《【書籍版・講談社ラノベ文庫様より8/2発売】いつも馬鹿にしてくるモデルの元カノも後輩も推しのメイドも全部絶縁して好き放題生きる事にしたら、何故かみんな俺のことが好きだったようだ。》分岐點B-1

「優太君、今日もお店に來てくれてありがとう!」

「ううん。會えて嬉しいよ」

に捨てられて、後輩にも裏切られて。ボロボロの心を抱えた俺が向かったのは、メイドカフェだった。もちろん、ほんの出來心というやつだ。通うつもりはないし、特にメイドさんに期待もしていない。ただ、あの時の俺には人の溫もりが必要で、それが金で買った偽りのものであったとしても、それでよかった。

一年が経ち、仮の住処だと思っていたこの店は、いつしかかけがえのない居場所になっていた。

凍りついていた俺の心を優しく溶かしてくれたのは、推しのメイドであるユイちゃんだ。彼は他の人間と違って俺を罵倒せず、突然裏切る事もない。俺が髪を切った時、馴染はそれを笑ったが、ユイちゃんは煌めくような笑顔で、言葉を盡くして褒めてくれた。

ユイちゃんは俺の心の支えだ。自然と店に通う頻度は増えていき、今では週の半分をメイドカフェに費やしている。そして今日もまた、俺のことを包み込むように出迎えてくれる天使を目にし、心が安らぐ。

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「今日のメニューはどうする? にゃんにゃんパフェも良いけど、やっぱり私はチェキ撮りたいな〜」

「じゃあチェキ撮ろうか。あとはドリンクれようかな」

「ありがとう! ドリンクれてるね!」

そう言って彼はカウンターの裏へ回る。ユイちゃんの魅力は、何といってもその笑顔と素直なだ。どんな話をしても雑な返事をする事はなく、面白い時は太のような満面の笑みで、悲しい時はめながら話を聞いてくれる。

そんな癒しの塊のような彼が、何故人気がないかは理解できないが、なくとも俺からすれば世界で一番魅力的なの子だった。

「ただいま! 待たせてごめんね?」

「大丈夫、ドリンク作ってる姿もすごく可かった」

「えへへ、そうやって言ってくれて嬉しい!」

口をにまにまさせて喜ぶ姿は一層可憐で、心臓が強く波打っているのをじる。

「じゃあ、そんな優太君にご褒をあげようかな」

「なに?」

テーブルの下、足にらかい。ユイちゃんは悪戯な笑みを浮かべながら、俺の太ももをぽんぽんと二回叩く。どぎまぎしながらも左手を下へ持っていくと、すぐにひんやりとした手が俺を捕まえる。陶のようにすべすべで、まるで違う生きのそれのようだった。

「みんなにはだよ?」

「……もちろん」

ユイちゃんは周りの人間の隙を伺っては、俺にスキンシップを仕掛けてくるのだ。こちらとしてはとても嬉しいが、心臓が持ちそうにない。しかし、この背徳的な関係は癖になってしまいそうな魔力をめていて、いつも心では期待してしまっていた。

「じゃあ、そろそろチェキ撮ろっか」

「そうだね」

冷たい雪のような気持ちよさが離れてしまうのは名殘惜しいが、チェキも撮りたかったので甘んじてれることにする。俺たちは席を立つと店の外れに移し、撮影してくれるメイドさんが來るのを待つ。

「二人とも、お待たせ〜」

「リコちゃん、ありがとう!」

「こんにちは」

小走りでこちらへ向かってきてくれたのは、この店でも上位の人気を誇るメイドさんのリコちゃんだ。最近店したばかりだというのに、そのサバサバとした雰囲気と含蓄ある言葉で一躍人気をさらっている。さらに、ユイちゃんの話では二人は同じ學校に通っていて、とても仲が良いらしい。

それにしても……と、二人をまじまじと見つめて考える。茶髪のショートカットで中的な顔立ち。どちらかというとボーイッシュな面が目立つリコちゃんと、沖縄の海のようにき通った青く長い髪で、大きな垂れ目が印象的な、まさにキラキラした今風のの子というじのユイちゃん。この二人が仲良くなるビジョンというのが全然想像できない。もしかしたら、夕を背に毆り合うようなイベントを経た後に友が芽生えたのかもしれない。

「ぼーっとしてどうしたの? 二人とも、撮るから並んでね」

「はーい!」

「あ、はい!」

その言葉に我に返った俺は、ユイちゃんと隣同士に並んだ。

「今日のポーズはどうしよっか?」

「うーん、この間はうさぎをやったから……」

「あ、なら私にいいアイデアがあるよ! 真っ直ぐリコちゃんの方を向いて?」

「えっと……こう?」

「そう! そのまま前を向き続けててね!」

どんなポーズなのだろう。俺はとりあえず、彼に言われるがままに正面を向いた。

「じゃあ撮るね〜!」

リコちゃんが合図をし、チェキ機に手をかける。ポーズの意図が未だに摑めない俺は、橫目でユイちゃんを見ていると、彼は右手で髪を耳にかけながら、こちらへ近付いてくる。

近くないか!?

はどんどん距離をめ、それはやがて0に――

「ひやっ!?」

シャッターの音、フラッシュと同時に耳にらかいらかいがはむはむといていた。

「ふふふ……ひやっだって、可い!」

「心臓止まるかと思ったよ!?」

危うく彼を殺人犯にしてしまうところだった、本當に危ない。驚きと興で、俺の耳は茹で蛸なんて目じゃないくらいに真っ赤に染まっているだろう。というか、ユイちゃんは楽しそうに笑っているが、リコちゃんに怒られるんじゃ――

「全く……ユイ、バレないようにするんだよ?」

「はーい!」

メイドカフェは原則、お客さんとの過度なスキンシップとかとか、そういう類のことは止なのだが、何故かほぼお咎めなしだった。

本來なら抱いてはいけない。隠しているつもりの淡い心が、今の行によって殻を破って出てこようとしている。どうにかして耐えなければ。しかし、こんなことをされてしまっては、どうしても期待してしまう。

「優太君、今日も楽しいね!」

「……うん。ありがとう、ユイちゃん」

「どういたしまして!」

の真意は分からない。俺に好意を抱いてくれているのか、揶揄っているだけなのか。どちらであったとしても俺は、癒しと小悪魔を両立させたユイちゃんには勝てないだろう。

「あのさ、優太君」

なんだろう、妙に張しだ様子でユイちゃんがこちらを見つめている。両手で制服の裾を押さえて、大切な勝負に挑む直前のような力のりようだ。

「これ、私の連絡先――

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