《【書籍版・講談社ラノベ文庫様より8/2発売】いつも馬鹿にしてくるモデルの元カノも後輩も推しのメイドも全部絶縁して好き放題生きる事にしたら、何故かみんな俺のことが好きだったようだ。》分岐點C-1
もしもの話でした。
次回から第二章にります。
を刺すような冷たい風に負けないよう、を寄せて笑い合うカップル達。イルミネーションの青いは、後一月もすれば今年が終わってしまう事の寂しさを忘れさせてくれる。
いつにも増して賑わう町を見ながら、俺は両手をり合わせて、白い息を昇らせていた。
「ごめんユウ、お待たせ!」
予定時間を10分程過ぎた頃、背中の辺りまである、真っ直ぐでしい黒髪を靡かせながら、ようやく待ち合わせ相手が到著した。
「ユミ、遅いよ」
「ごめんね、服選びに手間取っちゃって」
焦茶で薄手のニットに黒いスキニーパンツ、ライダースのジャケットを羽織るように著ており、ヒールブーツを履いている事で長は男の平均長を悠々と超え、贔屓目に見ずともモデルだと分かってしまう。ニットと似たのアイシャドウ、リップが用いられたメイクは全にさらに統一を與え、もはや彼は一つの蕓作品のようだ。しかし、走ってきたせいで頬が蒸気し、赤みがかっているという一點で、ユミを人間だと判斷できる。
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「ま、いいか。行こう」
「うん、ありがとう」
こんなに綺麗な姿を見てしまっては、誰だって怒るに怒れなくなるというものだろう。軽い注意もほどほどに左手を差し出すと、躊躇する様子もなく彼は手を握る。細くしい手は、握れば今にも壊れてしまいそうだったが、人の溫もりを伝えるには十分な暖かさがあった。
「今日のユミも凄く綺麗だね」
「ほんと? 嬉しいな。ユウも惚れ直すくらいカッコいいよ。この間買ったコート、私の見立て通り良く似合ってる」
この會話から分かると思うが、実は俺たちは人同士なのだ。こんな人と俺との接點などないように思えるが、二人は馴染で、人生の大半を共に過ごしてきた。最初は兄妹のような関係だったが、俺の両親が死んで、辛い時期に寄り添ってくれたユミに対して、いつしか心の中には心が芽生えていた。
それはユミも同じだったようで、高校生に上がる頃、彼からの告白をける形で二人は晴れて人同士になったのだ。俺が優しさというものを見失っていた時も、彼が心を盡くして自分の目を覚まさせてくれたおで、今も俺は道を踏み外す事なく毎日を幸せに過ごせている。
そして俺たちは今日、以前から楽しみにしていたイルミネーションデートに來ているのだ。
「駅から會場までイルミネーションが続いてるんだね。びっくり」
「確かに、俺たちの地元じゃこんな大掛かりな仕掛けはないもんなぁ」
「クリスマスでもないのにすごい人だし、それくらい実が綺麗ってことなのかな」
他にも會場へ向かう人はたくさんいて、ほとんど列のような狀態で歩いている。歩道の反対側には見から帰ってくる人々がいて、皆一様に幸せそうな表をしていた。
「それにしても寒いな」
「最近一気に冷え込んできたもんね」
「カイロでも持ってくれば良かったかな。失敗したなぁ」
「ん、それなら……」
ユミは繋いでいる手を、俺のコートのポケットへと持っていく。
「これであったかいよ」
「……確かに」
手を同じポケットにれているおで、自然と二人の理的な距離も近くなる。左腕に當たる彼のはジャケット越しではあるが、意識してしまい自分の溫が上昇するのをじた。
「ユウ、顔赤くなってるよ?」
「気のせいだよ……お、イルミネーションが見えてきた」
「……ほんとだ。こんなに大規模にってるんだ」
徐々に近づくを見ながら橫斷歩道を渡ると、いよいよ會場である公園に辿り著いた。視界一面に広がる青いは、そこにいるだけなのに幻想的な気分にさせてくれる。
「すごい……向こうまで青一だ」
「海の中にいるみたいだな」
公園をし歩き、人がない場所でイルミネーションを見上げる。普段は大人っぽい印象のしゅっとした目は、今はのように見開かれていた。青いが整った顔に被さり、ユミはまるで違う世界の人間のようで、手の屆かない存在であるかのように強くじてしまう。
彼は、俺とここへ來て幸せなのだろうか。こんなにもしいのだから、俺なんかよりも遙かに優れた男からも引く手數多だろう。それこそ、モデルの仕事で一緒になった男なんかからアプローチをけるはずだ。それでも俺と一緒にいる意味なんて――
「あるに決まってる」
一瞬の間があり、驚いてユミの方を見る。俺は言葉に出していないはずだが、彼の言葉は俺の疑問にぴたりと返答していた。
「……なんで分かったんだ?」
「何年一緒にいると思ってるの? ユウが考えてる事なんて手にとるように分かるよ。私はユウが好きだから一緒にいるの。優しいところも、カッコいいところも、気が使えるところも、一緒にいて落ち著くところも、全部大好きだから一緒にいたいの」
目を細めて優しく微笑む彼の姿に気付かされる。そうか、俺が彼を選んだように、彼も俺を選んでくれたのだ。數ある選択肢の果てに、今がある。この世界でユミを幸せにできるのは、きっと俺だけなのだ。
「……俺も、ユミと一緒にいれて幸せだよ」
「私も。いつだって私は、ユウの事を一番に考えてるんだから」
ふふ、と気分が良さそうに、繋いでいる手に力が込められる。それに負けないよう、俺も同じように想いを込める。
「あ、雪だ……」
「本當だ……綺麗……」
まるでドラマみたいなタイミング。しかし、本來であれば釘付けになるはずの雪を見ていたのは一瞬で、俺の視線は隣に注がれていた。
白い雪が、彼の黒い髪の艶やかさを際立たせる。儚げに揺れる瞳は、何を思っているのだろう。
もしも違う世界があったとして、違う未來があったとして。そこでは俺はユミとこうして笑い合っていないかもしれない。それどころか、二人はもはや関わりのない他人になっているのかも。なら、せめてこの世界でだけは、俺は彼のことを幸せにしたい。自分の一番の理解者を、同じように解ってあげたい。
嗚呼、どうか。この幸せが永遠に続きますように。
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