《【書籍化決定】ネットの『推し』とリアルの『推し』が隣に引っ越してきた~夢のような生活が始まると思っていたけど、何か思ってたのと違う~》真冬・ダークネス

「…………とりあえず、私がコンビニに行くわ。何買ってくればいいの?」

ベッドに橫になり寢息をたてている靜をチラッと見た後、真冬ちゃんが口を開いた。靜は丁度寢ってしまったらしく、いつの間にか目を閉じていた。タイミングがいいのやら悪いのやら…………

突然の登場に面食らいながらもスポーツドリンクやらゼリー型飲料やらプリンやらしいものを伝えると、真冬ちゃんは5分ほどで帰ってきた。

「冷蔵庫にれておくから」

「あ、ああ…………ありがとう、助かった」

先程の真冬ちゃんからは何やら殺気のようなものまでじたのだが、どうやら勘違いだったらしい。俺は気付かれないようにでおろした。

「…………何これ。どんな生活してるのよ」

リビングからは呆れたような真冬ちゃんの聲。直前に冷蔵庫のドアを開ける音が聞こえたから、きっと中が凄い事になっているんだろう。そういえば靜の冷蔵庫を開けた事は無かった。一何がっているんだろうか。賞味期限切れので溢れてそうだな…………と思うのは流石に失禮か。

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しばらく冷蔵庫にれる音だけが響いて、その後真冬ちゃんの足音が近づき、やがて背後で止まった。

急に現れた時はびっくりしたけど…………來てくれて助かったな。風邪を引いたというのは伝えていたから、きっと心配して様子を見に來たんだろう。普段は喧嘩ばかりしている印象がある靜と真冬ちゃんだけど、本當はお互い憎からず思っているんだろう。喧嘩するほど仲が良いという言葉もあるし。俺はなんだかほっこりした気持ちになった。

「ところで────さっきの話だけれど」

「ひッ…………!?」

一気に氷點下まで冷え切るような真冬ちゃんの聲に、思わず息がれる。

────背中に、暗殺者が立っている。そんな錯覚に陥った。

「勿論私は発熱者の妄言だと思っているんだけれど…………を見たって、どういうことかな? …………おにいちゃん?」

先程綺麗に掃除したばかりのリビングで、俺は床に膝をつけ、握りこぶしを太ももの上に揃えていた。ははは、掃除しておいて良かったなあ。おで正座がしやすい。ゴミが落ちてたら正座出來ないもんなあ。ははは。

「…………本當に偶然なんです…………」

スマホを確認することは出來ないが…………とうに大學の晝休みは終了しているだろう。そう確信できるくらいの時間、俺は真冬ちゃんの前でこうしていた。足はもうとっくに痺れていてそろそろ涙が出そうだ。

「お兄ちゃん、さっきから言ってるよね? 偶然かどうかなんて…………関係ないんだよ?」

怖い。

すっかりマンションモードになった真冬ちゃんの甘ったるい聲が、今だけは何故だか震えるほど怖かった。怒っているはずなのに何故か笑顔なのも怖すぎる。まだいつもの真顔で怒られた方がマシだと思えた。

「反省してます…………」

しかし、悲しい事に理は真冬ちゃんにあるのだった。事はどうあれの子のを見てしまった。そこに偶然かどうかなんて関係あるはずがない。ノックも無しに部屋にってしまったのは、間違いなく俺の落ち度だった。そうしてその事について考えるたびに浮かび上がってくる靜のを、俺は必死に思考の片隅に追いやった。當然ながらの子のなんて見たのは初めてで、いや、もしかしたら小さい頃に真冬ちゃんと一緒にお風呂にったような記憶がないでもないんだが、なくとも明確に男別について自覚してからは初めての事だった。

さっきは病人が目の前にいたからその事について意識せずに済んでいたけど、こうしてし時間を置いてしまえば、それはそれは衝撃的な映像だったんだ。ハタチの男には衝撃が強すぎた。いや、もう、だから考えるな。あのを記憶から消さないと、俺は靜の顔をまともに見れなくなってしまう。

「お兄ちゃんが昔、お風呂で私に言ってくれた事…………覚えてる?」

「俺が真冬ちゃんに言った事…………?」

お風呂にったあのおぼろげな記憶は、やはり現実だったのか。そして殘念ながらお風呂にった事すら薄っすらとしか覚えてないのだから、そこでした會話など全く記憶にない。俺は一何を言ったんだ…………?

「…………ごめん、覚えてないかも」

「そっか。でも、そうだと思ってた。あのね、お兄ちゃんはこう言ったんだよ────大人になったら、私と結婚してくれるって」

「ええ…………?」

言ったか…………?

いやまあ覚えてはないから言ってないとも言い切れないんだが、なくとも當時の俺は真冬ちゃんには抱いていなかった。妹のように思っていたんだ。それは今と変わらない。だから、昔の俺がそんな事を言うようには思えなかった。そもそもそんなセリフは俺には似合わないだろ。その頃はにあまり興味も無かったし。

しかし、頬を赤らめてをくねらせている真冬ちゃんを見る限り、全くの噓とも思えない。狀況証拠的には、もしかしたら言ったという事も無くはないのかもしれなかった。

「だからね、お兄ちゃんは私と結婚するの。それなのに…………他のを見るって、一何を考えてるの?」

けていた真冬ちゃんの顔が急に真顔になり、責めるように俺を見つめてくる。真冬百面相。

「いや…………そんなこと言われても…………」

ツッコミが追い付かない。一どこから誤解を解けばいいんだ。とりあえず、一番大事な所からか。

「俺、現狀真冬ちゃんと結婚するつもりはないよ…………」

「なっ…………!?」

真冬ちゃんは、膝から崩れ落ちた。

「どうして…………」

「そもそもさ、俺本當に結婚するなんて言ったのかな? ごめん、本當に言ったんなら無責任だけど」

でもさ、小さい頃のそういうセリフを本気にされるのもちょっと違うような…………そういうのって、フィクションだから面白いんじゃないか。

「言った…………確かに言ってくれたのに…………結婚してくれるまで湯舟から出ないって言ったら、しぶしぶ約束してくれたのに…………」

「…………無理やり言わせてるじゃんそれ…………」

何となく腑に落ちた。そういう事なら言っててもおかしくはない。

「そういう訳でさ、その昔の約束はナシって事に出來ないかな。今は結婚とかそんな事言われても全然実湧かないっていうかさ。真冬ちゃんもだってそうでしょ?」

「私は…………そんな事ない…………」

項垂れながら真冬ちゃんが何かを呟いているが、小さくてよく聞こえない。膝をつき、がっくりと肩を落としている真冬ちゃんを見るのがどうにも忍びなくて、俺は真冬ちゃんに近づくとその頭をでた。真冬ちゃんの気持ちは素直に嬉しかった。

「あの…………真冬ちゃん…………? そんなに俺の事を好きでいてくれるのは正直嬉しいんだけどね…………? 俺も別に真冬ちゃんの事が嫌いな訳じゃないからさ、そんなに落ち込まないでくれると嬉しいというか……ね? 結婚とか急に言われても戸うってだけだから…………おわっ!?」

急に抱き著いてきた真冬ちゃんに押し倒され、俺たちは床に転がった。

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