《【書籍版・講談社ラノベ文庫様より8/2発売】いつも馬鹿にしてくるモデルの元カノも後輩も推しのメイドも全部絶縁して好き放題生きる事にしたら、何故かみんな俺のことが好きだったようだ。》帰宅
今日から前に投稿した話の改稿を進めていきたいと思います!
メイドカフェ――それは、人類の希を凝して形された楽園。
數多くのコンセプトカフェがしのぎを削るコンカフェ 戦國時代において、メイドカフェは太古の昔より存在する、いわば恐竜のような存在。既に一般市民に知り盡くされているようでいて、足を踏みれれば新たな発見に心を踴らされる、夢のような場所である。
とりどりの裝を見に纏い、決して枯れることのない笑顔でご主人様を迎えてくれるその姿はまさしく、コンカフェ 界のティラノサウルス……!
今再び、我々は新世界への扉を叩く時が來た。重苦しさをじさせない、可いデコレーションが施された外裝。天使の羽を模したノブを回し、伝説の剣を引き抜くような勇ましさでドアを開けると――
「おかえりなさいませ〜! ご主人様〜!」
……天使だ。來店を知らせる鈴の音と共に、天使が舞い降りてきた。
ティラノサウルスもステゴサウルスもプテラノドンも、もはやこの世には存在しない。恐竜の時代は終わりを告げていたという事だ。今目の前に降臨なさっているのは他でもない、大天使ミカエル……。それかガブリエルかラファエルかも。
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そろそろ意味の分からない解説にも飽きてきたので、今日の予定について説明しよう。
時はし遡って日曜日。俺は、一月ぶりにユイちゃんが働いているメイド喫茶に足を運んでいた。本當はしばらく遊びに行くつもりはなかったのだが、昨晩10件にも渡る長文メッセージで屆き、その勢いに圧倒された結果がこれである。
謎のテンションのまま店した俺を出迎えてくれたのは、良く見覚えのある姿だった。
青空を塗り込んだようなの長い髪をポニーテールに束ね、大きな垂れ目とぷっくらとした涙袋。キラキラとした可らしい姿によく似合うピンクと白のメイド服には、アニメのキャラクターの缶バッジが付けてある。元の名札は、貓やハートの絵で裝飾されていた。
「優太君、來てくれてありがとう!」
「久しぶり。元気そうでよかった」
奧の方に案され、席に著く。前回彼と會ってから全然時間が経っていないはずだが、前のような痛々しくやつれた様子は綺麗さっぱり無くなっていた。
「ご注文は何にしますか?」
「もえきゅんオムライスと、後はコーラで」
「かしこまりました〜! 々お待ちください!」
弾けるような笑顔で注文をけ取り、軽快な足取りでカウンターに戻る彼の姿を見て、手放したが戻ってきたようで嬉しくなる。5分ほどすると、ユイちゃんはコーラを片手に帰ってきた。
「お待たせいたしました〜! コーラになります!」
「ありがとう。言い忘れてたけど、ユイちゃんにもドリンクお願い」
「わぁ! ありがとう〜! いただきます!」
ユイちゃんはアイスココアにしたようだ。俺のテーブルにグラスを置いて、彼がドリンクを飲み終わるまで、二人で會話を楽しむことができる。
「ユイちゃん、無理してないみたいで良かった」
「えへへ、ありがとう。お客さんは前より減っちゃったけど、今の方が良いってまた推してくれる人もいて嬉しいんだ」
「今の方が斷然可いよ」
「か、かわっ!? あ、ありがとっ!」
以前から可いと伝えていたはずだが、何故か耳まで真っ赤にして、よろめくように照れていた。
何はともあれ、素の彼が他のお客さんにも好評なようで安心だ。まぁ俺は最初から魅力に気付いていたんだけど。
そんな面倒くさいオタクムーブをかましていると、廚房からオムライスが運ばれて來て、ユイちゃんがそれをけ取ってくれた。
「オムライスに文字書くね! リクエストある?」
「うーん、おまかせで」
「分かった! 頑張るね〜」
そう言うと慣れた手つきでオムライスにケチャップ文字を書いていく。よくこんなに用にできるなと心するくらい上手に書いているものだから、つい夢中になって見てしまった。さて、肝心の出來上がった文字なのだが――
『ゆうたくん 大好きだよ♡』
オムライスがパフェより甘くなりそうなメッセージに加え、めちゃくちゃハートが描いてある。増量セールなんて目じゃないほどのハート祭りだ。しかし、まだ追撃は止まない。
「じゃあ次は、オムライスに魔法をかけるね!」
「うん、お願……何で隣に座るの?」
彼は俺の隣に座ると、自然な流れで両手を人繋ぎにし、耳元で囁き始める。
「優太君、大好き。大好き、大好き、大好き」
元々聴いているだけで癒される小鳥の囀りのような聲は、耳元で囁かれる事で何萬倍にも威力を増し、息が耳に吹きかけられるのと相まって全てを委ねてしまいそうな気持ちになる。
「もっと私だけの事を見て? ほら、こんなにドキドキしてるんだよ?」
依然として耳が溶かされそうになるが、攻撃はそれだけでは終わらない。続いて、繋いでいた手を、ユイちゃんは自らのかなへと押し付けた。制服越しに伝わるマシュマロみたいなにいっぱいいっぱいで、相手の心臓の鼓など気にしていられない。
聴覚だけでなく覚までもが彼の支配下に置かれてしまい、もはや陥落するのは避けられない。
だが、二人きりの空間ならこのまま勝負は決まっていたかもしれないが、ここには大勢の人間がいる。この慘狀を見られたらユイちゃんが非難されてしまう、その一心で鋼鉄の理はなんとか保たれていた。
「ゆ、ユイちゃん、待って」
「ん? どうしたの?」
「他のお客さんが見てるから……」
「大丈夫、一番奧の席だから誰も気付いてないよ?」
……やられた。
ここまで計算した上で一番奧の席に案したのか。確かに、カウンターからは最も遠く、客の目線は絶対にこちらへは向かない。
それに、メイドさんも、まさか同僚がご主人様の耳元で囁いているとは思わないだろう。俺たち二人は、まるで別の空間にいるようだった。
「でもこれ以上は流石にバレちゃうね、殘念」
そう言って彼は向かいの椅子に座り直す。
……危なかった。まさかこんな暴力的な隠し玉を用意していたなんて。実は素の彼は凄まじい小悪魔なのかもしれない。油斷すると取って食われそうな気がしてきたし、いいじに話を逸らそう。
「お、オムライス味しいよ」
「ほんと? 良かった。私が沢山魔法をかけたからだよ!」
「そうだね……」
「そういえば、この間の後輩ちゃんとはどんな関係なの?」
當初の目的通り、別の話題にすることができたが、また難しい質問をぶつけられてしまった。
「俺が去年、彼に振られてすぐくらいに知り合ったんだよ。よくゲーセン行ったり映畫観たりしてるかな」
「ふーん……。學校が違うからちょっと不利かな……」
小聲で何か言っているようだが、あいにくと聞き取ることができない。何か作戦を練っているような、そんな間があった後、彼は口を開く。
「たまにでいいから、私とも放課後遊んでくれる? 後輩ちゃんが一緒でも全然良いよ!」
「遊ぶのは全然良いけど、黒咲と一緒なのはやめておいた方が……」
この間の攻防を見る限り、二人の相はあまり良くないようだから、會わせるのは悪手だろう。というより、黒咲がユイちゃんのポジティブトークに引いていただけなのだが。
雑談をしつつ、練よりも甘いオムライスを完食した俺は、そろそろお暇しようと荷をまとめる。
「もう帰っちゃうの?」
「うん。今日も楽しかったよ」
「それなら良かった! またいつでも遊びに來てね? 沢山サービスしちゃうから!」
「サービス……。ありがとう、お邪魔しました!」
「行ってらっしゃいませ! ご主人様〜!」
若干いかがわしい響きに疑問をじつつも、久方ぶりに見れた推し本來の姿に喜びをじながら退店した。
ビルの外に出ると、街には仄かに夜の闇が近付きつつあった。
雲一つない空、は明日にはまた昇ってくる。
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