考えると、畫面の向こうの意見よりも現実の意見を取りれるというユイちゃんの認識は正しいとも言える。

運良く間違いに気付けたとしても、そうだったのかとけ止めるのは至難の業だ。かくいう俺も、相手を無條件に肯定する事が優しさではないと心の奧底では分かっていたのに、植え付けられた思考をすぐに否定する事ができなかった。

が伝わったのか、彼の聲の震えは収まりつつあり、決心したように俺の手を摑むと、可憐な聲が発せられる。

「私さ……今更好きだなんて言えないけど、もう一回優太君が私だけを見てくれるように頑張ってみようと思う。……許してくれる?」

「想いに応えられるか分からないけど、それで良ければ」

「……やった。ありがとう!」

その笑顔は、久しく見れていなかった彼の素の表だった。俺がユイちゃんを推す決め手となった、幸せそうな笑顔。やっぱり、キャラクターを演じている時より斷然可いと思う。

うん、これで良い。ここからまた――

「……先輩?」

「…………放っておいてごめん」

その笑顔は、久しく見れていなかった彼の怒りの表だった。すっかり黒咲を蚊帳の外にして會話を進めてしまっていた。やっぱり、可い子が怒ると十倍怖いと思う。

「あのですね、私というものがありながら、今更メイドさんと仲良くする必要ありますか?」

「後輩ちゃん……で、いいのかな。もしかして、二人は付き合ってるの?」

「いえ、まだ付き合ってませんが、私達の心は深く通じ合ってます! だから――」

「付き合ってないなら私にもチャンスがあるね! 負けないから!」

大きなを張って、恥心を投げ捨てた様な事を聲高らかに主張していた黒咲だが、ユイちゃんのポジティブトークに押され、最終的には引き気味で俺の橫に戻ってきた。

「今日のところは帰るね! 優太君、連絡先聞いてもいい?」

「だめですー!」

「いや、いいよ」

「なんでですか!」

両手をばたつかせて阻止しようとする黒咲を避け、連絡先を換すると、ユイちゃんは小気味良い足取りで去った行った。後に殘ったのは俺と、恨めしそうに俺の脇腹を突いてくる後輩と、一部始終を見ていた外野の視線だけだった。

「……ていうか先輩、メイドカフェに通ってたんですね。私がいくらでも著るのに」

「お、じゃあ今度メイド服姿、見せてもらおうかな」

「言いましたね!? 本當に著ますからね! 一緒にプリクラ撮ってくださいよ!」

罰ゲームのように言っているが、確実にご褒だ。メイド服姿の黒咲はさぞ可いだろう、インナーが金髪だから不良メイドになってしまうかもしれないが。

何はともあれ、また一つ過去と決著をつける事ができた。まだ一人心當たりがあるが、果たしてこれ以上の進展がめるのだろうか。

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