《【書籍版・講談社ラノベ文庫様より8/2発売】いつも馬鹿にしてくるモデルの元カノも後輩も推しのメイドも全部絶縁して好き放題生きる事にしたら、何故かみんな俺のことが好きだったようだ。》推測

時刻は夜の7時。校舎から一歩外に出れば真っ暗な闇が広がっているからか、警備の為にちらほらついている電気も卻って不気味だ。晝からは想像できないほど何の音もしないので、たった一人世界に取り殘されているようにじる。

何故俺がこんな時間まで學校に殘っているのか、理由は簡単である。

犯人が機に落書きをしてから次の犯行に及ぶまでは二日ほどのラグがあったが、俺が反応を示した事に手応えをじ、すぐに更なる行を起こすと予想したからだ。

最悪今日でなかったとしても、毎日こうやって待ち構えるだけだ。教師には事を話して許可を貰っているし、この件はにするようお願いした。変に警戒している事がバレた場合、犯人が尾を出す可能が減ってしまうのではと危懼した結果だ。

流石に教室の鍵までは開けてもらえないので、俺が待機しているのは黒咲の下駄箱の近くだ。不屆き者は人のいない時間を見計らって校に侵するのだろう。それとは逆側で待機していれば、向こうからは気付かれにくく、こちらは発見しやすい。スマートフォンは手の中にあれど、燈りを付ければ目立つ為、素直に闇の中に潛んでいる。

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さて、ここからは犯人と俺との耐久戦だ。犯行の現場を目の當たりにした際、どのような行を取るのが一番効果的か、幾重にもシミュレーションを重ねる。

準備は萬端だ。

――――――――――――――――

待機して一時間、事態はようやく進展を見せた。

俺が待つ下駄箱近くの反対側、校舎のり口から微かな足音が聞こえる。慎重に行しているつもりなのだろうが、自分以外誰もいないと油斷しているのか足音を消しきれていない。

――ついにきた。

明かりに頼らなかったおで、俺からは侵者の姿がよく見える。

中背だが、貓背のせいで若干背が低く見える。髪のはもっさりとしていて、パーマを當てたようにくるくるとクセが付いているが、おそらくそれは生來のものだろう。

彼の名前は真壁。予想通り、俺や淺川のクラスメイトだ。真壁は眼鏡の位置を右手の平で調整しながら、忙しない様子で黒咲の下駄箱の正面へと立つ。

ぶつぶつと獨り言を言いながら、左手に持つリュックの中からおもむろに何かを取り出す。

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目を凝らして見てみるとそれは、今朝見た畫鋲がっているケースだった。彼は一度周囲をキョロキョロと見回すと、音を立てないように黒咲の下駄箱を開け、今まさに再犯に及ぼうとしている。

俺の作戦はこうだ。真壁が黒咲の下駄箱に畫鋲をれた瞬間に呼び止め、それに驚いている隙にスマホで寫真を撮って証拠として殘す。もはや目の前には遂行の二文字が見えていたが、ふと、校舎のり口に別の気配をじた。

「真壁くん、やめなさい!」

彼が畫鋲をれようとしているこのタイミングで呼び止めようと腹に力をれたのだが、それが空気を震わせるよりも前に、予想だにしなかった別の聲が鼓に屆く。

慌てて聲の主に目を向けると、そこに立っていたのは――

「あ……淺川さん!?」

「あなた、一年生の下駄箱の前で何をやっているの?」

闇の中から姿を表したのは、他でもない淺川だった。犯行が今日だと知っていたわけではないのだろう、に纏うのは制服ではなく、パーカーにデニムのパンツというラフな格好だった。本來なら私服の信仰対象が拝めて喜ぶべきところなのだろうが、真壁の表く、手に持っているケースがカタカタと音を鳴らしている。

何故淺川がここにいるのか分からないが、彼に気を取られて真壁のきが止まっている今が好機と見た俺は、急いでスマホのカメラを起して、フラッシュを焚いて悪事の証拠を寫真に収めた。

「な!? お前は……宮本!?」

背後からの突然のに、反的に振り返る真壁。しかし驚きも束の間、自らの悪行を一部始終見られていた事に気付き、絶の表を浮かべる。

「真壁、お前が犯人だって事は分かっていた。近いうちにそれを繰り返す事も」

「な、なんでだよ! お前が悪いんだぞ! 淺川さんを泣かせたりして、そんな罰當たりな事をした報いをけるべきなんだ!」

「……そう思うなら勝手にしてくれ。この畫像は教師に提出して、然るべき処置をけてもらう」

まさか、なんのお咎めも無しだと思っていたのだろうか、目の前の男は急に焦りだした様子で引き攣った笑みを浮かべる。

「ま、待ってくれよ……。そ、そこまでする事ないじゃんか! ほら、ちゃんと謝るから!」

今更渉する余地はない。俺だけならまだしも、無関係の人間にまで被害を及ぼし、一線を超えた彼を許す事など到底不可能だからだ。

俺に縋っても意味はないと悟ったのか、顔から大粒の汗を噴き出しながら今度は淺川の方にびを売り始める。

「あ、淺川さんも何か言ってよ! 俺はあなたの為に、あなたが心から笑えるように――」

「何言ってるの? 誰がいつ真壁君に頼んだって言うの? 私の気持ちを勝手に推測して、他人を傷付けることでそれを満たそうとするなんて、自分のエゴを押し付けるのも……っ!?」

真壁の言い訳を聞き終える間も無く一蹴していた淺川だったが、その言葉を言い終える寸前、突然何か重要な見落としを見つけたかのように言葉を途切れさせる。しかしすぐに自分を取り戻すと、強気に言葉を続ける。

「と、とにかく、私はあなたに何も頼んでいないし、そもそも視界にすらってないの。被害者面しないで、諦めて罰をれなさい」

毅然とした振る舞いで拒絶する淺川。真壁はそんな姿を呆けたように見つめていたが、徐々に自らに訪れる処分への恐怖に侵食されていき、校舎から逃げるように駆け出して行った。

「……これでもう、嫌がらせは止むんじゃないかな」

「……そうだな」

これで殘ったのは俺と淺川の二人だけだ。り行きとはいえ、彼と二人きりで會話するのは振られた日以來だ。お互いに気まずさをじているのか、言葉が上手く出てこない。

「淺川は、なんでここにいるんだ?」

この際だ、疑問を率直にぶつけてみる。犯人には気が付いていたようだが、先程も思ったように、今日が再犯の日ということまでは分かっていなかったというのが、彼の服裝を見れば理解できる。

「そ、それは……」

自分の中で考えがまとまっていないのか、それとも思考容が真実だと脳で確かめているのか、とても歯切れの悪い返事が返ってくる。ポニーテールに縛られた髪の揺れは、彼の心を表しているようだった。

十數秒の時間がゆっくり流れると淺川は、やはり予想通りの答えに辿りついたという風に一瞬目を見開くと、こちらを真っ直ぐに捉える。

張を抑えるためか、左の手をに當てながら、凜としてき通る聲でぽつぽつと話し始めた。

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