《【書籍版・講談社ラノベ文庫様より8/2発売】いつも馬鹿にしてくるモデルの元カノも後輩も推しのメイドも全部絶縁して好き放題生きる事にしたら、何故かみんな俺のことが好きだったようだ。》淺川由の理由 その4

長かった回想が終わります

そんな負け犬のような私にも、ついにチャンスが巡ってくる。進展のない毎日に嫌気がさした私は、普段よりもし早く登校してみる事にした。何でも、人間は起きてから二時間が最も頭の回転する時間らしい。生徒がない時間帯であれば、ゆっくり考え事をしながら學校に向かえると考えたのだ。

そう息巻いていたものの、やはりというか何というか革新的なアイデアは生まれず、とうとう學校にたどり著く。軽く落ち込みながら校舎へった時、焦りと怒りがり混じったような聲が聞こえた。

「黒咲、怪我はないか!?」

聞き間違えるはずがない、ユウの聲だ。私は見つからないよう、咄嗟に下駄箱の影に隠れる。そっと覗き込むと、彼が向かう先にいたのは、いつもユウに馴れ馴れしくしている一年生の子だった。彼の下駄箱には大量の畫鋲がばら撒かれていたが、心配させないようにか、狀況に似合わない笑顔でけ答えをしている。

大事には至っていないようだが、ユウは彼のことを心配して教室まで送っていくようだ。こちらへ向くことのない強い想いを目にし、思わず黒いが湧き出てくるのをじる。だが、昂る気持ちを何とか抑え、二人が去ったこの場所で思考を巡らせる。

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何故彼がいじめられている?

詳しい人間までは分からないが、なくともいじめられるような格の悪い子には見えない。ルックスの良さから恨みを買う事はあるかも知れないが、友達も多そうなので子から攻撃されたわけではないと思う。男子についても、毎日先輩を教室まで迎えに行く子に、わざわざアタックしようという人間はいないだろう。勝ち目がないのは百も承知なのだとしたら、恨みなど抱くはずもない。

となると、犯人はユウに恨みを抱いている人間という事になる。確かにメンタルが強い相手なら、本人に何かをするよりも近しい人間に危害を加える方がダメージは大きい。

しかし自分の下駄箱を確認してみても、何一つ昨日と変わりはない。夏休み前なら私も同じ様な嫌がらせをけたのだろうか。でも、それならもっと早く行に移している気がする。なんで私が拒絶された今――。

違う、私が拒絶されたから行を始めたんだ。

自分で言うのもなんだが、私は大勢の生徒から羨の眼差しをけている。中には私の事を、まるで神様みたいに扱ってくる人まで存在しているのだ。もし私が泣いてる姿を見て、復讐のために畫鋲をばら撒いたのだとしたら?

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教室へ向かう足取りは自然と早くなっていく。そして目的地に近づく頃、室からは先程と同じようにユウの大きな聲が聞こえた。

予期していた事態が現実になってしまった事に頭を抱える。どうしよう、もしかしたら私が犯人だと思われているかもしれない。しかし、このまま歩みを止めてしまえば周りの生徒の目には怪しく映ってしまうだろう。

進むしかない。できるだけ平靜を裝って、靜かに教室に足を踏みれる。目の前には背を向けたユウの姿。そして、彼の視線の先は墨で水浸しになっていた。

私の気持ちを代弁したつもりなのだろうか。犯人のおで、変わらず向こうを見ている思い人に、私が指示したと思われる可能は高い。恐怖で呼吸が淺くなっていたのか、ユウがこちらへ振り返る。

久方ぶりに目と目が合う。しかし、私は彼の顔を直視する事ができなかった。犯人だと思われていたら、今の私に無実を証明するはないかもしれない。そう思うと視線を外すことしか出來ず、そのまま自分の席へと歩いていく。

腰を下ろしても全く落ち著かない。私は何もしていないと弁解しなければならないのに、信じてもらえなかったらと思うと顔を上げることができず、視線だけがふわふわ彷徨ってしまう。

しかし、そんな私に興味がないのか、ユウからは何も言われないまま、平穏に一日が過ぎ去ろうとしていた。晴れない気持ちのまま帰宅するとラフな服裝に著替えて、どうすれば私の無実を彼に信じてもらえるのかを考えていた。

事態は一刻を爭う。やはり、次なる犯行が起こる前に先立って彼に話をするべきだ。チャンスは今しかないと決意した私は髪をまとめ、急いで家を飛び出す。二人の家の距離は一駅しか離れていないので、走れば10分程で會いにいく事ができる。

日頃ランニングをしているから、特に疲れることもなくユウの家に到著する。しの間インターホンの前で不安と戦っていたが、それを振り払ってボタンを押す。呼び出し音が二回なる。

しかし、応答がないどころか、家のどこにも燈りは付いていなかった。今日のユウを見るに、よっぽどの事がなければ直帰しているはずだ。つまり家にいないのは、その“よっぽどの事”が起こるからだろう。この狀況で思い當たるのは一つだけ、ユウは犯人を捕まえようとしているのだ。

私は再び走り出すと、全速力で駅へ向かった。

やっとの事學校に到著したが、時計の針はもうすぐ8時を指すところだ。街燈はあるものの、あたりは不気味なほど暗い。自分を捕捉する者などいないはずだが、ゆっくりと、一年生の下駄箱から一番遠いり口を選び、校舎に忍び込む。

に隠れて校舎の外を注意深く見つめていると、10分ほど経って、誰かがこそこそと侵してくるのを発見した。

あれは同じクラスの真壁君だ。會話した事はないが、噂では私の大ファンらしい。モデルとしてはとても有難いが、それと私の思考を推測する事は話が違う。

真壁君が犯行に及んだ時、我慢ならずに私は呼び止める。驚く彼の後方からは、全てを知っていたかのようにユウが現れた。

そこからの會話は、到底聞いていられるものではなかった。あまりに稚な真壁君の言い分を、ユウは歯牙にも掛けないで軽くあしらう。流石に可能がないと気が付いたのか、今度は私の方へ向き直り、みっともなく縋り付いてくる。

「あ、淺川さんも何か言ってよ! 俺はあなたの為に、あなたが心から笑えるように――」

「何言ってるの? 誰がいつ真壁君に頼んだって言うの? 私の気持ちを勝手に推測して、他人を傷付けることでそれを満たそうとするなんて、自分のエゴを押し付けるのも……っ!?」

言葉を聞き終えるまでも無く切り捨てようとしたが、それを言い終える寸前、真壁君に向けていたはずの言葉が突然向きを変えて自分に突き刺さってきた。そのナイフは、瞬間のうちに過去へ遡っていく。しかし、全てを理解してしまう前に自分を取り戻すと、強気に言葉を続ける。

「と、とにかく、私はあなたに何も頼んでいないし、そもそも視界にすらってないの。被害者面しないで、諦めて罰をれなさい」

気が付くと真壁君はけなく逃げ出していて、下駄箱に殘っているのは私達二人だけだった。

「……これでもう、嫌がらせは止むんじゃないかな」

「……そうだな」

久しぶりに、ユウと二人きりで會話ができている。そこには怒りも憎しみもなく、涼しい夜風が頬をくすぐっていた。本當なら、ただこの瞬間を味わっていたかったが、私の思考は徐々に真実へと侵食されていく。

「淺川は、なんでここにいるんだ?」

「そ、それは……」

もうしで全てに納得できる。もう一度整理するために、今までの出來事と、さっきの言葉を思い出す。私が真壁君に言い放った言葉は、そのことごとくが過去の自分への當てはまるものだった。

ユウが心を見せてくれない理由を聞こうともせず、勝手に推測し、彼を傷つける事で自分のを満たそうとした。

その結果、彼の心には「信じていた人間に裏切られ、捨てられた」という消えない傷だけが殘り、さらに、日々私がその傷口を広げようとしていたのだ。

見當違いな憶測を他人に押し付ける事がどれだけ迷か、真壁君を見て、実際に験して心から理解できる。

十數秒の無言の時間が流れるが、ユウは何も言わずに待っていてくれた。拠はないが、今なら話をする事ができると、靜寂が告げている様だった。散々彼の心を壊してきて、今更許してもらえるはずがない。こうやって二人で話す機會も、これが最後だろう。だから、せめて謝罪の気持ちだけでも、彼の心に屆かせなければならないと思った。

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