《【書籍版・講談社ラノベ文庫様より8/2発売】いつも馬鹿にしてくるモデルの元カノも後輩も推しのメイドも全部絶縁して好き放題生きる事にしたら、何故かみんな俺のことが好きだったようだ。》一線
嬉しいことに書籍化、コミカライズが決定しました!
これからも頑張って書いていきますので、応援よろしくお願いいたします!
事件というのは、大抵予期しないタイミングで起こるものである。
俺の機が罵倒用語専門の辭書になってから二日、いつものように黒咲と登校した俺は、下駄箱で靴を取り替えるために一旦彼と別れた。
しかし、いつまで経っても彼が戻ってこないため、不思議に思い様子を見にいくと――
「あ、先輩……」
黒咲の下駄箱の中には大量の畫鋲がばら撒かれていた。
「黒咲、怪我はないか!?」
慌てて彼のもとへ駆け寄る。視線の先には、上を向いたおびただしい數の畫鋲が無造作に置かれていて、無意識に上履きを取ろうものなら怪我は免れない。
「大丈夫です! なんかちょっと、小學生みたいな嫌がらせで呆れてただけです」
焦っているのは自分だけみたいだ。言葉通り、彼の表は明るく、幸いな事に無傷だった。ほとんど神的ダメージをけている様子もなく、ひとまず安堵する。
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しかし、一歩間違えれば彼の手には傷が殘っていたと思うと、後からぞっとする気持ちが湧き上がってきた。心配させまいと強がっている可能も否定できないため、本當に怪我はないか黒咲の手を念に探る。
「あ、あの……。そんなにられるとくすぐったいです」
「本當に怪我してないか心配なんだよ。もうし我慢してくれ」
手のひらから指の間まで、丹念に確認していると、こそばゆくじたのか小さく聲がれている。
「ごめんな。もうちょっと我慢してくれ」
「……優しいですね」
優しいとかそういう問題ではない。ついに予期していた事が起こってしまったのだ。俺に負のを抱いているからって、まさか周りの人間にまで手を出すとは。
黒咲は何故こんな稚な嫌がらせの標的にされたか知る由もない。推理は暫定的とはいえ、彼にも説明しなければならないだろう。
「黒咲、実は――」
――――――――――――――――――
「つまり、先輩への嫉妬とか、そういう類のやつですよね?」
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「そうだと思う。巻き込んで本當にごめん」
「いえ、そのおで先輩とイチャイチャできるから問題ないです! ……それにしても、先輩の元カノがあの淺川先輩だったなんて……」
俺の説明を一通り聞くと、怒るわけでも非難するわけでもなく、あっけらかんとけれられてしまった。むしろ、淺川との話の方に興味を持っているようだ。
「馴染だったからさ。黒咲も知っての通り、結局浮気されて捨てられちゃったし」
「……私の見立てでは、どうも違う気がしますけどね」
「どういう事だ?」
「いえ、何でもないです! それより、強力なライバルが既に消えていた事に喜びを覚える後輩です!」
被害をけたというのに、どうしてかご機嫌な後輩が可く思えて、自然と頭をでていた。
「ともかく、今日はごめんな。この埋め合わせは絶対にするから」
「えへへ。楽しみにしてますね?」
サラサラと気持ちの良いを手に、思考を巡らせる。
犯人はおそらく、同じクラスの人間だろう。黒咲と俺の仲がいいのを知る事ができるのは、クラスメイトだけだ。
そして、一度アクションを起こした以上、標的が黒咲だけとは思えない。他に俺と関係のある生徒にも被害が出ていると、そう考えるのが妥當だろう。淺川以外に俺と関わった事がある生徒は――。
「ごめん黒咲。もう一人被害者に心當たりがあるから教室へ行って良いか?」
「わかりました。何かあったらいつでも頼ってくださいね!」
「俺の臺詞だ。何かあったら絶対に助けに行くからな」
「しぇ、しぇんぱい……」
茹で蛸のように顔を真っ赤にしている黒咲を教室へ送り屆け、自分のクラスへ走る。
目的地の周辺に著くと、予は的中していたようだ。普段であれば聴こえるはずの喧騒が、ぴたりとやんでしまっている。
「片山! 大丈夫か!?」
自然と大きくなってしまう聲と共に教室にると、黒板にほど近い片山の席には、大量の墨がぶちまけられていた。
「宮本か……。これ、前回と同じやつの仕業だよな」
當の本人は至って落ち著いており、スマホで墨の吸い取り方を調べながら俺の呼びかけに応じた。
「多分。ごめん、俺のせいで片山が巻き込まれる事になって」
「いいってことよ! むしろこれで、俺たちが友達だって自他共に認められた事になるな!」
俺を元気付けるように強く肩を叩くと、白い歯をニヤリとにしながら親指を立てる。
「ありがとう、勿論友達だよ。この件は俺が決著をつけるから、迷かけてごめん」
何故か嫌がらせをけた時よりがいてみえるが、これはどんな気持ちなのだろう。だが、次の瞬間にはまた真面目な顔に戻り、勇気付けるように口を開く。
「大丈夫か? 何かあったらいつでも協力する」
「ありがとう。もし一人で手に負えなくなったら、相談させてもらう」
巻き込まれたというのに自分を気遣ってくれる度量の広さに謝と罪悪をじる。俺には勿無いくらいの友達だ。
もう無視を決め込んでいられない。標的が自分だけなら気にならなかったが、大切な人達に手を出された以上、犯人を見つけ出して止めなければ。
犯人を炙り出すヒントがないか辺りを見回していると、背後から突き刺さる視線をじる。
たった今教室に到著したばかりなのだろう、信じられないものを目にした様子で淺く呼吸をするその人とは、
――淺川だ。
視線が重なるが、彼は後ろめたい事があるかのように目を逸らし、そのまま自分に與えられた席へと歩いて行く。
腰を下ろして安息を得たというのに、未だに息は上がっており、長いまつが小刻みに震えている。こちらの様子を伺いたいのに、何かが気になって顔を向けられないのだろう、普段はブレる事のない瞳があちこちに角度を変えていた。
あの時の顔の背け方、そして今の態度から彼が犯人ではない事は分かっているが、何か重要な事に心當たりがあるようだ。
と、その様子を見て俺にも気がつく事がある。
淺川を犯人候補から外す理由として挙げられるのは、主に一點。そもそも彼は、俺に嫌がらせをする可能はあるが、その理由は以前彼が口にしていた通り、俺の本心を引き出す事だろう。ならばわざわざ犯人を分かりにくくして、俺以外の人間に危害を加えるとは思えない。
そう考えると犯人は、夏休み明けの教室で起こった出來事が原因で俺に恨みを抱いたのだろう。クラスで俺が目立った出來事といえば、片山と友達になった事と、黒咲が教室に迎えに來たこと。最後に、淺川と絶縁した事だ。
片山と黒咲は標的にされている事から、前半二つの線はなさそうだ。片山はそもそも嫌がらせをけるような人間ではないし、黒咲の事が好きなら彼には手を出さないはずである。
ならば消去法で答えは一つ、淺川が泣いた事に怒りを覚えた人間の仕業だろう。それならば、以前より他人の目からは俺と仲睦まじく見えていた淺川が狙われないのにも納得がいく。
前にも言った通り、淺川は學校のマドンナ的存在だ。彼に憧れていたり、心を抱いている生徒は腐るほどいる。
だが、直接彼にコンタクトを取るわけでもなく、回りくどい方法を選択するこのやり方は、敬やのそれではなく信仰に近いものだと思う。
一人の高校生には重過ぎるをめた生徒ですら何人か思い當たるが、同じクラスとなると彼しかいないだろう。
探偵小説なら冷めてしまうほど簡単に真相に辿り著いてしまったが、今犯人を問い詰めたところでシラを斬られるのが関の山だ。次のアクションを予測し、その時に決著を付ける。
俺を見ているであろう犯人に気付かれないよう、そっと決意を固めた。
需要あるよ、これからも読んでやってもいいよと思ってくださる優しい方がいたら、
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