《【書籍版・講談社ラノベ文庫様より8/2発売】いつも馬鹿にしてくるモデルの元カノも後輩も推しのメイドも全部絶縁して好き放題生きる事にしたら、何故かみんな俺のことが好きだったようだ。》分岐點A-1
番外編
「…はぁ……はぁ…………せん、ぱい……」
立ち上がろうと足に力をこめるが、その間にも先輩は前に進んでいってしまう。何があっても振り返らないという強靭な意思。もはや世界に自分の理解者などいない、彼の背中がそう告げている。私も負けじとそれに追いつこうとするが、自分の意識に反しては限界を訴えてかけてくる。
かない、けない。一度は指の先まで近付いた姿は、再び星のように遠くへ。
「待って……先輩……」
膝が折れ、天へと向けていたはずの手は地へ落ちる。呼吸もままならず、口の中は鉄の味がした。
だめだ、もう、追いつけない。
――――――――――――――――
あれから私はたくさん考えた。先輩に再び追いつく方法を。
ある日の放課後、先輩は青い髪のの子を拒絶した。校門で彼に謝罪をする彼の言葉を聞き終える間も無く、刃こぼれしたナイフを突き刺す。周囲からの注目を集めても、先輩は全く気にしていないようだ。それを眺めながら私は考えていた。
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ある日の教室、彼は淺川先輩を拒絶した。もはやどんな言葉も、優太先輩には屆かない。涙を流す淺川先輩を見ても、彼の心は微塵もいていないようだ。それを見つめながら、私は考えていた。
ある夜の校舎、先輩に嫌がらせをしようとする人の証拠を撮って、これ以上やるなら先生に寫真を渡すと脅した。けなく逃げていく上級生の姿を鼻で笑いながら、私は考えていた。
ずっとずっと考え続けた。先輩はどんどん私の先を歩いて行って、もうすぐ後ろ姿すら見えなくなってしまいそう。私も頑張って進むけれど、どうしても彼の方が速く進んでいく。兎と亀のように、先輩が待ってくれなければ、一生追いつく事はできない。
……そうか。なら、先輩のきを止めればいいんだ。
先輩が止まってくれれば、亀のような私の歩みでもいずれは彼に追いつく事ができる。そうして目の前まで行けたら、この気持ちを伝える事ができるはず。私の努力を認めて、先輩も私を認めてくれるかもしれない。そうと決まれば、後は行あるのみだ。
まずは、先輩の行パターンをより深く知らなければならないと思い、持てる時間の全てを先輩の尾行に使う。彼は普段、放課後に一人で映畫を観たり、ゲームセンターに行ったり、カフェで読書をしたりして過ごしていた。以前なら、その隣は私が獨占していたが、今は誰の姿もない。私の目には、先輩をぽっかりと囲む空間があるように見えた。
憂げな表で本を読む先輩はとてもかっこよくて、ついつい目的を忘れてその姿に魅ってしまう。周りを見ると、彼の方をちらちらと伺うの子も何人かいる。無意識のうちに歯を軋ませ、腕には爪の跡が殘っていた。先輩に目を使わないで。あの人は私が幸せにするんだから。
今日は、映畫館で新作のアクション映畫を観ている。以前私たちが観たものの続編だ。主人公がばったばったと敵を薙ぎ倒す姿を夢中で眺める先輩は子供のようで可く、ついつい母がくすぐられて抱きしめたくなってしまう。こうして同じ空間で映畫を観ていると、まだ二人の仲が表面上にでも壊れていなかった時のことを思い出す。再びあんな風に笑いながら過ごせる時は來るだろうか。いや、私が頑張るんだ。
それからも毎日のように尾行をして、彼の行パターンを調べ上げた。家の位置や、登校時間、帰宅時間。夜中にコンビニに出かける事もあった。手にれた報であらゆる可能を考慮し、シミュレーションを行う。
そして、冬休みを明日に控えた今日、ついに私は作戦を実行に移すことにした。先輩の家には彼一人しか住んでおらず、訪ねてくる人間もいない。であれば、私が彼をそこに閉じ込めたとしても、誰にも見つかる事はない。
冬休みを丸々使って、ありったけの気持ちを先輩に伝えるんだ。先輩をしていると、先輩の事をちゃんと見ていると、理解してもらうんだ。
終業式終わり、先週チケットを買っていたし、新作の公開日だから、今日の先輩はおそらく映畫を観にいくはずだ。その間に、私は作戦の遂行に必要の道を揃える。
先輩が逃げられないように、縄や手錠を購する。先輩を無闇に傷付けたくないから、あまり痛くしないで縛れる方法も調べた。
最初にきを封じるために、スタンガンを使う事にした。睡眠薬だとれる隙を見極めるのも難しいし、家の前でちょうど眠るように調整するのも困難だからだ。その點スタンガンであれば、家の近くに待機して、先輩が家にるタイミングで襲えば誰にも見つからずに済む。
映畫が終わり、先輩が最寄駅に到著する頃、私も同じように準備を終えた。駅の近くで彼を待ち伏せし、バレないように後をつける。
こちらへ気付く素振りすら見せないので、自然と頬が緩んでしまう。あとしでやっと、やっと先輩と話すことができる。最初は怯えられてしまうだろうし、もしかしたら恨みのこもった言葉をぶつけられてしまうかも。でも、心からの想いを伝えれば、それはきっと屆くはず。
見ててね先輩。私、頑張るから。
家に近付き、先輩は鞄からキーケースを取り出す。そしてその足が家の敷地を踏もうとする瞬間、私は右手に持っているスタンガンの電源をれると、靜かに背後から近付いた――。
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