《【書籍化決定】ネットの『推し』とリアルの『推し』が隣に引っ越してきた~夢のような生活が始まると思っていたけど、何か思ってたのと違う~》スーパーマーケットの合戦
前話と関係があるかもしれないセリフです。
「初めましてっす。バーチャリアル所屬のゼリアってVTuberやってる本名(ほんな)みやびっす。ほんみょうって書いてほんなっす!」
「真冬ちゃんさ、今日の夜飯リクエストある?」
「リクエスト? うーん…………」
講義が終わった俺は真冬ちゃんと合流し、大學沿いの道を歩いていた。この辺りはまだ生徒が多いからか真冬ちゃんは大學モードを維持している。地元駅を降りた辺りでマンションモードに変わる事を俺は経験から摑んでいた。
「…………」
真冬ちゃんは顎に手を當てて考え込んでいる。
合鍵を3人が使うようになってからも、なんだかんだ真冬ちゃんと一緒にいる時間が一番多かった。やはり同じ大學に通っているのは大きい。朝も一緒に通學しているし、帰りもそうだ。帰りが一緒という事は買いも一緒という事で、最近はレジのおばちゃんにカップルだと冷やかされるようになった。真冬ちゃんが否定しないので、おばちゃんは完全に俺たちを同棲中の彼氏彼だと勘違いしていた。
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「…………一緒に作れるものがいいな。蒼馬くんと一緒に作れるもの」
「一緒に作れるものねえ…………」
ぶっちゃけ大抵の料理は一緒に作れるんだが…………それにしても一緒に作れるものとは、一どういう風の吹き回しだろうか。今までは料理中に勝手に家にり込んでは、きの取れない俺にちょっかいをかけたり、ベッドで寢たりと傍若無人の限りを盡くしていたはずだが。
「作ろうと思えば何でも一緒につくれるけど。どうしたの急に」
「私も料理覚えたいなって思って」
「ああ、そういうこと」
そういや真冬ちゃんは靜と違って料理を覚える気があるって言ってたもんな。料理を教えるには一緒に作るのが一番手っ取り早い。真冬ちゃんの提案は頷けた。
…………真冬ちゃんが料理を覚えてくれたら蒼馬會の料理擔當も俺だけじゃなくなるし、それはつまり俺の負擔が減ることを意味している。まさにいいことづくめだ。
「それじゃあカレーにするか。今日は蒸し暑いし、こういう日はカレーに限るからな」
「カレー? 納豆買ってもいい?」
「お、真冬ちゃんカレーに納豆かける派?」
「うん。お母さんがやっててね。気が付いたら私もハマっちゃったの」
「分かる分かる。醤油出がカレーにマッチして味いんだよなあ。俺も今日は納豆カレーにしようかな」
「ふふ、お揃いだね」
真冬ちゃんが橫を向いて僅かに微笑む。真冬ちゃんは大學でこそ冷たい人形のように言われているけれど実際はそんな事はなく、よく見れば喜怒哀楽がはっきりしている。たまにワザと真顔を作ることはあるけど。
駅に到著した俺たちは丁度やってきた電車に飛び乗った。
真冬ちゃんが乗り込むと、乗客たちがちらちらと真冬ちゃんを見ているのに気が付く。それはもう見慣れた景だった。普段一緒に居るから意識せずに済んでいるけど、真冬ちゃんはとても整った顔立ちをしている。こういう場所に來ると、どうしても男連中の目を惹いていた。
「…………」
俺は出來る限り乗客から真冬ちゃんを隠すように立ち位置を変えた。これもいつもの事だ。別に真冬ちゃんがその視線を嫌がる素振りを見せたことはないが、なくともいい気分ではないはずだろう。そう思ったらが勝手にくんだ。
「…………ありがとう、お兄ちゃん」
真冬ちゃんが何かを呟いた気がしたけど、電車の走行音がかき消した。聞き返しても答えてくれない予がして、俺はそのまま窓の外に視線を向けた。
真冬ちゃんに促されるままカレーを味く作るコツを伝授していたら、俺たちを乗せた電車が最寄り駅に到著した。
「お兄ちゃん、行こ」
真冬ちゃんが俺の手を引いて歩き出すと、乗客が驚いたような目で俺たちに視線を向ける。すっかりマンションモードになった真冬ちゃんは遠慮を知らない。スーパーのおばちゃんにカップルだと勘違いされる理由は、この人繋ぎにあるんじゃなかろうか。それが分かったところで、この手を解く理由にはならないけど。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんのエプロンってどこで買ったの? あの花柄のやつ」
「あれか? 100均で買ったんだったかなあ。スーパーの中にってる」
「ふうん…………私もそれ買おうかな。料理するならエプロン必要だし」
「それならもうしちゃんとした所で買った方がいいんじゃないか? 100均、全然種類無かった記憶あるけど」
の子だし、柄が沢山あった方が選ぶのにいいんじゃないか。そう思ったんだが真冬ちゃんは首を橫に振った。
「100均でいいの。花柄好きだから、私」
「? そうだっけ」
どちらかと言うと無地を好んでいる印象があったけどな。真冬ちゃんの部屋とかモロ、そんなじだし。
スーパーにると、真冬ちゃんが100均に向かって一直線に歩き出す。俺の手は真冬ちゃんによってがっちりロックされているから、俺も著いていくしかなかった。
「────あった」
真冬ちゃんが迷いのない手つきで、數種類しかないエプロンからひとつを選び出す。見覚えがある気がしたし、無い気もした。俺のエプロンってどの柄だっけ。花柄なのは覚えてるんだが。
「それでいいの?」
「うん。これがいいの」
真冬ちゃんがエプロンをレジに持っていく。
レジの時くらい手を離せばいいのに、真冬ちゃんは絶対に離そうとしない。
高校生くらいの男の子がエプロンを手に取り、次に真冬ちゃんの顔を見て數瞬固まり、最後に繋がれた俺たちの手を見て奇妙な表を浮かべた。
「世の中には全然釣り合ってないカップルもいるんだな」そんな事を思ったのかもしれない。口に出してくれれば訂正出來るんだが、男子高校生は生暖かい視線を俺に向けるだけだった。
「ありがとうございましたー」
30パーセントくらいしかやる気が籠められてない間延びした聲を背中に浴びながら、俺たちはスーパーのフロアに移し、カレーの食材をし始めた。
────そんな時。
「なっ、なななななんで真冬と蒼馬くんが手ぇ繋いでるのよーッ!」
「ん?」
「…………ちっ」
スーパーにはそぐわない大聲。出來れば無関係を裝いたかったが、いかんせんその聲には聞き覚えがある。嫌々視線を向けると、し向こうに靜の姿があった。周りの客に見られているのを気付いていないのか、ずんずんとこちらに向かって歩いてくる。
「どういうことか、説明して貰おうかしら!?」
不機嫌を隠そうともしない靜が、納豆とキャベツの間で仁王立ちする。邪魔だから通路に立つな。俺は靜の手を引いて端に引き寄せた。
「これを見て分からないの? 悪いけれど、レジの佐藤さん公認だから」
真冬ちゃんが繋いだ手を目線の高さまで持ち上げると、靜がいよいよ般若の如き顔つきになった。
「いや、レジの佐藤さんって誰だよ」
悪いが顔も浮かんでこない。そんな人に何かを公認された覚えはないのだが。
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